中編5
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見つめられた男の末路

この話は 男の異常さを表す為、文中にグロテスクな表現があります。

そういったものが苦手な方は、スルーして下さい。

どうか御了承いただけますよう お願いします。

一人の男が自殺した。

数少ない目撃者の証言によると、何か喚きながら非常階段を駆け登り そのまま飛び降りたそうだ。

男の遺体は、飛び降りただけとは思えない程悲惨な状態であった。

何か事件性があるのかも知れない。

私達刑事が呼ばれたのも、そういう事からだった。

男の部屋に入ってみると、捜査官が言う通り、窓は割られ 荒れ果てている。

何より驚いたのは、そんなに広くはない この部屋のいたる所に、猫の足跡がついていた事だ。

ガサガサと物をかき分け中へ進むと、捜査官が隠すように置かれていた一冊のノートを見つけた。

なんの気なしに ペラペラとページをめくった彼の顔色が変わる。

「た、大変です……!これを見て下さい!」

渡されたノートに慌てて目を通すと、そこには信じられない内容が書き込まれていた。

「おい!部屋中をくまなく捜せ!こいつは大変な事になったぞ……。」

たいして捜すまでもなく、寝室に置いてあった この部屋には不釣り合いな大きさの冷凍庫から、『異常』は見つかった。

畳一枚分はあろうかという大きさの冷凍庫の中には、ブロック分けされ凍らされた『何か』の肉と、三体分の人骨が発見された。

皆 それが何の肉かはわかっていたが、すぐに口に出せる者はいなかった……。

―男の日記から―

―〇月×日―

今日見つけてきた獲物は、若い女だ。

今は薬で眠らせてある。

一体目は解体するのに苦労したが、二体目は比較的楽にバラす事ができた。

子供だったからか?

今までは獲物が死んでから解体していたが、今回は前々から考えていた事を実行してみようと思う。

楽しみだ。

―〇月×日―

なんでもそうだが 食い物を美味く食べるには、鮮度が大事だ。

死んですぐの肉があれだけ美味いんだから、生きたままなら なおさらだろう。

獲物が声を出せないように、喉を潰しておかなくては。

―〇月×日―

今日、始めて生きたままの肉を喰ってみた。

味を比べる為に、何箇所か切り取ってみる。

獲物は喉を潰し、念入りにさるぐつわをしているから声が外に漏れる事はない。

肉は美味かったが、やはり血抜きを多少しないと生臭い。

―〇月×日―

今日獲物が死んだ。もう少しもつと思っていたが、腹を裂いたとたん 痙攣を起こしそのまま動かなくなった。

肉の鮮度を保つ為に 一日かけて解体したから疲れた。

次はもっと長持ちするように、上手くやろう。

そこまで読んだ私は、言いようのない吐き気に襲われた。

この男はまともじゃない。

いや、この冷静さはある意味正気なのか。

淡々と観察し、殺し、喰っている……。

しかし日記は、次第にその異常さを増していく。

そこには男が壊れていく様が、克明に記されていた。

―〇月×日―

そろそろ次の獲物を探しに行かなくては。

しかし冷凍庫のスペースもあとわずかになってきた。

新しいのを買うまでは、ターゲットを子供に絞る事にする。

最近は警戒も強化されているらしいが、そんなものはなんて事はない。

隙はいくらでもある。

―〇月×日―(同日)

今日は下見に行くはずだったが、やめて帰宅した。

なんだか気分が乗らない。

―〇月×日―

やはり何かがおかしい。

誰かに見られているような気配が消えない。

外へ出てみると、気配は一層強くなる。

警察に嗅ぎ付けられたか?

用心深く周りを見てみたが誰もいない。

気のせいだろうか。

―〇月×日―

あいつらが俺を見てる。

気のせいじゃない!

どこにでもいる。どこへ行っても必ずいる。

皆一様に 俺を見ている。

―〇月×日―

外へ出ようとしたがやめた。

異常な数だ。

何故俺を見る?

ベランダにたくさんの動めく猫。追い払っても追い払っても

―〇月×日―(同日)

音がする。冷凍庫からガタガタと。

出ようとしている。

朝起きると部屋の中にたくさんの猫。

足の踏み場もない。

暴れたら逃げて行った。追いかけると玄関のドアが開いていた。

鍵をかけていたのに。

―〇月×日―

足が痛い、腕が痛い、どこもかしこも痛い。

今日も勝手にドアが開いてる何故だ。

油断するとあいつらに噛み付かれる。

寝たら殺されるから寝られない。

口の中から何か出てくる。取っても吐いてもまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ

―〇月×日―

喰われる

それが男の最後の日記だった。

これを書いた直後に飛び降りた、という事だろうか。

これだけの異常者だ。薬もやっていたのかもしれない。

だとすれば、この日記の意味不明な部分も納得がいくのだが……。

私は部屋を見渡し、あらためて背筋に寒気を感じた。

この部屋の至る所についている猫の足跡……。

それが、男のただの妄想ではない事を物語っている。

なら何故、男は猫に襲われたのか?

考えられるのは、死体の匂いを嗅ぎ付けられたから としか言いようがない。

それならどうして猫だけなのか……。

私の頭の中で次から次へと疑問がわくが、それを納得のいく答えで埋める事が出来なかった。

追い打ちをかけるように、鑑識が私のもとへ何枚かの写真を持ってきた事で、この事件の謎がさらに深まる事になる。

「男の体中に……数えきれない程の噛み傷がついています。」

「本当か!?」

写真を見てみると、足や腕 背中に至るまで 大小様々な歯型がついている事がわかる。

まさか、本当に猫に襲われていたなんて……。

「一体、何故この男はこんなにも猫に噛まれたんだ?」

私の言葉に鑑識が答えた。

「猫?なんの事です?この歯型は人間のものですよ。あと、口の中に大量の髪の毛が……。」

後日行った検査の結果、被疑者についた歯型と部屋にあった被害者の歯型がぴたりと一致した。

男を襲ったのは猫ではなかった。

『人』だったのだ。

しかし この事は、闇へと葬られ 誰に知られる事も もうないのだろう。

真実を口にする者は、誰一人として いないのだから……。

怖い話投稿:ホラーテラー 桜雪さん  

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