昔々のある日のこと、一人の木こりが森の中で木を切っていました。
木こりは斧を両手に高々と振り上げ、次々と樹木を切り倒してゆきます。
しかし、あるとても太い木を切ろうとした時でした。斧の刃が、木の幹にガッチリと食い込いこんでしまったのです。
斧は、ちょっとやそっとじゃ動こうとしませんでした。そこで木こりは幹を片足で押さえつけると、渾身の力を込めて、
「えいや!」
すると、食いこんでいた斧はようやく木から離れました。けれども、あんまり力を込め過ぎていたので、反動で斧は木こりの手をすっぽ抜けて、あらぬ方向へくるくると回転しながら飛んでいき、傍らにあった池にポチャンと音を立てて落ちてしまったのです。
「ああ、しまったな。……どうしよう」
木こりはすっかり困ってしまいました。あの斧が無いと仕事ができません。木こりは池の周りをオロオロしながら、ウロウロ歩きまわりました。
その時でした。
池がまばゆい光を放ち、水面にできた大きな波紋の中から、――脳天に樵の斧が刺さった――、それはそれは美しい女神さまが現れたのです。
木こりは、その姿をただ茫然と眺めていました。
女神さまの両手には、それぞれ金の斧と、銀の斧が握ってありました。
「あなたは、この池に、斧を落としましたね……?」
その声に木こりの身体が、びくり、と震えました。
「落としましたね」
微笑を湛えた口からもう一度同じ質問が滑り落ちましたが、木こりは震えて、答えることができませんでした。
「よろしい」
返事をしていないのに、女神さまはそう言いました。
「では。今ここに、金の斧と銀の斧と普通の斧があります」
木こりはぶるぶるぶると、さらに身体を震わして。顎から血を滴らせた女神さまは、ますますその口の端をにっこり歪めます。
「さあ、どれでかち割って欲しいですか?」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話