先日、保育所の時にお世話になった先生と再会しました。
八年も経ったのに、その先生は昔と変わらずとても綺麗でした。
今から紹介するのは、その先生から聞いた、ある男の子の話です。
その男の子は親の迎えが遅く、いつも夜遅くまで保育所にいることが多かったそうです。
男の子はその時間を、たいていは絵を描いて過ごしていました。
先生は男の子がいつも無心にクレヨンを走らせているのを見て、微笑ましく思っていたそうです。
ある時先生が男の子に尋ねました。
「何描いてるの?」
男の子が見せてくれたのは、一冊の絵本でした。
型紙に描いた、手作りの絵本。丁寧に表紙まで付いています。
先生は最初感心していましたが、読み進めていくうちに戦慄しました。
その絵本は大体こんなあらすじです。
男の子(あるいは女の子)の「ゆう」は、家族でピクニックに出かけます。
しかし「おとうさん」と「おかあさん」は言い争いを始め、「おとうさん」は「おかあさん」を殺してしまいます。
「ゆう」は「おとうさん」に言われるまま、「おかあさん」を埋めるのを手伝います。
「ゆう」は「おとうさん」に怒りを覚え(その経緯は記されていない)、「おとうさん」を殺します。
一応バッドエンドに分類されるストーリーですが、文の最後は「めでたしめでたし」で締めくくられていたそうです。
先生はその時の事を、今でも鮮明に覚えている、と話していました。
それからしばらく雑談をした後、僕たちはそれぞれ家路に着きました。
先生は最後まで気づかなかったみたいですが、僕がその絵本を描いた男の子です。
多分他の子と勘違いしていたのでしょう。
まるで他人の話をするように、僕にその時の状況を話すので、正直どう対応していいか困りました。
当時は親や先生の間で話題になったらしく、いろんな人に注意を受けたのを朧ろげに覚えています。
家に帰り、幾つかの引き出しを調べるとその絵本はありました。
今ではどうしてこんな絵本を描いたのか、僕自身分かりません。
小さい頃の記憶は、思い出せないことの方が多いです。
怖い話投稿:ホラーテラー 聖仕官さん
作者怖話