【後藤】
ほとんどぬるくなったビールを飲み干すと、谷口は容器を窓から放り出し、そしてアクセルを切った。
そうです。紛れもない飲酒運転です。
いやぁさ、五年ぶりに同級生三人揃ったらさ普通飲みに行くじゃん?
で、何が問題かって言うと、俺らは皆未成年で、しかも運転席の谷口は無免許(とかそれ以前に泥酔状態)。
間違いないね。もし人生で一番死に近い日があるとしたら今日だ。
俺はと言うと朦朧とする意識の中、車体が揺られるたび頭を窓や椅子にぶつけている。
シートベルトしろっつの。
んで、助手席で寝てるのが山田。
「よっし、行っくぞお( ・∀・)!!!!」
谷口が突然叫んだ。とうとう向こう側にイったか。
「よし、さっさと行こうぜ、早く!!」
山田が突然起きて、意味不明なジェスチャーとともにシャウトする。
「だから行くってどこにだよ!!」
俺もヤケクソで叫んだ。
「後藤だよ、後藤。後藤んところ行こうぜ!!」
谷口はこちらへ振り返り、ハンドルの方はお留守になっている。ってか前向け、前!!
「はぁ、後藤?誰だよそいつ?」
山口が目をこすりながら聞いた。ってお前全力で叫んでたじゃん、何?他人?
「いいか、後藤ってのはな・・・・zzz」
おい、寝るな、車線逆になってんぞ!!
「zzz・・・・、おお!!あぶねぇあぶねぇ。
ガンジス川の向こうで先祖一同がお出迎えしてたぜ」
そうだね、だいぶ危ないね。
「だからな、後藤ってのはジェイソンみたいなもんだな」
谷口は急に明瞭な口調になった。
「ジェイソン?」
「ジェイソンっていうか、フレディっていうか、プレデターっていうか。
まぁそんなもんだ」
「はぁ?」
「まぁとにかくヤバい奴なんだ。お前聞いたことないか?
この辺の山に入った奴が次々と姿を消してるって。
あれは全部後藤の仕業なんだな。
後藤は山に入った人間を見境なく殺しては、その死体を木につるし、血を抜いた後その肉を食らうと言う」
「冗談ならもうちょいましなこと言えや」
「これが大マジなんだな。で、俺達はこれからその後藤の所へ行く」
「・・・・勝手にしろ」
この時俺は知らなかった、
まさかあんな事件に巻き込まれるなんて・・・・。
車を数分走らせた所で、俺達は山のふもとで車を止め、行き当たりばったりも良い所の登山イベントに突入した。
三人とも足がふらつき、地面が波打つような感覚に時折見舞われる。
これ斜面結構急だから落ちたら余裕で死ねるだろうね。相当勢い付くから即死かな?
たぶん今日死ぬとしたら、後藤に殺されるんじゃなくて事故死だろうね。
「もう帰ろうぜ」
山口が誰もいない方へ向かってしゃべり始めた。
おいおい、そっちには誰もいねぇぞ、何が見えてるんだお前には。
谷口も同様、木々の茂る方を向き、
「そうだな。ぶっちゃけ提案した俺自身今超めんどい」
ってぶっちゃけすぎだろ。
まぁ後藤なんてどうせ出まかせだろうし、さっさと帰るか。
と思ったその時だった。
木々の陰から、三人に視線が注がれた。
「?」
【ガサガサっ、ガサっ】
何だ?
目を凝らすと、何かがこっちに近づいて来る。
・・・・人?
じゃないよな・・・・なんか動きおかしいし。
足はむこう向いてるのに、まるでこっちに目が付いてるかのように、器用に俺達のいる方へ歩いて来る。
んでその頭は、こっち向いてる。ああそうか、こっちに目が付いてたんだね・・・・。
・・・・てオイ!!!!
どうなってんだアイツ、首だけこっち向いてんぞ!!
どう形容していいのか・・・・。表面上は好きなそぶり見せないけど、気持ちはついつい彼の方へ向いてる・・・・って言ってる場合じゃねぇ!!
「後藤だ!!出やがった!!」
「あばばばばばばば△□○×」
やべぇやべぇやべぇやべぇ、こっち来たぜ!!
後藤と思しきその化け物は、猛スピードで追いかけてくる。
酔いが一気に醒めた。全身にアドレナリンが駆け巡る。
三人は一目散に逃げ始めたが、出遅れた俺が後藤の標的になった。
「あ、しぬ、しぬ」
と思ったその瞬間、救いの手が差し伸べられた。
車だ。止めてたやつだ。
「出すぞ、全員乗り込め!!」
三人は飛び込むようにシートに乗り込み、俺達を乗せた車は道路へ出た。
しばらく高速を走ったところで、俺達はいったん一息ついた。
「ふぅ、何とかまいたか・・・・」
「なんだったんだ、あの化け物・・・・」
「だから後藤って言ってんだろ」
「あ、そうか」
「その後藤の事なんだけどよ」
「なんだ」
「さっきからずっと車の後追いかけてる」
バックミラーには、必死の形相で追いかけてくる後藤の姿があった。
「早よ言えやぁあああああああ!!!!」
「やばい、追いつかれる!!」
「捕まったら何されんのや!?(←何故関西弁?)」
「分からへん、とにかく逃げなはれや!!」
「ちょいと伺ってもよろしいでしょか?」
「何や?」
「ワイら今車乗ってるさかい、問題ないんとちゃうん?」
「どういう意味や」
「たとえ後藤はんでもこんなゴツイ車にいてこまされたら只で済まんとちゃうんか」
「なるほど、そらそうやな」
「・・・・」
気のせいか、バックミラーに映った後藤が、一瞬気まずそうな顔をした。
「・・・・おおきに―(*´∀`)♪」
車をuターンさせると、谷口は猛スピードをかけた。
「・・・・あばばばばば!!」
追うものと追われる者、立場は一転した。
後藤は死にそうな顔をしながら逃亡を始めた。
「おーっら、死ねやゴミ虫!!」
「あばばばばばば(つД`)」
結局俺達は三㎞近く後藤を追いまわした。
「ほら歩くな歩くな、ラスト三周」
と谷口が女子マネみたいに後藤に声をかけていたが、遂に後藤は力尽きる。
「あばばばば・・・・」
俺達はその場に倒れ込んだ後藤を放置し、車を乗り捨てた(冒頭で言い忘れたが、これはもともと盗難車)。
そうして四週間何事もなく過ぎ去り、俺達は完全にこの日の事を忘れていた。
「ああ、だりぃな、学校」
山田は俺の後ろの席で愚痴をこぼした。
「ってか今日転校生来るらしいよ」
谷口は華麗なスルーを見せた。
「転校生?」
「うん」
「女子?男子?」
「それが・・・・」
「みんな、これから転校生の紹介を始める」
先生の一声に、教室のみんなが一瞬沈黙し、再びざわめきが起こる。
「さぁ、入りなさい」
そう言われて教団の方へ歩んできた女子生徒は、どこか見覚えあった。
「転校生の、後藤絵美さんだ」
「よろしくお願いします」
後藤と呼ばれた女子生徒は、おずおずと一礼した。
「後藤・・・・どこかで聞いたことあるような」
「ってかあの子超可愛くね?」
「うーん、席はどこが開いてるかな」
「先生!!僕の隣開いてます」
と言って勢いよく手を挙げたのは谷口だった。
「あれ、お前の隣は小柳さんだろ?」
「あんな学年一のブスより綺麗所をコンバートした方が谷口くんも嬉しいにきまってます」
といって谷口は花瓶の花を小柳さんの机の上に置いた。悪ふざけにもほどがある。
「まあ今日は開いてる机がないからとりあえず小柳さんの席に座ってくれ」
「イエス!!」
谷口がガッツポーズを決める。
後藤さんは席に着くと、谷口に何かを耳打ちした。
その瞬間、谷口の顔が蒼褪めた。
「?」
後藤さんが俺に何やらメモを渡す。
【お前らよくも散々追いまわしてくれたな。
今日体育館裏来い。一旦全員しばく】
頭を挙げると、前の席の後藤さんと目があった。もちろん後藤さんの体は前を向いているが、気づいてるのは俺と山田と谷口の三人。
「御意」
何故か敬礼してしまった。それから泣きたくなった。
怖い話投稿:ホラーテラー 聖仕官さん
作者怖話