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中編6
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掴んだモノは……

俺が高校一年の時の話。

夜寝てたら、何故かふと目が覚めた。

何時かはわからないが たぶんまだ夜中。

横になりながらぼーっとしていたら、何かヒラヒラとした白い物が視界に入る。

最初は理解できず、ん?って感じに見ていて それが唐突に『白い腕』だと気づいてぎょっとした。

俺のベッドは部屋の壁際にくっつけてあって、その壁から腕だけが出ている。

それが何かを探すように、ヒラヒラと動いていた。

イメージ的には『メガネ、メガネ……』って感じだ。

嘘だろ〜……。夢だよな?

心臓がバクバクして、変な汗が吹き出す。

その手が俺の掛け布団に触った。

するとまるで、あった!とでも言うように手は布団を掴み、凄い勢いで引っ張り出した。

ちょっと!何、なんなの一体!?

焦った俺は、布団を取られまいと引っ張り返す。

しかしその力は凄まじく、布団はどんどん引っ張られ、とうとう壁に吸い込まれ始めた。

その時点で手を離して置けば良かったのに、必死に布団にしがみついていた為に引っ張られた拍子に頭を壁に思い切りぶつけ、俺は気を失ってしまった。

翌朝、俺は母親の怒鳴り声で目が覚めた。

「あんた!これ、布団何してんの!」

ベッドから転げ落ち、片足だけをベッドにかけた状態で起きた俺は 慌てて布団を見た。

俺の掛け布団は一部がキリ揉み状に壁に突っ込んでおり、それはまるで 小さな穴に無理矢理押し込んだように見える。

「違うって!!俺じゃないって!

夜中に幽霊が俺の布団を引っ張って……」

「馬鹿言ってんじゃないよ!」

バシッと頭を叩かれた。

「まったく……家の壁に穴なんて空けて!布団なんか突っ込んで何やってんの!」

「だから違うって!俺じゃなくて幽霊が」

バシッとまた叩かれる。

「いいから早く直しな!体ばっかり大きくなって、頭ん中は子供のままだねアンタは。」

あったまにきた!俺じゃないって言ってるのに!

無言で布団を引っ張ってみるがびくともしない。

「取れないよ!」

俺がふて腐れ気味に言うと、母親も無言で布団を引っ張り始めた。

二人がかりで布団を引っ張っていたら、突然力が抜けたように布団が抜け、俺と母親はベッドから転げ落ちた。

壁を確かめてみると、さっきまで布団が吸い込まれていた場所には 穴どころかひびさえ入っていない。

「ほら!見てみなよ、穴なんてどこにもないじゃん!

だから言ったのに、俺は何もしてないって。」

「何言ってんの!どうやったかは知らないけどね、変なイタズラしてんじゃないよ!」

母親は全く聞く耳を持たず、逆切れ気味にドアをバタン!と閉め部屋を出て行ってしまった。

も〜、本っっっっ当に頭にくる!

なんで俺のせいなわけ?

こうなると、昨日の腕だけの奴に 恐怖よりも怒りの気持ちの方が強くなる。

絶対許さねぇ!

俺は机の引き出しから、プラスチックでできた線引きを取り出した。

長〜いやつ。

今夜あの腕が出てきたら、これで思い切りひっぱたいてやる。

ほくそ笑みながら俺は、それを枕の下に忍ばせた。

朝飯を食おうと階段を降り下へ行くと、玄関先で親父が何かをしている。

「何してんの 親父。」

俺が声をかけると、親父はニカッと笑いながら バケツを高く掲げた。

「デカイの捕ってきたぞ!今夜の夕飯に出してやるからな。」

またか。うちは海が近いから、親父がこうして時々持って来る。

俺以外の家族は好物らしいが、俺はこれが苦手だ。

いや、嫌いだ。

しかし それを見てふと思いついた事があった。

「なぁ親父、これってどれくらいもつ?」

「まぁ、海水に入れときゃしばらくもつだろ。」

それを聞いた俺は、台所のから豆腐の空き容器(うちはこの容器を、氷を作る為に再利用するから常にストックされている)を持ってきて割り箸でアレを一つ入れ、自分の部屋に置いてきた。

準備は万端!いつでも来い、腕だけの奴!

しかしその夜、今か今かと待っていた俺を嘲笑うように霊は現れず、枕の下に忍ばせた兵器の出番はなかった。

そして次の夜も現れず。

なんだよ、待ってると出ないんだな。

でも俺も一晩中起きて見張っていたわけじゃないし、もしかして俺が寝てしまってから現れたのかも。

早く来てくれないと、豆腐の空き容器に入ってる奴に愛着がわいてしまう。

そんな風に思い始めた三日目の夜、とうとう奴が現れた。

深夜、辺りは静まり返り 下の部屋に寝ている親父のイビキしか聞こえない頃。

部屋の温度が少し下がったように感じると、ベッド側の壁から白い手がすぅっと出て来て、何かを探すようにヒラヒラと動き始める。

一瞬怯んだが、今だ!とばかりに枕の下から線引きを取り出し、白い手目掛けて思い切り振り下ろした。

が、スカッ!と何の感触もなく 線引きは布団を叩いてしまった。

あれ?……やばい。

白い手は俺という目標を見つけ、するすると伸び近づいてきた。

慌ててベッドを飛び降り、机の上に置いておいた最終兵器に手を伸ばす。

割り箸を持ち振り返ると、手はすぐそばまで迫っていた。

この手は一体何メートル伸びるんだよ!?

もう少しで俺の体に手が触れるという時、割り箸でつまんだ物を指先辺りに近づけたら まるで引ったくるように白い手はそれを掴み、壁へと消えていった。

……おいおい、持って行っちゃったよ!

呆然と 手が消えた辺りを見つめていると、2、3秒たってからだろうか。

ドォォオオオン!!と、物凄い音と共に部屋が振動でグラグラと揺れた。

アメフトの選手が、俺の部屋の壁目掛けて体当たりをかましたかのようだ。

ちなみに壁の向こうに部屋はなく、足場もない。

急いで机の下に身を隠し見ていたら、壁から手……だけではなく、髪を振り乱した女が壁から抜け出てきた。

本体だ!本体が出てきた!

さすがに恐ろしくなった俺は、さらに体を縮こませた。

女の手にはナマコが強く握られ、中身がはみ出してしまっている。

女は激しくイヤイヤをするように首を振りながら、凄いスピードで走って反対側の壁へと抜けて行った。

しんと静まり返る部屋の中。

また戻ってきたらどうしようとか、突然襲って来るかもと妄想が膨らみ、俺は一睡もせずに机の下で朝を迎えた。

明るくなりようやく朝が来た事を確認した俺は、机の下からはい出て 弟の部屋へと向かった。

女が壁を抜けて行った先は弟の部屋だったからだ。

何事もなければいいけど……。

恐る恐る部屋に入り見渡すと、弟は気持ち良さそうに静かな寝息をたてて眠っている。

良かった、無事なようだ。少しホッとした。

しかし、弟の部屋の壁にべったりとついた黒い物を見て背筋が凍り付いた。

近づいて見てみるとそれは、あの女が握りしめていたナマコだった。

どうやったらこんな事になるのか、ナマコは真っ平らに潰れ壁に張り付いている。

例え思い切り壁に投げ付けてみたとしても、こんな風にはならないだろう。

もし俺が捕まっていたら、このナマコと同じ運命を辿っていたかもしれない。

そう考えると 全身に鳥肌が立った。

今すぐにでもこれを母親に見せたいと思ったが、客観的にみると 俺が弟に嫌がらせをしたように思われる可能性が高い為、泣く泣くこれを一人で処分した。

ナマコ君には申し訳ない事をしてしまった。

夜中にあれだけの音と振動があったにも関わらず、家族の誰一人としてその事を感じた者はいなかったようだ。

特に物音にうるさい母親も、何も言ってはこなかった。

ナマコ君のおかげなのだろうか。

その後、女が出没する事は二度となかった。

俺はというと、あの一件からナマコが大好きに………………………………………なる訳もなく、やはり苦手な物は苦手なままだったりするのだけども。

『嫌い』から『苦手』へと、確実にランクアップした事は 間違いないようだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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