みなさん、体調はよろしいですか?
不安があるなら、早めの受診をお勧めします。
職業柄、老若男女、様々な方のお世話をさせて頂きますが、年齢のお若い方ほど良く聞く言葉がございます。
「もう少し早ければ」
受診した結果、非常に残念な事態となりましても、落胆している場合じゃございません。色々とすべき事があります。
御家族や恋人との今後の事、友人達への御挨拶、お勤めの方であれば仕事の事。
また、お部屋の方はいかがですか?
整理整頓なされてますか?
非常にユニークな御趣味など持たれてはおりませんか?
当方では、事前にお客様のニーズに沿った計画作成から、お見積まで行っております。
その他にも御要望があれば、お部屋の片付けなどのハウスクリーニングも行います。
是非、事前に証拠隠滅することをお勧めいたします。
また、当方は財産関係のトラブル防止のため、専門の弁護士とも連携しております。
大体、葬儀屋なんてものはそういったネットワークも持っておりますので、身近な業者にお気軽に御相談してみて下さい。
財産と申しますと、昨今、ネットバンキングなるものを利用されているお客様が増えております。
インターネットの銀行らしいんですが、これがまたやっかいな代物なんです。
なにせ、目に見える代物じゃございませんから、御本人様以外には全く判らない。
また、手続き用の暗証番号なんてものが何通りもあるらしいんです。
こうなるともう手に負えません。
通知などが郵送されてきて判明したりするんですが、ある程度詳しくないと、それが何なのかすら理解できません。
1.そもそも存在自体を知らない
2.存在は知っていても対応できない
こういった場合が考えられますので、できることなら、事前に金庫などにメモでも保存しておくことをお勧めします。
さて、本題に入るといたしましょう。
職業柄、お客様からお礼や、苦情など頂くことがございます。
時には、お身内の方ではなく、御本人様がいらっしゃるケースもございます。
苦情などは比較的、御本人様が登場される場合が多いように感じます。
ですから、私共のスタッフには、最後まで大切なお客様として接するように徹底しております。
中には、不心得者もおりますが、御本人様からの苦情来訪を経験いたしますと、途端に改心するか、翌日に退職届を持って来たりいたします。
多少の苦情であれば、目に見える方でも見えない方でも、対応は同じ様なものであり、それ程難しくはありません。
心を込めて、丁重に謝罪すれば良いのです。
そんな中で、私が最も対応に苦慮したお話です。
あるお婆さんの葬儀を、私共で引き受けた時のことです。
その御家族は、76歳のお婆さん、40代の息子夫婦、中学2年生の長女、小学6年生の長男の5人家族でした。
住宅街の中にある一軒家であり、どこにでもいそうな御家族でした。
お婆さんが脳梗塞になって、1年近く寝たきりの生活だったそうです。
1週間ほど前から肺炎で入院していた所、急に危篤状態に陥り、そのまま病院で亡くなられました。
お爺さんの眠っておられる菩提寺の住職との打合せも問題なく、
通夜、葬儀、繰上げ初七日と式自体は滞り無く進みました。
納骨は帰りがけに済ませるそうです。
ただ、一つ気になったのは、御家族が誰も泣いていなかったことでした。
異変は葬儀が終わった翌日の晩から始まりました。
その日は休日で、パチンコ屋に入り浸っておりましたが成果も無く、早々に家に帰りました。
帰宅して、湯船に浸かって良い気持ちになっていたところ、湯船の中にお婆さんの顔が浮かび上がってきたのです。
苦しそうとも悲しそうともつかない顔をして、頻りに何か口を動かしています。
ジッと見つめていると、しばらくしてスーッと消えました。
多少の驚きはありましたが、それ程の怖さは感じませんでした。
顔を見て、すぐに昨日の葬式のお婆さんだという事は判りました。
そこで、失礼な対応がなかったのかどうか、色々と思い返してみたのですが、一向に見当がつきません。
まあ、明日スタッフにも聞いてみることにしよう。
と思い、風呂から上がり、晩飯を済ませて11時位には就寝しました。
布団に入り、ウトウトしかかった頃、妙な息苦しさを感じて目が覚めました。
枕元からお婆さんが、私の顔を見下ろしています。
驚いた私は声を出そうとしたのですが、声も出なければ、体も動きません。
お婆さんは、お面でも被っているように、表情一つ変えません。
5分位はそのままだったでしょうか。
やがて、お婆さんの顔が般若のように歪みました。
何かに対して、憎悪した時に人はあんな表情になるのでしょうか。
私は、殺されると思いました。
突然、お婆さんは、パカッと大きな口を開きました。
真っ暗な口の中から、大きな百足、蜘蛛、ゲジゲジなどがぞろぞろと這い出してきます。
百足が私の顔に落ちた途端に、私は気を失いました。
意識が戻った時には、すっかり朝になっており、まず、生きていられた事にホッとしました。
出勤してから、直ぐに葬式に参加したスタッフを呼び、何か落ち度は無かったのか確認しました。
だが、誰にも心当たりはありません。
何か釈然としないまま、その日は通常通りの業務をこなして帰宅しました。
帰宅した私を待っていたのは、松葉杖をついた妻でした。
二階で洗濯物を取り込んだ後、階段を下りようとして転がり落ちたということです。
妻は、背中を誰かに押されたような気がすると言っています。
私は、あのお婆さんの仕業のような気がしましたが、妻には黙っていました。
また出て来るんではないかとビクビクしながらお風呂に入ったんですが、何事も起こりませんでした。
寝る前にトイレに行こうとして、ドアを開けた瞬間、恥ずかしながら少々失禁してしまいました。
便座の中からお婆さんが顔を出しているのです。
能面のように無表情な顔をして、ぱっくりと大口を開けています。
すぐにドアを閉め、寝室に逃げ込みました。
布団を被り、ひとまず心を落ち着けて考えました。
やはり、これは唯事ではありません。
観念して、翌日、知り合いの住職に相談する事にしました。
幸い、その夜はそれ以上の事は起こらず、無事に就寝できました。
職業上、色々な宗派の御住職と知り合いになります。
住職といってもピンからキリまであり、ヤクザ紛いの生臭坊主から、人格者で徳の高い御住職まで、様々な方がいらっしゃいます。
不真面目な方などは、御経もろくに読めません。
最近は、不真面目な方が多くなってきており、嘆かわしい限りです。
立派な方であっても、こういった方面には縁がなく、頭ごなしに否定する方もいらっしゃいますので、注意が必要です。
相談したのはピンの方、真言宗のお寺の御住職で、きちんと修行をした非常に立派な方です。
また、葬儀の後の雑談などで、そちら関係の御話もうかがっておりました。
翌日、手土産を持ってお寺の方へ相談に伺いました。
御住職は快く迎えてくださり、本堂ではなく母屋の方に案内されました。
応接室に通され、一通りの状況説明をいたしました。
しばらく目を瞑っていらっしゃいましたが、ハーッと大きく溜め息をつかれた後、こうおっしゃられました。
以下御住職のお話
「たしかに、貴方の側に居ます。
今のまま、成仏させようとしても不可能でしょう。
そもそも、息子夫婦の結婚当初から嫁と姑の関係がうまくいっておりませんでした。
この家庭での問題は、どちらが悪いといった事ではありません。
長い年月共に暮らすのですから、お互いに相手に好かれる努力が必要なのです。
だが、両者ともに頑固なため、相手に対して譲歩するということが出来ませんでした。
潤滑油となりうる存在である息子も、我関せずの姿勢でした。
孫が産まれてからは、孫が潤滑油となり大した問題も起きなかったのです。
状況が一変したのは、お婆さんが倒れてからです。
面倒を見る事になった嫁は、これ幸いとばかりに嫌がらせを始めたのです。
始めの内は面白半分で、色々な嫌がらせをされました。
腐りかけた物や、蝿が蛆を生んだようなものまで食べさせられていたようです。
息子は部屋に近付こうともしませんでした。
女の子も段々と汚物を見るような目付きで、お婆さんの事を見るようになってしまいました。
唯一、男の子だけが心配して頻繁に見に来てくれており、いろいろな用事をしてくれていました。
2・3ヶ月経つ内に、嫁も介護に嫌気が差して来たようです。
オムツ交換してくれるヘルパーさんと、食事を持って来てくれる男の子以外、ほとんど部屋に入らなくなったのです。
お婆さんは家でなくて、老人ホームに入っても良いと考えていました。
時々家に来るヘルパーさんからも勧められたことがあります。
お爺さんの遺産として相応の蓄えもあったにも関わらず、嫁は笑いながらヘルパーさんに断っていました。
そして、強い孤独感と悲しみを抱いてお婆さんは亡くなりました。
亡くなった当初は、やっと苦しみから解放された安堵と、最後まで自分の事を見捨てなかった男の子に対する感謝の念で一杯だったんですよ。
ところが、息子と嫁が死者に鞭打つようなことをしたんです。
お婆さんが大切にしていた仏壇と位牌、遺品全部、葬式の翌日に捨てたんです。
もちろん新しく作ったお婆さんの白木の位牌もですよ。
そして、おそらく、そこの家にはもう住んでいないでしょう。
引っ越したんだと思います。
段取り良く進めているので、前々から準備していたんでしょうね。」
私は驚きました。
お婆さん云々というよりも、葬儀代金未回収なのに引っ越しているといわれたんですから。
直ぐにスタッフに電話を掛け、電話確認と、通じなければ現地確認を頼みました。
守銭奴のように思われるかもしれませんが、私もスタッフの給料を払わなければならない身の上ですから仕方ないんです。
「驚きと嘆きは、すぐに強い怨みと憎しみに変わりました。
今のお婆さんは怨念の塊のようなものになっていますが、その怨みは嫁と息子に向いています。
他人に対して、無闇矢鱈に危害を加えるようなことは無いと思います。
亡くなったばかりの魂は、まず、位牌を依代として宿ります。
それが捨てられてしまい、自分の思い入れがある物が全て無くなってしまったのですから、お婆さんには居場所がないんです。
それに、例え居場所があったとしても、家には誰も居ません。
菩提寺の住職の元にも行ったと思いますが、気付いてもらえなかったんでしょう。
親しくしていた親族もいないのでしょう。
仕方なく、一番最後に世話になった貴方の所に来たんです。
貴方の奥さんが階段から落ちたのは、多分偶然でしょう。
このまま放っておいても、じきにお婆さんは貴方から離れて家族を見つけ出します。
だが、見つけるまでの間、今の状態を保っていられないでしょう。
段々と狂って怨霊となります。
周囲に怨みを撒き散らすようになる前に、早めに対処しましょう。」
そう言って、御住職は部屋を出て行かれました。
事務所に電話してみると、やはり引っ越していたみたいです。
幸い、息子さんの方の携帯と電話が繋がり、新住所が確認できました。
以前の住所から、車で30分程の所にあるマンションでした。
しばらくして墨と硯、新品の位牌を持って、御住職が部屋に入ってこられました。
「私はお婆さんよりも、息子と嫁の方こそ許せません。
人間として最低限弁えていなければならない礼儀さえ蔑ろにしています。
私が可能な限り、お婆さんの望みをかなえてあげたいと思います。
お婆さんには強い怨みの他に、男の子への感謝の念があります。
怨みさえ無くなれば、男の子を強く守護してくれるでしょう。
これから、お婆さんの位牌を新しく作り、依代として宿ってもらいます。
そして、出来上がった位牌を、新しい家に届けて下さい。
お婆さんを新しい家に送り届けるだけで良いんです。
お婆さんの戒名はわかりますか?」
また事務所に電話して、お婆さんの戒名を聞き、御住職に伝えました。
御住職は、丁寧に墨を磨り、筆を持つと一息で位牌に戒名を書き込まれました。
書き上がった位牌を持つと、本堂に移動され、しばらく読経なされました。
読経が終わった後、私に位牌を渡されて、「お願いします」と頭を下げられました。
私は少し不安になったので、家族の今後について尋ねてみました。
「お婆さんの怨みは間違いなく嫁と息子へ向かうでしょう。
まず殺される様な事は無いと思いますが、それ相応の苦しみは受けるはずです。
お婆さんが守護しますから、男の子に悪い影響は出ないと思いますよ。
むしろ、男の子の今後にとって大きな助けとなります。
女の子については問題ないでしょう。
お婆さんの御亭主が守護されてますからね。」
翌日、早速請求書と共に位牌を持ってマンションへ訪問いたしました。
息子さんは不在でしたので、奥さんに直接渡すことにしました。
「野位牌の予備を預かったまま忘れておりました」と言って、頭を下げると、別段不審に思われずに受け取っていただけました。
どうせまた捨ててしまうんでしょうが。
私がお話できるのはここまでです。
私の身にも異常は起こっておりませんし、葬儀代金もきちんと受け取れました。
その後、家族がどうなったかについては全く判りません。
ただ、半年程度たった後、そのマンションの近所での葬儀を請け負った時、チラリと部屋の方を見ましたらカーテンがありませんでした。
子供たちに影響は無いという、御住職のお言葉を信じるばかりです。
御住職に安くないお布施を包んでしまったため、赤字になってしまった苦い思い出です。
それでは皆様、くれぐれもお体に気を付けてお過ごし下さい。
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作者怖話