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中編3
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異様な乗客

その日は飲み会で24時近くまで飲んでいた。終電に間に合うか間に合わないかという際どい時間。

慌てて駅に滑り込む。電光掲示板に【人身事故により遅延】という文字を見つけた。「ラッキー!」と率直に思った。

ホームには人が溢れていた。停まっている車両の中にも沢山の人がいた。

「え、ここで事故が起きたの?」

構内アナウンスや、周囲の人のざわつきからして間違いなさそうだった。

先頭車両の方が騒がしい。けたたましいサイレンの音が聞こえてきた。警察と消防(救急)が両方きたようだ。

テープで先頭車両付近は封鎖され、物々しく死体回収と検証が始まった。

「これは長くなりそうだ…」

安全確保の為、電車内の電気も消された。

先頭車両に至ってはクレーンみたいなもので、持ち上げられ始めた。

「死体が見つからんのかな〜」

そんなことを思った。

先頭車両に程近いベンチに座っていた私の耳に野次馬達(私もだが)の会話が入ってきた。

野次馬A「なんか頭が2つあるっぽい。頭2つって警察が言ってた。」

野次馬B「飛び込んだの1人じゃないの?」

興味深いとは思いつつも、その頃にはもう早く帰りたいという思いが勝っていた。なんでもいいから早く運行を再開して欲しかった。

人の数は急激に減っていった。車で迎えにきてもらった人、タクシーで帰る決断をした人なんかが次々といなくなった。

当時一人暮らしで金もなかった私は、ただ電車の再開を待つしかなかった。

1時間強くらいで、安全確認が済んだとのアナウンスが流れた。

「意外に早かったな」と思いつつも、先頭車両の真ん中辺りに乗りこんだ。

多くの人が帰ったのもあって、車内は差ほど混んでいなかった。とは言え座れもしなかったので、立って携帯をいじりながら出発を待った。

運転手の謝罪アナウンスと共に電車が動き出した。

車内は異様に静かだった。皆疲れているのだろうか。

かくいう私も知り合いに「やっと電車動いたわ。疲れた〜マジでついてね〜よ〜(゚Д゚)」などとメールを打っていた。

メールを打ち終わり、携帯から顔を上げた。

前の人が手にしている紙袋と目があった気がした。

紙袋と目があった…?

慌てて視線を紙袋に戻した。

目があった。正確には顔あった。

紙袋の中に女に見える顔があった。

一気に身体中の毛が逆立つような感じがして、慌てて紙袋から目を逸らした。

紙袋の中の女の顔が頭から離れない。

べっちゃりとした髪、黄色い肌、濁った目…

その場からすぐにでも離れたかったが、自分が紙袋の中の顔に気づいたことを悟られてはいけないという感じがして動けなかった。

紙袋をぶら下げているのは、サラリーマン風の男だった。窓の外を見つめたまま微動だにしない。

微動だにしない…吊り革を持ってもいないのに微動だにしない。身体が揺れていない…

人じゃない。

咄嗟にそう思った。

完全に硬直していた。紙袋からは相変わらず視線を感じる。随分長く時間が経った気する…

次の停車駅について、弾けるように電車を降りた。

電車が行ってしまった後、終電だったことを思い出してガックリきたが、安心感の方が勝っていた。その日は駅の外で始発を待って帰った。

次の日の新聞にはこうあった。

2日午前0時20分ごろ、東京都武蔵野市のJR中央線三鷹駅で、東京発高尾行き列車に男性が飛び込み、死亡した。東京−高尾間で下り線が1時間以上運転を見合わせ、同1時35分ごろ運転を再開した。

運転士の証言から、警視庁武蔵野署は男性が自殺を図ったとみて身元を確認している。現場には死後数日経過していると思われる女性の頭部も同時に見つかっており、男性が自殺の際に持ち込んだものと見て調査を進めている。

怖い話投稿:ホラーテラー Ssさん  

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