これは10年ほど前、私の母の身に本当に起こった出来事である。
幽霊などは出てこないのであしからず。
当時私は実家に両親と共に暮らしていて、自室は二階だった。
ある日の深夜、階下が騒がしい気がしたのだが、私はそのまま寝てしまった。
翌朝憔悴した母の口から、恐ろしい話を聞くこととなる。
両親は布団を並べて寝ているのだが、母は突然激しい頭痛を感じ目を覚ました。
その痛みは凄まじく、文字通り頭が割れるようだったと言う。
そしてその痛みと共に、
ガリガリと何かを引っかくような大きな音が聞こえる。
あまりの痛みと騒音に母は悲鳴を上げ、父も目を覚ました。
母は頭痛と騒音をしきりに訴えるのだが、頭痛はともかく父にはその音は全く聞こえなかった。
しかし母の悶絶振りは激しく、思案した父は突然何かを思いついて懐中電灯を取り出した。
そして、騒音が聞こえると言う母の左耳の中を照らしたのだった。
そこには、奥へ奥へともぐりこもうとする黒い物体があった。
そう…。
母の耳にゴキブリが侵入していたのだった。
父は大急ぎでピンセットを取りに行き、
黒光りするその肢体を慎重に引きずり出した。
人間の耳などというわずかなスペースにどうやって入ったのかと感心するほど、やつは巨大だった。
補足された侵入者は父によってギロチンの刑に処されたが、翌朝私もその亡骸を見せてもらった。
ゆうに5cmはあったと思う。
それから当分の間、母が耳栓をして眠ったのは言うまでもない。
怖い話投稿:ホラーテラー 水蜜桃さん
作者怖話