今日はお祖父ちゃんが来る!!
待ちに待った夏休み。
青く澄み渡った空に、ポカンと浮かんだ入道雲。
大きく息を吸うと、うっすら潮の香りがする。
近くの山からは様々なセミ達のオーケストラが聞こえる。
ここは九州の左端の田舎町。
海に近く、山にも近い。
田舎とはいうものの、団地住まいだから友達にも不足しない。
そんな所で育った俺の小学生の時の話。
家族との旅行の予定も消費し、これといってイベントもなくなった夏休みの後半。
お祖父ちゃんが来ることになった。
母に頼まれ、バス停まで迎えにいくことになった。
『おう、S。元気しとったか?』
いつもニコニコしていて、恵比寿さんのような福耳を持つお祖父ちゃんが大好きだった。
他愛もないことをはしゃぎながらお祖父ちゃんに話すと
『そうかそうか。』
とニコニコ相槌を打ってくれる。ニコニコの笑顔が大好きで、いろんなことを話していた。
しかし、僕が住む棟についた時、急にお祖父ちゃんの笑顔が消え、近くの駐輪場のある一点を見つめている。
目線の先にあったのは…………
蚊。
うん、蚊。
めっちゃデカい。
ガガンボって知ってるかな?蚊のデカい奴。
デカいっつっても、手のひら二つ分ぐらい。
地域によっちゃーカトンボとか呼ばれているらしい。
でも、デカい。
当時小学四年生だったが、幅が両手いっぱいぐらい。高さは、胸ぐらい。
正面から見ると→Mみたいな形。
えっ?と、思っているとお祖父ちゃんの優しい手が目を覆った。
『アムヨか。そうか、まだおったのか。近頃は緑も随分減っとるばってん、そうか、まだおったか。あれはな、神様なんだよ、S。悪かもんでも、良かもんでもなかばってんな。』
アムヨと呼ばれたそれは、蚊独特のブ~ンという音と共に、こっちに近付いているようだ。
姿を見ようとジタバタするが、お祖父ちゃんの手はあくまで優しく、しかし強く目を覆っている。
『見ちゃいかん。いや、見んちゃよか。蚊は気付かれないように近付いて、血ば吸い、そして痒みば残す。
アムヨも同じようなもんばってん、ちと違う。
気付かれないように近付いて、血じゃなくて寿命を吸う。
しかし、痒みじゃなく、吸われた本人以外に幸福ば残す。子宝だったり、財産だったり。
しかし、気付かれると蚊のように逃げてしまう。
S。Sは、他人の幸せを願える人になって欲しい。』
そう言うと、お祖父ちゃんは
『うっ。』
っと唸った。
あぁ次は自分の番なんだ、と思ったがあのブ~ンという音は遠のいていた。
『幸運が舞い降りたのう。』
白々と視界が元に戻ると、またあのお祖父ちゃんの笑顔がそこにあった。
『S。わしはS達孫らの幸せがいっちゃん嬉しか。寿命が短くなるなんて、蚊にさされたぐらいのもんさな。』
と、ガハハハと笑った。
それから10年ほどして亡くなったが、アムヨのせいだったのかは分からない。
ただ、孫一同みんなスクスクと育っています。
皆、お祖父ちゃんが大好きです。
アムヨがなんだったのかは、全くわからない。
ただ、お祖父ちゃんの愛を再確認させてくれた一件でした。
アムヨについて知っている人はカキコをお願いしたい。
他のご老人に話を聞くと、アムヨの姿は神社の狐だったり、シダレヤナギだったりまちまちのようです。
多分擬態しているのだと思います。
妖怪なのか神様なのか。
気になります。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿タイ製改め、罰天さん
作者怖話