小学校5年の頃、学校の中庭の隅に小さい池がありました。
そこには、コイや金魚が何匹も泳いでいて、普段は飼育当番の生徒が代わりばんこに世話をしていました。
ある放課後、クラスの佐々木君という男子が、
「おい、あれ捕まえてみねえ?」と言い出しました。
佐々木君の他、私を含めた帰りが同じ方向のクラスメート3人がギャラリーになって、
佐々木君の手づかみコイ採り大会(?)が開催されました。
靴を脱いで、池に手を突っ込み、佐々木君はコイを捕まえようと奮戦しましたが、なかなか手に負えず…
「これ無理じゃね?」とだんだん疲れてきた様子。
見ていた私らも、次第に馬鹿馬鹿しくなり、帰りたくなってきたこともあって
「もう止めたら?先生に見つかったらやばいし」
そう言っている間に、一人の子が池から少し離れた所に、魚をすくう小さい網が置かれているのに気付きました。
おそらく飼育当番とかが使う網だと思います。
「これ使えば余裕じゃない?」
その子は、自分が見つけてやったんだ!と言わんばかりに佐々木君へ言いました。
もう諦める寸前だった佐々木君はそれを見た途端、目が活き活きしてきました。
「これで完璧!みてろよーコイめ!」
網を持っていた子から奪い取り、再戦に挑みました。
今度は文字通り、余裕でコイが救えました。
佐々木君は名誉挽回とばかりに、次々と池からコイをすくい上げます。
池の周りの地面には、はねのけられたコイがびちびちと音を立てています。
「あのステンレスバケツ持って来てよ」
さきほど網の置いてあった所にバケツもあり、それを見て佐々木君がなにか思い付いたようです。
「ほら、もしかしてこれに入れるの?」
「そうそう!ちょっと見てろよ…」
佐々木君は池から上がり、地面に置かれて弱ったコイを次々とバケツに入れました。
「うおおー!発狂したー!」
突然、佐々木君は網を持つ側の棒と、靴を履いた自分の足で、
バケツに入っているコイを潰し始めました。
私らは唖然とするばかり。
「なんかすっきりするー」
よくわからないですが、先刻まで負かされていた腹いせのつもりらしいです。
佐々木君はひたすらバケツの中でコイをスリコギみたいにすり潰し続け、
もうバケツの中はグチャグチャになってきて、原形を留めていない状態になってました。
次第にみんな冷静になってきました。
「ちょっと…やばいよこれ…どうすんの…」
佐々木君も、先ほどまでの興奮が冷めてきて、事の重大さに顔が引き攣ってきました。
冷静にバケツの中を見ると、なんだかわからない粘液とかに満ちていて、思わず顔を背けました。
こんなの地面にぶちまけたの見たら、間違いなくゲロ吐きそう…。
「とりあえず、そこの掃除用具倉庫に入れておかね?」
正直、さっさと逃げたいし、いつ先生見回りに来るかわからない状況だし
もう隠すのに必死で、掃除用具倉庫の隅、死角になるあたりにバケツごと放置することにしました。
私らは、もの凄く気まずい空気の中で、お互い黙ってればばれないとか
勝手に自分らに言い聞かせて帰宅しました。
次の日から三連休だし、帰宅途中は、連休中遊びに行く話題とかを無理に話して紛らわせました。
それから三連休が明けた火曜日。
例の出来事を思い出さないようにしていたのと、まだ子供だった事もあり、
帰宅時間まではみんな普通にしていました。
しかし六時間目が終わって掃除の時間、
隣のクラスの生徒達から悲鳴が聞こえてきました。
そういえば、あの用具入れ、隣のクラスの掃除区域で使ってたんだっけ…
知らないふりをしながら、なにげなく見に行くと…
用具入れから、外まで漂うぐらいすさまじい悪臭が漂っていました。
魚って腐るとこんなに臭いのかと驚くほどの凄い匂い、文字通り鼻がひん曲がる感じです。
「くせぇー!くせぇええー!」
男子も女子も大騒ぎ。
その内、馬鹿な生徒の一人が、デッキブラシで持ち上げて地面にぶちまけました。
地面には、もう何だかわからないような黒ずんだ物体が悪臭を放ちながらドローっと流れていき、
よく見ると、米粒みたいなのがうごめいていました。
ウジ虫です。
たった三連休でも、こんなにわいてくるのかと変に感心しましたが
馬鹿な生徒がぶちまけたせいで、悪臭が毒ガスのようにそこらじゅうに拡散。
泣き出す女の子が居たり、ゲロを吐き始める生徒がいたり、もう最悪の状況でした。
ちなみに、誰も喋っていないはずだと思うんですが、佐々木君は後でものすごい怒られたようで、
職員室から帰ってきた時、顔面を真っ赤にして、目を充血させて、首もとまで涙で濡れていました。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話