「アルバイト募集
勤務内容:花屋の毎朝の開店準備
勤務時間 8:00~8:30
日給 5000円
面接あり」
私は目をうたがった。30分で5000円って…時給1万円ってことじゃない?
このお花屋さんなら大学からも近いし、時間的にも大学の1限目にも遅刻しない。ちょっと怪しいけど、電話してみよう…
「すぐに面接に来てもらえますか?○○花屋です。お待ちしてます。」
よかった、まだ募集してたみたい。すぐに面接に来てほしい、だって。
面接に行くと、スーツを着たオジサンが二人いた。え?面接するのってこの人たちなの?
お花屋さんって感じじゃないけど…
「よろしくおねがいします」
自己紹介と、10個ぐらいの簡単な質問に答えると、オジサン二人が相談を始めたの。
「山田君、この人はピッタリじゃないのかい?」
「はい、調査内容とほぼ一致します。」
みたいな、なんだか上司と部下みたいな会話をして。
「あなたを採用したいと思います。さっそくですが明日から働いてもらえますか」
ウソ!?やったー採用されちゃった。でもホントにこんな楽な仕事で5000円ももらえるんだろうか。
でも実際働いてみて、その不安は消え去った。
本当にただのお花屋さんで、店先の花の水やりとか看板出したりとか、簡単な手入れとか。
それだけで、8:30になったら手渡しで5000円札をくれるの。
ホント、ラッキーだな~私。
あ、でも一つだけ気になることがあるのよね。バイト先の花屋の店長さん、私の仕事内容を全然チェックしないの。ただ、私が道行く人にちゃんと挨拶できてるかだけ、ずーと見てるんだよね。
「店の前を通る通勤、通学の人たちには全員に必ず・笑顔で・元気よく挨拶をしてください。これが最も重要な仕事です」
だって。まぁ、お店の好感度アップってことなのかしら?
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僕はもう、ほとほと疲れ果てていた。会社は僕の業績で経営できているといっても謙遜ないだろう。
給料だって申し分ない。働いた分だけもらっていると思う。でも、僕はこの安らぎのない都会に疲れたんだ。
社長に辞表を出そうとしても、思いとどまってくれ、の一点張り。会社はあの手この手を使って僕を辞めさせまいとする。勝手に会社を休もうかとも考えたけど、正式な手順を踏まずに会社を休むなんて、僕の責任感が許さない。
どんなに仕事をこなそうが、達成感だとか満足感だとか、そんな心を満たしてくれるものはなかった。
そんなある日のことだった。通勤途中の花屋に、元気に挨拶する女性を見つけた。学生だろうか。朝早くから大変だな。
その女性は僕にも元気に挨拶してくれた。
「おはようございます!!」
「…おはようございます」
清楚で美しい、明るい女性に見えた。僕は気の無い挨拶しかできなかったけど、心はなぜか温かくなった。
それから僕は会社に通うのが楽しくなったんだ。毎朝あいさつしてくれる花屋の店子に元気をもらっていたんだ。
がんばって働くのも、悪くない。
今度あの女性に話しかけてみよう。あの人も、仕事がんばってるもんな。
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あーあ。バイト、クビになっちゃった。でも納得いかないのよねー、クビの理由。
通勤途中のオジサンが話しかけてきて、ちょっとこのアルバイトの話をしたのがいけなかったみたい。
いーじゃん、こんなラクチンなバイト、自慢したくなるじゃん?
また割のいいバイトないかなって新聞めくってたら、首つり自殺の記事が目に留まった。うげ、近所じゃん…
はぁ。あんなラクチンなバイト、もうないのかな。
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「すいません、社長。まさかバイトのことをしゃべってしまうとは」
「過ぎたことは仕方ない。会社が仕組んだことだと気付いたんだろう。優秀な社員を辞めさせないために、好みの女性を通勤途中に置くのはいい案だったが…」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話