もう少しで昔飼っていた犬の命日が訪れる。
早いものでもう何年も経つ。
小学生の時に私が拾ってきたそのコ(仔犬)は野良時代に人にイジメられてしまったようで、とても可愛がった家族に対してでさえ、最後まで警戒心を(完全に)とくことはできなかった。
唯一心を通わせられていたのは私だと思っている。
同じく、幼かった私と彼女は一緒に成長してきた。母親が資格を取りに行く都合で淋しい時もいつも一緒だったし、悲しいことがあった時はそのコに話しかけ、泣いたものだ
そんな時はじっと私のことを見つめ、手を舐めて慰めてくれた。
散歩に行き一緒にたくさん遊んだりもした
彼女は妹であり、姉であり母であり友達でもあった。
しかし、1つだけ昔から予感があった。このコは私が大人になった時にこの世を去るということが。
それは漠然としていたけど決まっていることだと自分には分かってた。
そしてそれは大人になるにつれ、忘れつつもあった。
私が20歳を迎えるひと月前、彼女は余命半年を宣告されふせっていた。
幾度かの手術の甲斐なくじりじりと迫る別れの時。しかし私と言えばある実習で泊まり込みと帰宅の繰り返しで精神的疲労と睡眠不足で体力の限界が来ていた。
夜帰宅すると、病が進行している彼女は息苦しそうにしている。
私は、情けないが、その側で倒れるように眠るだけ。朝が来たらまた実習先に向かわねばならない。
そんなある晩、実習先から帰宅すると姉から彼女が一昨日からなにも口にしていないと聞かされ少し焦った。
朝が来て私が朝食を取ろうとすると夕飯の残りの焼き魚がテーブルに乗っているのに気がついた。
もしかしたら、魚なら食べてくれるかもしれないと思い、口へ持って行くと、食べはじめてくれた。
その時気がついたのは、2、3日前に確かにあった歯が全て失くなっていたことと舌がザラザラとしていて死んでいる感じだったことだ。
それでも魚をペロリと食べてくれたので今日は調子いいのかもと思い、すぐ様、犬用のおやつをあげるとそれまたペロリ。
すっかり嬉しくなった私は飲みものも手の平にのせ飲ませた。その間たまに目が合う。エライね!と頭を撫でる。
そうこうしてる間に実習先に行かなくてはならない時刻になってしまった。
私は慌てて支度をし、出かけようとする。すると彼女が振り返る。
その頃は自分ではうまく立ち上がれなくなっていたので、うまくこちらに体を向けられず少々窮屈そうに目で追ってきていた。
とても気になったが電車の時刻だ。
「じゃまたね!」といい出かけた。
その晩、実習先で一緒だった子に、初めて今飼い犬が病気で・・という話しをし、話している間に涙が出てきた。
2段ベッドでそれぞれ上下になっているから泣いていることは気付かれなかったと思うが、辛い実習のこともありなんだかすごく悲しい気持ちになった。
しかし、しばらくすると不思議ととても穏やかな空気が流れ安心して眠りにつけた。
次の日、翌日に自分の試験を控えていたため、特別に実習先から帰宅許可をもらっていた。
まだ正午だ。今日は彼女につきっきりでいてあげられる!・・なんて張り切って家へ帰った。
家に着く。家人はいるようだ。
ドアに手を掛ける。が、鍵がしまっている。
あれ〜と思い鍵を取り出そうとした瞬間、母親が飛び出してきた。ドアの開け方が不自然。奥にちらりと見える大きなダンボール。
母は無念そうに
「ダメだったよ。〇〇ちゃん(犬のこと)」と言った。
その後、どうリアクションとったかまったく覚えていないけどとにかくその日はそのダンボールの前から離れられなかった。
泣きながら小さな声で色々と声をかけたがやっぱり起きてくれなかった。
臨終は父と母の腕の中で亡くなったらしい。
翌日火葬場へ行った。私も午後からの試験だったので一緒に行けることができた。
今も彼女のお骨はその寺にあり、私は定期的に訪れている。
納骨堂は変な話し更新制度だ。ルームメイトが毎年代わって部屋自体も移動する。
なのでうっかり前までの部屋へ入ってしまう時がある。
けれど不思議なことに一歩入るだけで、「あっ。ここじゃない」
と違う空気を感じられる。
そして毎年のことだが、彼女は命日に我が家へ遊びに来てくれている。
姿とかは見られないけど翌朝気配が残っている。思い込みかもしれないけど。さらに初めの数年の命日は夜中にドアがカチャカチャと鳴ることがあった。
うっかり命日を忘れてしまった時などでもちゃんと分かるようになっている。
それは彼女が必ず、飾ってある彼女の写真をポトリと落としといてくれるからなのだ。
私が大人になったら彼女は・・という予感とこの訪問については、私の中では不思議とそうであるもの、ごくごく自然な形で受け入れらるもの、となっている。
怖い話投稿:ホラーテラー イヒモノさん
作者怖話