ミニライブで見たあの男…
なぜか俺だけしかその男を見ていなかった。
気にしつつも日にちが経つにつれて、男の存在は次第に頭の片隅に追いやられ、俺は完全に忘れていた。
彼女達の新曲の発売から時間も経ち、いつもの日常が戻った。
HN:真夜中の珍入者サン
「今日のうたぼんの我苦斗とタカさんとの絡み超ウケたw」
HN:クリリンの事か!?サン
「禿同w」
HN:カリン様は雑種サン
「やっぱりこの番組は絡みが濃いな…もうすぐ新曲出るっぽいし、彼女達もまたうたぼんでてくれないかなぁ…」
HN:通りすがりさん
「〜夢素女情報〜
9月○日新曲『夏夜街』発売。
発売記念ライブ&握手会
開催ケテーイ!
新曲発売日に秋羽原ライブスタジオ〇〇にて、
18:00から開催!
ソース→ttp://〜…」
俺はこのレスを見た時、目がMAXまで開き、宝くじが当たったかのように狂喜乱舞した。
HN:カリン様は雑種サン
「ネ申キターーー(゚∀゚)ーーー!!」
HN:クリリンの事か!?サン
「乙(´∀`)ノシ」
HN:匿名サン
「仕事休まないとw」
HN:真夜中の珍入者サン
「握手会…(´д`)ハァハァ…
失礼のないようにアルコール除菌してから行きまつ!(^^)ノシ」
握手会などはデビュー以来してなかったので、俺は早くもドキドキが止まらなかった。
あれ?
このスタジオって…
あの男と会ったスタジオだ…
偶然にも同じスタジオで、俺は思い出してしまった。
HN:真夜中の珍入者サン
「そういや、前回このスタジオでスーツ直立男見たから、またきて同じ事してたら、今度こそ俺の眠ってた獅子が沈黙を破り目覚めて、鉄の拳が火をふくぜ…
o-_-)=○☆」
HN:クリリンの事か!?サン
「珍氏、前に言ってたね…もしまたいて俺も見つけたら、俺も参戦するわ。」
HN:カリン様は雑種サン
「カリンもいくぞ!」
HN:匿名サン
「我らの絆と力を示す時が…きたようだな…」
俺のレスから、皆もスーツ男をチェックしてくれる事になった。
あのヤロウ…
来れるなら来てみやがれ…
喧嘩のけの字も知らない俺で、もし殴り合いになったら2秒で
「ごめんなさい!」
と言う自信はあったが、彼女達に対しての気持ちは負けん!と強気な覚悟でいた。
ライブ&握手会当日。
開演前、スタジオの扉が開く前から俺は周りの同士達を警戒しスーツ男がいないか探していた。
どうやらいないな…。
気持ちよくライブに集中できると思った。
開演までそれぞれ携帯いじったり、ヲタ雑誌を読んだり、ガンナムのカルトクイズ出し合う者達など、時間を潰していた。
俺は携帯からサイトにアクセスした。
HN:真夜中の珍入者サン
「同士達よ…どうやらスーツ野郎はいないみたいだ…安心してライブに望むべし(´∀`)」
HN:クリリンの事か!?サン
「ラジュ!」
HN:カリン様は雑種サン
「(`_´)ゞ了解!」
HN:匿名サン
「我らの力に臆したか…」
HN:匿名サン
「ヤバス…拙者、ライブ初めてで早くも緊張が…」
HN:匿名サン
「もちつけ!緊張するのはわかるが、オマイの情熱を彼女達に伝えるだけだ!」
開演待ちで、すぐ横の携帯いじるヤツが書いたレスかもしれないのに、掟に従い俺達はサイトで会話を続け、やがて時がきたようだ。
扉が開き、わぁーとか、うぉーとか叫びながらステージ前へ駆け寄る俺達。
やがて暗くなり、
高まる胸の鼓動……。
曲が鳴り始めスタジオは楽園と化した。
それぞれ全力で体を揺らし、情熱を伝える。
新曲で振りなんぞ決まってないのに、だんだん皆が揃ってきて、より絆が深まってる気がした。
曲が最高潮の時、
Σ( ̄□ ̄)!!
奴だ…
スーツ野郎がいやがる…
さっきまでいなかったのに、いつのまにか最前列にいやがる…
このボケが…
また直立してやがる…
すると彼女達のセンターの阿部が一瞬歌と踊りが止まって青い顔してた。
だがすぐに再開してたが俺はその違和感を見逃さなかった。
やがて何とか無事にライブは終わり、阿部は真っ先にステージ袖へ…
明かりが戻りヲタ達はザワザワと慌ただしく新曲の事を語り出し、スタジオは熱気が収まらない。
激しく動く同士達でスーツ野郎を見逃してしまった。
ライブから握手会までちょっと時間あったので、急いで携帯を取り出す。
HN:真夜中の珍入者サン
「オマイラ!!さっき奴がいたぞ!!」
HN:カリン様は雑種サン
「何?!どこにいやがる?!」
HN:クリリンの事か?!サン
「オノレ…どこにいるんだ?!」
サイト常連組は新曲の事よりスーツ男の事に食いついた。
残念な事に見失った事を伝えた…
その後、携帯いじる何人かが顔をキョロキョロ動かし男を探そうとしていた。
俺も必死に探したが、結局見つからない…
見逃し悔しい思いのまま握手会の列に並ぶ…。
少しして、とてつもなくでかい便意を感じた俺は、握手会まで5分はあったし、列から離れて古い廊下を歩きトイレへダッシュ。
用を足す最中も男の事が頭から離れない…
無意識にブツブツ文句を言いつつ廊下へでると…
あの野郎だ!!
廊下をゆっく歩いてやがる!
哲雄「こ…こ…この…」
みるみる湧き出る怒りと、反撃され殴られる恐怖と葛藤する俺。
哲雄「こ…このやろ〜うが〜〜〜!!」
距離を確認した俺は怖かったし、目をつぶったまま、決死の覚悟でヘタレなりに背中から殴ろうと、男へ後ろから駆け寄る。
哲雄「あふっ…ん…」
目を瞑ってたもんだから、足がもつれ盛大に転がる俺。
あれ?
男にぶつからなかったぞ?
距離的にぶつかっているはずなのに…
うつ伏せのまま目を開け、必死に考えていると…
急に倒れてる俺の“左肩”から足が飛び出した。
哲雄「ひぎっ!!…」
男「……(ブツブツ)……」
男は倒れた俺の体をすり抜けて歩いていた。
下から見えた顔は真っ白…。
そのまま前へブツブツ何か言いながら歩いて行き、曲がり角で直進し、壁の中へ消えた…
哲雄「……ひ…ひん…ひぐ…ひん……ふぎぃ…ひぐ……」
訳がわからず泣く俺。
頭は大混乱でパニック。
泣き、混乱しつつも握手会の事を思い出してそのままトボトボ握手会の列に参加…
大の男が泣き、
鼻水流してるんだ…
ヲタの俺でもわかる位、彼女達は引いていたが、さすがはプロ、笑顔で握手してくれた。
その嬉しさでさらに泣く俺…
ダサ卓よ…俺…
…orz…
周りの同士達からも睨まれつつ、スタジオを後にする…
その後、必死に皆に説明したのだが、信じてもらえなかった…
センター阿部も男に気づいて恐ろしくなり止まったのかはわからない…
しばらく男と新曲の話題が半々でサイトで書き込みされ続けた。
数日後…
HN:某〇〇関係者サン
「あのスタジオ…でるよ。
あのスタジオは新人アイドルがブレイクする前によく使われるスタジオで、今まで何人かのアイドル達がライブ中見てしまい、
終了後に倒れた子も何人かいる…
見てしまったアイドルは皆、同じようにスーツ姿の真っ白な顔の男に、鋭い目で見つめられてたらしい…
あの古い歴史あるスタジオで、
過去に亡くなった男はいないし、
多分どこかのアイドル好きだったヲタの霊がスタジオに取り憑いたのだろうとスタジオスタッフの間では有名……」
という書き込みがあったが、ソースもないし、ネットにはありがちな都市伝説として語り継がれたが、実際に見てしまった俺は…
ガクブル…
その後、
そのスタジオに、
どんなに好きなアイドルがきたとしても…
俺が行く事は無かった…
…だって怖いじゃん…
…orz…
怖い話投稿:ホラーテラー Shadyさん
作者怖話