ある夏の日、猛暑日なる言葉が使われだした年のこと。
まさにその日がそうであった。
黒光りのするアスファルトが熱せられて独特な匂いを放っていた。
私は、不快なその匂いを嗅ぎながら視線の先に見える陽炎を追い掛けるように、次の営業先へと重い足取りを進めていた。
そんな私に追い打ちをかけるように、急な登り坂が立ちはだかる。
登り切るまで40mといったところか…。
照りつける日差しが入らないように薄目で坂を見上げた。
坂の上でも陽炎がゆらゆらと待ち構えている様が億劫にさせる。
私は、意を決して登り始めた。
唸るような暑さの中での登り道だ。
腿やふくらはぎの気だるさから、自然と視線は下がるものである。
俯いまま半分の20mくらいは登ったであろうか、立ち止まり再び登り方面へと目線を上げた。
今度は、瞼を開いてしかっりとした視線を送る。
坂のてっぺんで、相変わらずゆらゆら揺れている陽炎。
…だが、違和感を感じる。
それが何なのかは、まだ分からないのだが…。
非常に嫌な気分だった。
怪訝な表情を浮かべつつも、すぐに仕事のことに頭の中はシフトチェンジし、再び歩みを進めた。
そして、ほどなくして登り切った…。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話