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中編6
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案山子の声

俺が高校の頃の話だ。

あれは、夏休みに入ったばかりの暑い夜だった。

夜11時くらいに小腹が減ったんで、近くのコンビニへ行く事にした。

近くって言っても、俺の住んでいた所は田舎寄りだったから、少し距離がある。

歩いて行くか自転車で行くか迷ったが、かったるかったから自転車で行く事にした。

今思えば、この選択は正解だったんだと思う。

コンビニに行く道は二通りあり、遠回りになるが大きい道路まで行くと 車も通るし明るい道に出る。

もう一つはかなり近道だが、暗く細い農道。

いつもだったら迷わず明るい道を選ぶんだが、その夜は月明かりで十分明るかった。

だから、早く帰ってゲームの続きをしたいのもあって、俺は農道を選んでしまった。

これは人生最大の間違いだった。

あの時あの道を選ばなければ……。

俺はあんな目に合わずに済んだはずだった。

自転車を漕ぎ出し少したつと何軒かの家を過ぎ、あとはしばらく田んぼと畑しかない道が続く。

暗くて少し不気味だが、中学時代の通学路だ。

その時は、『蛙の鳴き声がうるせーなー』とか思いながら 何事もなく通り、無事コンビニへ辿り着けた。

目当ての物を買い、再び同じ道を通る。

異変はその時に起きた。

畑の一つに、牛などの飼料用に育てている とうもろこしの畑があって、それは2メートルを越す草がぎっちり詰まって生えている感じなんだが、そこを通った時に俺は違和感を感じ 自転車を止めた。

何か聞こえたような気がしたんだ。

人の話し声……?って言うか笑い声のような。

キャキャキャキャ!って言う感じの、妙に甲高い声が聞こえた気がした。

なんだ?こんな所に誰かいるのか?

いくら月明かりがあるとはいえ、こんな時間に畑に人が?

耳をすまして聞いてみると、確かにボソボソと話し声がする。

声がする方を目をこらしてみる。

よく見えないが その声は、畑の中程辺りからするようだった。

信じられない事に、声の主を確かめようと俺は自転車を降り、とうもろこし畑へと歩き出した。

今の俺だったら、こんな行動は絶対有り得ないんだが、あの時は何故か 声の出所を確かめずにはいられなかったのだ。

ガサガサと草を掻き分けながら歩くと、開けた場所へ出た。

そこだけ少し とうもろこしを刈り取ってあるようだった。

なんでここだけ……。

そう思って周りを見渡した俺はギクッとした。

月明かりに照らされて、髪の長い女の横顔が一瞬見えた。

「え!?な、何!?誰?」

ビビりまくった俺は、早口でまくしたてた。

が、相手からはなんの反応もない。

ビクビクしながらもよくよく見てみると、それは人形だった。

いや、案山子なのか……。

「……はっ!なんだよ、案山子かよ〜!マジびびったー!」

そんなのに驚いた自分が恥ずかしいのもあって、必要以上に大きい声で俺は呟いた。

しかし気味の悪い、悪趣味な案山子だ。

顔は、デカイてるてる坊主みたいのに 目と鼻をいたずら書きのように書いてあり、髪はかつらを被せているようだ。

他はちゃちな作りなのに、口だけが真一文字に切れて赤い口紅が塗りたくられている。

その首だけの案山子に鉄パイプが刺さり、地面に固定されていた。

「う〜、気持ちわるっ!早く帰ろ。」

そう思った時、ふと気がついた。

じゃあ、さっきの話し声はなんだったんだろう……。

場所は確かに ここからだったはず……。

次の瞬間、ギイィィー!というような物凄い耳鳴りと、締め付けるような酷い頭痛が 俺を襲った。

「がぁ!いってぇ!な、何?」

頭を抱えうずくまり前を見ると、目の前の案山子の口がパタパタと風に動いていた。

いや、風なんてないのはわかっていた。

動いているのは案山子だけで、周りの草はぴくりとも動いていない。

それどころか、さっきまであんなに騒がしかった蛙や虫の声も聞こえない。

心臓がバクバクして、呼吸がしずらい……。

なんだかわからないが、本能がヤバイと教えてくれている。

俺はふらふらと立ち上がり、案山子を見ないように後ろを向いて歩きだそうとした。

パタン

そんな音が背後から聞こえた。

見なくてもわかる。

案山子の口が、完全に開いた……そう思った。

早く逃げなくちゃ!

頭ではそう思っているのに、体が言う事をきかない。

勝手に後ろを振り向いていく。

案山子は口の部分から 真っ二つになっている。

そこから何か、黒い物が盛り上がってきていた。

まるで人の頭のように見える。

まさか、そんなわけないだろ!だって、案山子の首から下はただの棒だ。

誰かが隠れるスペースなんてない!

俺は自分に言い聞かせて、初めて答えにいきついた。

生きた人間じゃない……。

何かが案山子から出ようとしている。

それはすでに、両目が覗いていた。

「ウワーーー!」とか「ギャーーー!」とか、覚えていないが とにかく思い付く限りの叫び声を上げながら、俺は全速力で駆け出した。

慌てて自転車にまたがりながら、畑の方をチラリと見た時、あいつが とうもろこし畑からガサリと出てきた。

笑ってる……!

離れているし、暗くて見えるわけがないのに、俺にはあいつが歯を剥き出して笑っているのがわかった。

「助けてくれーーー!!」

自転車をめちゃくちゃに漕ぎながら、涙も鼻水も流し、泣きながら立ち漕ぎした。

俺が全力で自転車を走らせているというのに、やつはヨタヨタと変な歩き方で、ミラーを見るたびに どんどん近づいてくる。

二度、三度と後ろの荷台をつかまれそうになる。

なんで……なんで……なんで……!!

なんで こいつは追いついて来るんだよ!?

必死でペダルをこいでいる俺の背後で

『キコエタ〜?』

『キコエタンダヨネ〜?』

と、妙に甲高い 機械のような声が聞こえた。

ガクン!と突然に、急ブレーキをかけたような衝撃が走り、俺は何メートルも吹っ飛ばされ道端に転がった。

首を上げると、奴は小道の十字路に立ち、俺を見てニヤついていた。

あぁ、俺死ぬんだ……。

そう覚悟を決めて目をつぶった瞬間、ドガガガッ!と凄い音がして驚いて目を開けた。

見ると、車が止まっていた。あいつの姿は見えない。

運転席から男の人が出てきて

「何か轢いた!何か轢いた!」

と叫んでいる。そして、倒れている俺と自転車を見て、「嘘だろー!」と 頭を抱えてしまった。

しかしすぐに俺のもとへ駆け寄ってきて、

「君、大丈夫か!怪我は!?

本当にすまない!すぐに救急車を呼ぶから!」

と抱え起こしてくれた。

「あ、あの!俺、車に轢かれたんじゃないですから!」

と慌てて言うと、男の人は目を丸くして

「え!? え、嘘!ホントに?……だ、だよね、自転車なんて轢いてないもんな〜。

じゃあ、一体何を轢いたんだろ!?」

男の人が走って車に戻り、まわりや後ろなどを調べ始めた。

あいつの気配は消えていたが、一人でいるのが耐えられなかった俺は、足を引きずりながら車まで行った。

周りを調べ「何もないなぁ」と不思議そうにしていた男の人が、ふいに車の下を覗き込んで

「うわ!なんだこれ!」

と声を上げた。

そして、ずるずると引きずり出したソレは、あの案山子の頭だった。

「うわぁ、気持ち悪いな!……なんだ、案山子かよ〜、良かった〜。」

安心したように男の人は笑ったが、俺はとても笑える心境ではなかった。

「あの、すみませんが家まで送ってくれませんか?」

ダメもとで頼んでみると、男の人は案山子の頭をぽいっと近くの畑に捨て、心良くOKしてくれた。

涙が出る程嬉しかった。

車に乗っている間も、あいつが追い掛けて来ないか不安で何度も後ろを振り返り確かめた。

家についてからは、いい歳してと言われそうだが、両親の布団の中に無理矢理割って入り、朝まで震えていた。

しばらくの間ビクビクしながら過ごしていたのだが、母から聞いた噂話はさらに俺を怖がらせた。

あの事があってから二日後、近所に住む家の40歳くらいの女の人が病院へ運ばれたという。

その人は精神を病んでいて実家の親が世話していたのだが、ある朝気づいたら体の半身の骨が何箇所も折れていたという。

何があったのか問いただしても、ただニヤニヤと笑うだけで何も話さないそうだ。

ゾッとした。

ただの偶然だとは思えなかった。

あれは、生きた人間の作り出したモノだったんだろうか。

俺は今でも、あの道を見る事さえできないでいる。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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