小学校5年生くらいの時だろうか、私は友人から怖い話として、「首狩りの少女」の話を聞いた。
この「首狩りの少女」は、我々の住んでいる地域に実在するとされる幽霊で、一見すると普通の少女のようだと言う。
首狩りの少女は、普段は学校のクラス内に紛れ込み、皆と同じクラスメイトのような顔をしている。
普通に名前を名乗り、普通に授業を受けて、普通に友達と遊ぶ。
しかし実際は出席簿に少女の名前はなく、遠足などの集合写真にも少女の姿はない。
少女のロッカーは存在せず、成績表もなく、何らの記録にも残らない。
本当は完全に存在しないにも関わらず、クラス内の誰もが少女を存在するものとして、接してしまうのだと言う。
そうして少女の正体に気づかずに日々の学校生活を送っていると、ある日、首狩りの少女は本性をあらわす。
放課後の教室内などで、男子生徒が偶然、首狩りの少女と2人きりになった時、少女はどこからか鎌を持ち出して、男子生徒の首を、ズバッと切り落とすのだという。
今、考えれば、私が通っていた小学校の地域内で男子生徒が何者かに首を切り落とされた事件など、過去に一度も発生しなかったし、この首狩りの少女の話は嘘なのだが、当時、小学生であった私にはこの話は大変に新鮮であった。
クラス内に紛れ込むという首狩りの少女。
もしかすると、自分のクラスにも紛れているかも知れない。
いつも明るく笑っている活発なあの娘は、首狩りの少女ではないか。
窓際で本を読んでいる大人しそうなあの娘が、実は首狩りの少女なのかも知れない。
真剣に考えていたとまでは言えないが、私は漠然とそういう恐怖感を抱くようになった。
そして私はそんな首狩りの少女に対して、どういう訳か、恋心にも似た、淡くせつない感情を持つようになった。
かわいいと思う娘はいても、好きとまでは言い切れる娘がいなかった、それまでのクラスメイトの女子たち。
しかし私は首狩りの少女に対しては、それまでの女子たちとは、どこか違う印象を持ったのだ。
私は首狩りの少女のことを思うと、胸が締め付けられるような気持ちになって、心が苦しくなった。
首狩りの少女は、なぜ男の首を切り落とすのだろうか。
首狩りの少女は、どんな顔をして男の首を切り落とすのだろうか。
首狩りの少女は、いざとなれば、私の首も切り落とすのだろうか。
私は毎日、そんなことを考えて、ほとんど1日中、首狩りの少女のことを考るようになった。
実際に会ったことがあるかどうかも分からない、どんな容姿をしているかも分からない少女のことを、私はいつも想像していたのだ。
言わば、首狩りの少女が、私の初恋の相手であった。
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首狩りの少女の話を初めて聞いてから、数年の時が過ぎて、私は中学生となった。
私の心の中には、未だ、首狩りの少女への強い思いがあった。
中学校では、他の小学校からの生徒と、たくさんの出会いがある。
もしかするとそれらの女子たちの中に、首狩りの少女が紛れているのではないか。
中学生にもなったのに、私はそんな非現実的で幼稚な思いを抱いて、少し心が踊っていた。
中学生になって初めて出来た友人は、馬川くんという男であった。
馬川くんは背が高かった私よりもさらに高身長の男で、爽やかなスポーツマンであった。
彼は大変な馬面で、大きめの鼻の穴のせいもあって、人間よりも馬に近いような顔立ちであったが、爽やかな雰囲気と、ひょうきんさ、人当たりの良さで、女子にもよくモテる男であった。
私は最初の席替えで、馬川くんの席の前に机を置くことになったのだが、彼は持ち前のひょうきんさで、よく私を笑わせた。
ある時など、ねえねえ、という感じで授業中に馬川くんに後ろから肩を叩かれたので、私が振り返ると、馬川くんは尻を丸出しにしてこちらに向けていて、ダイレクトに放屁してきた。
そして時には、同じように肩を叩かれて私が振り返ると、彼は何故か靴ひもで自分の首を締めていて、顔を真っ赤にしながら窒息死寸前で苦しんでいた。
彼の体を張ったギャグは当時の私には大変に面白く、彼のお陰で私は1年次から、笑いの多い学校生活を過ごすことができた。
そんなひょうきんな馬川君であったが、彼は時おり、影のあるような一面を見せることがあった。
何か人には言えない秘密を抱えているような、そんな様子を見せることがあったのだ。
それは特に、私が彼に首狩りの少女の話をした時に顕著であった。
「首狩りの少女って知ってる?」
私は自分が恋焦がれる少女について、ただ何となく、友人である彼に質問してみた。
すると、彼はとても驚いた顔をして、「知らねえよ!」と吐き捨てた。
そしてそのまま黙りこんで、その日は私に対して、一言も言葉を発してくれなかった。
いつものひょうきんで明るい様子とは対照的な彼の様子に、私は彼が首狩りの少女について、何か少し知っているのではないかと疑いを持ち始めた。
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私は中学2年生になっても、馬川くんとクラスが同じであった。
私は変わらず馬川くんと仲良くしていたが、彼の他に、非常に印象に残る人物と同じクラスとなった。
それは金平くんという、非常に金にがめつい、四角く、平面的な顔をした男であった。
私も馬川くんも別段、金平くんと親しかった訳ではないが、金平くんは大好きな金のため、私や馬川くんに近づいてきた。
そして金平くんは、私たちにこのような話を持ちかけてきた。
ある日の放課後の話。
金平くんが帰宅途上、学校近くの通学路上にある木造アパート、『吉原アパート』の前を通りがかった。
するとその吉原アパートの、通学路に面している2階の部屋の窓が、キリキリと開く音が聞こえた。
何かと思って、金平くんがその窓を見上げると、そこにはネグリジェ姿の、20才くらいの豊乳の美女がいて、美女はニッコリと微笑みながら、金平くんに手を振ってきたという。
そして美女は、その時は梅雨時で蒸し暑かったので、
「暑いわねぇ、レモネードでも飲まない?」
と言って、左手に持っていたレモネードのグラスを見せて、金平くんを部屋に誘ったという。
そして金平くんは美女の部屋へ行き、魅惑的な、官能的な体験をして、中学生にして童貞を脱出したのだという。
事を終えた後、その美女は、もっと男子中学生と知り合いになりたいと、金平くんに仲介を依頼したという。
人の好みは色々だから分からないが、私がまず、この話を信じられなかったのが、金平くんがとてもブサイクだということだ。
四角い顔、低い鼻、小さな目、張り出したエラ、どこを見ても美女が誘いそうな要素がない。
それに今どきレモネードというのも変だ。
そして他にも疑わしいのが、この美女への仲介に、金平くんが5000円の金を要求している事実だ。
つまり、どうだ?童貞を脱出したくないか?したいなら美女に会わせてやるから5000円払え、という意味だ。
金にがめつい彼が、金のために適当な話をでっち上げてるんではないのか。
私は彼の話を鼻で笑い、断ろうとした。
しかし意外にも隣にいた馬川くんは、二つ返事でその話に乗ってしまった。
爽やかで、それほど好色でもなかった馬川くん。
私は彼の想定外の決断に、大変に驚かされた。
そして馬川くんの友人として、話の流れで、私も金平くんに美女への仲介をお願いすることになってしまった。
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私たちが仲介を依頼した吉原アパートの美女は、金平くん曰く、本名ではないだろうが、夜鷹さんという名前であった。
私たちは小遣いから合計1万円を金平くんに払い、夜鷹さんの予定がついて呼び出しが来るのを待つことになった。
他の男子生徒の話を聞いてみると、他にもこの誘いに乗って、金平くんに手数料を払っている生徒が大勢いるようであった。
そしてその中には、既に夜鷹さんに会い、童貞を卒業しているという噂の生徒も数名いた。
他の生徒の話では、夜鷹さんは事前に金平くんから、仲介希望の男子全員の写真を受け取っており、その中から夜鷹さんのその時の気分で、23名の男子を次の相手として選別するという。
夜鷹さんに次の相手に選ばれると、金平くんは選ばれた人物に、実際に会う日時などを書いた紙を授業中に回してくるという話であった。
その紙は単なる折りたたんだメモ用紙だが、ある男子生徒はその紙を召集令状になぞらえて、「赤紙」と呼んでいた。
「赤紙」がいつ来るのか、我々は仲介を依頼してから気が気でない日々を過ごしたが、何日経っても、赤紙は回ってこなかった。
代金は既に金平くんに支払ったので、金平くんに金だけ騙し取られたのかと、不安になりさえした。
そうして仲介を依頼してから何日も過ぎたある日、授業中に後ろの席の馬川くんが私の肩を叩いた。
私はまた彼が放屁するか、窒息死の真似事でもするのかと一旦、無視したが、その時は違った。
ついに赤紙が来たのであった。
赤紙には翌日の日付と夜鷹さんに会う時刻、それに私と馬川くんの名前が書いてあった。
金平くんの方を見ると、彼は何事もないような顔をして授業を受けていた。
私は馬川くんと顔を見合わせ、生唾をゴクリと飲んだ。
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翌日の放課後、ついに私たちが童貞を捨てる時が来た。
夜鷹さんと会う時間まで適当に校庭で時間を潰した我々は、夜鷹さんに会うため、仲介の金平くんと一緒に吉原アパートへと向かった。
夜鷹さんの部屋は2階で、私たちは錆びついた鉄の外階段を上がり、部屋の前まで来た。
すると金平くんは、夜鷹さんは後で来るから部屋で待ってて、と言って、先に帰ってしまった。
部屋には鍵がかかっていなかったので、私たちはすぐに部屋の中へ入った。
夜鷹さんの部屋は二間の間取りであった。
玄関を上がると4畳ほどの狭い台所の空間があり、奥にさらに4畳ほどの和室があった。
部屋の入口にはビーズか何かの飾りがやたらと垂れ下がっていて、手前の部屋中央にはゼブラ柄のラグマットが敷いてあった。
玄関を上がって左の洋服掛けには原色のスーツや当時のボディコンみたいなものなど、派手な衣類がかかっていた。
壁紙は全体的にタバコのヤニで黄色くなっており、私は夜鷹さんがかなりケバい人なのではないかと心配になった。
私たちが奥の和室に入ると、和室の中央には既に布団が敷いてあった。
和室の右隅には、4畳ほどの部屋には似つかない、大きめの観音開きの洋服ダンスがあった。
布団の横には化粧ケースのような物と、白い部分が黄色くなった、ヤニだらけのミッフィーのぬいぐるみが置いてあった。
布団の枕側には準備のいいことにティッシュケースが置いてある。
その横にはコンドーム。
私はまた、馬川くんと顔を見合わせた。
「とりあえず、服脱ぐか」
馬川くんが緊張した口調でそう言った。
金平くんに言われて、夜鷹さんが来る前に、なぜかパンツ一丁で待っていなければいけない決まりであった。
私は中学の制服を脱いでトランクス姿になり、制服を畳んで部屋の隅に置いた。
馬川くんもゆっくりと制服を脱ぐ。
そして彼がズボンを脱いだ時、私は大変に驚いた。
馬川くんはこの日のために買ったのか、だいぶ気合いの入った、シルクのようなテカテカの生地の真っ赤なブリーフを履いていた。
私も少し気合いを入れて新しいトランクスを新調したがそれ以上だ。
しかし驚いたのはそれではなく、彼のブリーフの中身であった。
それほど小さい訳でもないのに、パンパンになって、はち切れそうなブリーフ。
体育の時間の着替えなどでは不思議と気づかなかったが、彼は馬並みのモノを持っていたのであった。
私たちはパンツ一丁の姿で布団の横に正座し、夜鷹さんを待った。
ハタチくらいの、美人で、豊乳の夜鷹さん。
想像よりも少しケバそうではあるけども、それもまた良し。
私は緊張と期待で最高に胸が高鳴っているのを感じた。
するとしばらくして、玄関ドアが開いた。
夜鷹さんが入ってきたのか?我々は注視した。
しかし部屋に入ってきたのは、50才くらいのババアであった。
黒髪が混じった中途半端な金髪の、ケバい化粧の女。
低い鼻で、目は小さく、つり上がっていて、出っ歯であった。
服装はだらしなく、上下ともスウェットを着ていた。
私はこのババアはきっと夜鷹さんの友達か、非常に年の離れた姉妹、もしくは母親だと思おうとした。
女はパンツ一丁で正座する我々をじっくり見た後、「結構いいじゃん」と言って笑った。
笑うと、もろに歯茎が見えて、ヤニで黄色い歯よりも歯茎が目立つ。
私はまさかこの歯茎ババアが夜鷹さんなのかと不安になった。
いや、違う、母親だ。母親なんだ。
私がそう思い込もうとした時、歯茎ババアは、
「じゃ、始めちゃおっか」
と言って、どんどんと服を脱ぎだした。
期待が完全に裏切られ、私が意識を失いかけていると、歯茎ババアは全裸となり、布団に横になった。
そして布団の横にある化粧ケースからローションのような物を取り出し、自分の腰の下に枕を敷いて、手慣れた手つきで股ぐらにローションを塗り始めた。
そして足を蛙のように開いて、準備完了といった感じでこちらに視線を向けた。
「はい。あんたから」
歯茎ババアはそう言って、私の膝を叩いた。
私はショックで意識を失いかけていたので、夢遊病者のように移動し、とりあえずババアの股の間に座った。
私はトランクスを履いたまま、ただババアの股の間で正座し、無言で目の前を見つめ続けた。
私はなぜここにいるのか。私はなぜここに来たのか。私はいったい誰なのか。
私は全てを問い直し始めた。
「ちょっと。早くしなさい」
ババアは苛立ち、私の体を足で小突いて催促する。
ババアとは何なのか。歯茎とは何なのか。
私はババアの苛立ちにも上の空で、全てを問い直し続けた。
やがてババアは諦め、「あんたもういいよ、次、次」と言って、私に馬川くんとの交代を促した。
私は虚脱したような感じでふらふらとその場を離れ、自分が正座していた位置まで戻って、馬川くんと交代しようとした。
しかし馬川くんはその時、慌てた様子で、必死に股間を押さえていた。
馬川くんは私の視線に気づくと、股間を押さえたまま立ち上がり、私がいた歯茎ババアの股の間にいそいそと移動した。
いよいよ馬川くんがその馬並みのイチモツを出すのかと、私は注視したが、馬川くんは相変わらず股間を押さえ、股間に向かって何かブツブツと言っている。
やがて歯茎ババアはそんな馬川くんの様子にイライラしてきたようで、「早くしなよっ」と言って、馬川くんの股間を足蹴にした。
するとその時、不思議なことが起きた。
どこからか、「痛っ!」という若い女の声が聞こえてきたのだ。
私は最初、歯茎ババアが何か言ったのかと思ってババアを見たが、ババアは何も痛がっておらず、ババアが言ったのではなさそうであった。
一体誰が?私が不思議に思っていると、また若い女の声が聞こえた。
「ちょー、むかつくんですけど」
どうやらその声は馬川くんの方から聞こえていた。
というか、馬川くんが先ほどから必死に押さえている、馬川くんの股間から聞こえていた。
「まじ、なんなのこのババア。ちょーブルーなんですけど」
やはり股間から聞こえてくる。
私は虚脱状態から正気に戻り、馬川くんの股間から声が聞こえる理由をいくつか瞬時に推測した。
1つ目は、馬川くんのブリーフに何か機械が入っている説。
馬並みだと思われていた彼のイチモツは実は普通サイズで、ブリーフの中にはイチモツ以外に、テープレコーダーなどが入っている。それが女の声を再生している。
2つ目は、馬川くんのブリーフにちっさな女が入っている説。
世の中には今まで見たことのない、ちっさな体の女がいる。その女が彼のブリーフに入っていて話をしている。
3つ目は、馬川くんのイチモツが言葉を話す説。
馬川くんのイチモツはとても大きく、人より進化しているので、イチモツ自体が言葉を話す。彼のイチモツが女声で話している。
私は真剣に考えたが、どの説も微妙で、間違っているような気がした。
歯茎ババアが、「何?あんた?何か言った?」と馬川くんに尋ねた。
馬川くんは必死で股間を押さえている。
するとまた馬川くんの股間から、
「なにか言った?じゃねーし。ちょー、ウザいんですけど。この歯茎」という声が聞こえた。
「歯茎?あんた私の歯茎がなんだって言うの!」
ババアは歯茎がコンプレックスであったようで、そう叫びながら馬川くんに掴みかかった。
馬川くんは驚き、「違うんです、違うんです」と否定する。
しかしそこでまた彼の股間が、「よくそんな歯茎で人前に出れるね」と、火に油を注いだ。
ババアが我を忘れて怒り、馬川くんの体を力任せに揺さぶるので、さすがに私は割って入って止めにかかった。
するとババアは部屋の奥を見て、「あんた、あんた来てー!」と叫んだ。
ババアの呼びかけに呼応するように、突如として、部屋の奥にあった洋服ダンスがガタガタと音を立てて揺れだした。
「うわあ!」
私が驚くと、洋服ダンスの観音開きの扉が開き、中からパンチパーマの暴力団風の男が出てきた。
男はステテコ姿で、手にはビデオカメラが握られている。
「誰が歯茎じゃあ!」
男はこちらに怒鳴りつけながら、ゆっくりと近づいてきた。
「逃げるぞ!」
私は咄嗟にそう叫び、2人分の制服を拾い上げて胸に抱え、パンツ一丁のまま、馬川くんと共に部屋から逃げ出した。
「しばくぞ、こら!」
私たちの後ろで暴力団風の男が叫んでいた。
不思議と暴力団風の男はそれ以上、追いかけてこず、私たちはとりあえず走って近所の駐車場に行き、車の物陰で制服を着た。
私は動揺している馬川くんを励ますつもりで、
「いやあ、金平の奴に騙されたな」
と、努めて明るく彼に話しかけた。
馬川くんは顔面蒼白のまま、制服の上からずっと股間を押さえていた。
後に我々が金平くんを詰問し、分かった話では、歯茎ババアと暴力団風の男は夫婦であり、金平くんの親戚であると言う。
彼らは少年愛者用に、「うぶな男子中学生の童貞喪失シリーズ」というビデオを作り、販売して、一財産を築こうと考えた。
そして金平くんを使って、豊乳の夜鷹さんという、嘘の話で男子中学生を集めさせ、歯茎ババアに相手をさせて、暴力団風の男がそれを撮影していたのだという。
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翌日。私が学校に行くと、馬川くんは既に登校して教室にいた。
そして馬川くんは、
「お前に話がある。後で屋上に行こう」と私を誘った。
昼休み、私たちは2人で学校の屋上に行き、隅っこのフェンスにもたれかかって地面に座った。
周りに誰もいないのを確認すると、馬川くんが口を開いた。
「お前が前に話していた首狩りの少女だけど、その話なんだ」
馬川くんは真剣な顔でそう話しだした。
その後の彼の話をまとめると、だいたいこのような話であった。
馬川くんが私と別の小学校で、小学4年生であったある日。
彼が自宅の風呂で自分のイチモツを洗っていると、彼はイチモツのいわゆる「カリ」の部分に、少し切れ目というか、裂け目というか、直径4cmばかりの傷があるのに気づいた。
彼のイチモツは当時、既に大人顔負けの大きさまで急成長していたので、馬川くんは急成長にともなってイチモツが裂けたのかと心配になった。
しかし触っても、痛みは全くない。
不思議だな、と思って彼がその「カリ」の傷を触っていると、その傷口は突如として、まるで金魚の口のように、パクパクと開閉して動き出した。
うわああ、なんだこれ?馬川くんが驚くと、突如としてその口は、
「お前を殺す」
「お前を殺す」
と低い女の声で話しだしたという。
彼は驚いて飛び上がり、無意識にその場から逃げようとしたが、声は彼のイチモツから聞こえてくるので逃げても無駄であった。
イチモツは変わらず、
「お前を殺す」
「お前を殺す」
と言っている。
馬川くんがパニックになり、イチモツにシャワーの水をかけて反撃すると、イチモツはシャワーの水で話しづらそうになりながらも、
「おま、えをころす」
「おまぁ、え、をころ、す」
としつこいのだと言う。
そして、彼が恐怖でついにその場で泣き出してしまうと、イチモツは急に優しくなり、
「ごめんごめーん。冗談。冗談だから。泣かないでー」
と優しい女の声で話しだした。
イチモツの説明によると、その「口」はある女子高生の霊が馬川くんのイチモツに憑依したことでできたのだと言う。
女子高生は生前、病弱な人であったが、非常に仲がいい彼氏がいた。
そしてやがて女子高生は大きな病気を患ったが、彼氏と会うのを励みに、闘病を続けた。
しかし闘病虚しく、ついに女子高生は力尽きて亡くなったと言う。
彼氏に未練の残った女子高生は幽霊となって彼氏に会いに来たが、そこで彼氏の浮気を知ってしまった。
彼氏は女子高生の親友と付き合っていたのだ。
彼氏は女子高生と親友の両者を騙しながら、二股をしていたのであった。
女子高生は幽霊として彼氏に仕返しをしようと考えたが、しかしその彼氏は、交通事故ですぐに死んでしまった。
恨む相手はいなくなったが、女子高生の怒りはまだ収まらない。
そして女子高生は、浮気をするような生き物として、男全体へと怒りの矛先を向けたのだと言う。
女子高生は男に憑依して嫌がらせをすることに決め、幽霊として繁華街をうろついて、憑依するターゲットの男を物色した。
そこへ偶然、大変な巨根の小学生、馬川くんが現れた。
これは面白そうだということで、女子高生は馬川くんへの憑依を即断したと言う。
どうせ憑依するなら、男が一番嫌がりそうなところにしよう、ということで、憑依する体の場所は、イチモツにすることにしたという。
そうして、馬川くんと女子高生の霊との生活が始まり、馬川くんは嫌がって、霊に何度も、成仏してくれるよう頼んだ。
しかしその度、女子高生の霊は、まだ嫌がらせし足りない、ということで、成仏を拒否したのだという。
何とか馬川くんが学校に行っている間は、周りの友達に憑依がばれないよう、女子高生の霊は一切、声を出さないことに同意してくれたものの、学校から帰って彼が自分の部屋に入ると必ず、女子高生の霊はお喋りを始めて、非常にうるさいのだという。
歯茎ババアの時も黙っている約束であったのに霊は話し始め、馬川くんは大変にパニックになったという。
そもそも、あまり好色でない馬川くんが、金平くんの夜鷹さんの嘘話になぜ乗ったのか、と言えば、馬川くんは童貞を卒業すれば、女子高生の霊が成仏するような、そんな気がしたからだと言う。
女子高生の霊は否定し、その童貞卒業計画をやめるように言ってきたが、彼女は成仏する気がないのだから、嘘を言っているかも知れず、試してみないと分からない。
だから童貞を卒業しようとしたのだと言う。
そして首狩りの少女の話。
彼が小学校4年生で、女子高生に憑依されて間もなくの時、彼はそのことに悩んで、当時の友人に相談した。
しかし、いきなり憑依されたという話をするのは変なので、あくまで彼はイチモツのカリ、カリ首にできた、裂け目みたいな症状の話として、友人に相談した。
「俺のカリ首のところに変な症状がでてきて……」
馬川くんがそう話すと、友人はまだ小学生のため、そもそも「カリ首」がなんだか分かっていなかったらしく、
「えっ!お前、その首狩りの女と付き合ってるの?」
と意味不明なことを言い出した。
カリ首を首狩りと勘違いしただけでなく、「症状」も「少女」と聞き間違えたらしい。
そしてそこに別の女子のクラスメイトが近づいてきて、
女子:「えー?なになにー?」
男子A:「なんかさー、こいつ首狩り族の女と付き合ってるんだってー」
女子:「えー!馬川くん、女の人と付き合ってるのー!やらしいんだー!」
男子B:「えー!!馬川、女と付き合ってるのかよっ!!」
全員(馬川除く):「せーんせーに言ってやろっ!!せーんせーに言っやろっ!!」
みたいな小学生特有の、不思議な展開をして、話がおかしくなったのだと言う。
その後、馬川くんが必死に否定したことで、彼が女と付き合っているという根も葉もない話は取り消すことができた。
しかしその首狩り族の女の話は、どういう訳かその後も話だけが一人歩きし、人々の様々なアレンジを経て、やがてそれは「首狩りの少女」という怪談話となって、別の小学校である私の学校まで伝わったのであった。
そうしてその作り話の首狩りの少女に、私が初恋として、恋をしたのであった。
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首狩りの少女という、突如として男の首を狩る少女とは形態が異なる、カリ首の少女。
しかし彼女はある意味で、私の初恋の相手と言えなくもなかった。
私が思い、恋焦がれていた少女が、話の中で首狩りに変化したのだから。
私は何年も恋焦がれた、その初恋の相手と話をしてみたくなった。
それに馬川くんの話では、歯茎ババアと対峙した時の、少女の、当時のコギャル的な言葉遣い、これはババア相手だからそのように汚い言葉遣いになっただけで、普段は少女は普通の話し方をする、普通の娘だという話であった。
自分も馬川くんのように、少女と話をしてみたい、私の思いは日に日に募り、私は馬川くんにお願いして、ある日、一緒に男子トイレに来てもらった。
男子トイレの洋式トイレの個室に馬川くんと2人で入った私は、馬川くんにお願いし、彼にブリーフ姿になってもらった。
その方が、少女と会話がし易いからだ。
事前に少女には、学校内でありながら、私との会話では言葉を自由に発していいと、馬川くんから許可を出しておいてもらった。
馬川くんに洋式便所の便座の上に仁王立ちしてもらい、私は少女と話をすべく、立膝をついた。
そして少女が私の声を聞き取りやすいよう、私は馬川くんの股間に顔を近づけ、彼の股間に話しかけた。
「こんにちは。お話できますか」
私は少女にまず何を話すべきか分からなかったので、とりあえずそのように挨拶した。
私は馬川くんの股間に耳を傾け、少女の返事を待った。
しかし幾ら待っても、少女からの返事はない。
聞こえなかったのかな、私はそう思って、今度は馬川くんの股間にさらに顔を近づけ、より大きな声で話してみた。
「こんにちは!この間は大変でしたねえ!」
私はそう言うと、また彼の股間に耳を傾けた。
しかしやはり、少女からの返事はないのであった。
「彼女、少しシャイなところあるからなあ」
馬川くんは少女の気持ちをそのように解説した。
私は初恋の女性に相手にされなかったと、悲しい気持ちになって、少し涙ぐんだ。
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その後も何度か少女との会話にトライした私であったが、少女が返事をしてくれることはなかった。
そしてある日の休み時間、意外なことがあった。
「よお、お前に会わせたい人がいるんだ」
そう言って馬川くんは、私を廊下に呼び出した。
廊下には何度か見たことのある、後輩のかわいい女の子がいた。
私も登下校中に何度か見かけては、少しいいなと思っていた娘だ。
「俺と付き合うことになったんだ、バレー部の後輩の子で」
後輩の女の子は馬川くんの紹介を受け、ペコリと頭を下げて私に挨拶した。
バレーボール部で活躍していた運動神経の良い馬川くんに、同じバレー部の彼女の方からアタックしたという。
「おお、いいなあ。やったなあ、馬川」
などと言って彼の肩を叩いた私であったが、内心くやしかった。
夜鷹さんの話が嘘で童貞を卒業しそびれた私たちであったが、馬川くんは近いうちに童貞を卒業するのだろうか。
私だけが置いて行かれて、いつまでも童貞のままになるのだろうか。
私はその時、そんな風に考えてしまった。
それから数日して、私が朝、登校すると、馬川くんが非常に嬉しそうにニコニコしていた。
なんだ、ついに童貞を捨てやがったかと思ったが、そうではなかった。
「やった!あの娘がいなくなったよ!」
馬川くんはそう言って喜んでいた。
この前できたばかりの彼女と、もう別れたのかと思ったが違った。
彼のイチモツの少女、カリ首の少女がいなくなったのであった。
「昨日風呂入ってたからさー、口が無いのに気づいて。いつの間にかいなくなってたんだよねー、あいつ」
馬川くんはそう言って小躍りしていた。
それはまあ、彼女ができたのだから、イチモツに口がついていたら邪魔だろう。
しかし小学生の時から何年も同じ時を過ごしてきた女性が突如いなくなって、素直に喜ぶものだろうか。
私は少し彼の考え方に違和感を持った。
そして私が考えるに、きっとカリ首の少女は、馬川くんに彼女ができたことで、邪魔をしちゃいけないと、身を引くようにいなくなったのではないだろうか。
そんなカリ首の少女の気持ちを考え、私はせつない気持ちになった。
そしてその話を聞いたとき、私はもう少女とは会えなくなり、私の初恋が終わったことに気づいたのであった。
カリ首の少女は彼のもとを去って、どこへ行ったのか。
成仏したのか、それとも他の人のところへ憑依したのか。
私は少女が私のイチモツに憑依してくれないかと密かに期待しだした。
初恋の人との、言わば同棲生活。
私は馬川くんのように、少女を裏切ったりはしないだろう。
そのように考えて、私は風呂に入るたび、念入りにイチモツをチェックしたのだが、私の息子に裂け目みたいな口ができる気配はなかったのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
それから、20年近い月日が経った。
あの時は若かった私も、童貞のまま30代を迎え、中年となった。
あの日から風呂のたび、チェックしていたのだが、結局、私のイチモツに口ができることがないまま、月日が過ぎていた。
しかし最近になり、奇妙なことが起きた。
冬の日。
私がいつものように風呂でイチモツをチェックしていると、馬川くんの話と同じような場所に、裂け目を見つけた。
私が驚いていると、その裂け目はやはり金魚の口のように、パクパクと動きだした。
ついに少女が、初恋の少女が帰ってくる、私の心は躍った。
そしてイチモツは念願の言葉を発した。
「うわ、成功か?夢、叶ったわ」
それは野太い男の声であった。
「いやー、夢叶った。お兄さん、よろしゅう頼みます」
誰だ?男?私はイチモツに聞いてみた。
「あのー。どちら様ですか?」
イチモツが答える。
「ワシはワシや。誰でもない。前々からチンポになりたい思ってたんや」
それは初恋の少女ではなく、どこかのホモのおっさんであった。
「困りますよ。他を当たってください。チンコにオッサンが憑いてたら、女の子も嫌がります」
私は少し見栄をはって、そう言い放った。
「困ることあるかい。だいたいお前、こんな汚い部屋住んで、女なんかおらへんやろ」
イチモツには目が無いのだが、前に馬川くんに聞いた話では、霊たちはちょうど霊視のような形で、周囲のものを見ることができるのだと言う。
だからおっさんも私の部屋の様子が分かったのであった。
「今はいなくても、これから彼女ができるかも知れないでしょう!その時に困るんです!」
私がそう反論すると、
「お前、見た感じ30代やけど、雰囲気から察するに童貞やろ?今まで30年以上女がおらへんかったのに、これから急に女ができることあるか、ボケェ」
私はおっさんにそう言われ、言いくるめられてしまった。
私は何とかおっさんを追いだそうと思案し、ある作戦を考えた。
「私よりもいい男がいるんで紹介します。それに乗り換えてはどうですか」
おっさんはこれには考える余地があったようで、じゃあ今すぐその男を紹介しろ、と言い出した。
私は風呂を出て、既に夜9時を回っていたにもかかわらず、冬の寒さの中、外に出かけたのであった。
私は外を20分ほど歩き、ある家の前に来た。
比較的新しい、立派な作りの家だ。
この家には30代の主人と奥さんが2人で住んでいる。
その主人とは、あの馬川くんであった。
馬川くんはその後、結構な出世街道を歩み、都心のこの場所で、30代にして立派な一軒家を建てたのであった。
馬川くんの奥さんは、あの時の中学の後輩。
若かりし頃の恋愛を成就させ、新築の家も建てての、幸せな結婚生活。
童貞街道を歩み、ワープアで生活に苦しんでいる私とは対照的だ。
「この家です。馬川くんと言います。見えますか?」
私が腰をかがめて自分のイチモツに話しかけることで、おっさんに話しかけると、
「なかなか、ええ男やな。それに立派なモノを持っとる。よし、ええで。こいつに移ったる」
と、おっさんは馬川くんへの憑依に同意してくれた。
「それじゃあ、さっそく移りましょうか。お願いしていいですか」
私はおっさんの気が変わらないように、おっさんに早速の移動を促したが、おっさんに断られた。
「ダメや。今は取込み中や」
「取込み中?」
「奥さんと仲良うしとるところや、邪魔するわけにはいかん」
馬川くんは奥さんとベッドで仲良くしてる最中なのであった。
「仕方ない。待ちましょう」
私はそう言って、馬川くんと奥さんの仲良しが終わるまで待つことにした。
しかし、10分、20分、30分経っても、おっさんからの終了の報告はない。
「まだですか?彼らはまだやってるんですか?」
「まだや。今一番盛り上がっとるとこや」
真冬の極寒の中、私は風呂上りに30分もじっと立ち尽くしたので、体の冷え込みが限界にきていた。
温かい家の中で、愛する奥さんと仲良くしてる馬川くんと、極寒の中、外に立って、自分のイチモツに話しかけている私。
私は自分がミジメでミジメでならなかった。
先程まで私は、おっさんを馬川くんに移すのは馬川くんに悪いかな、と少しだけ思っていたのだが、その気持ちは完全に消え失せた。
「寒いか?」
おっさんが寒さで震える私を気遣い、声をかけてくれた。
「さすがに寒いですね。限界です」
私がそう言うと、
「そうか、まだ途中やけど、しゃあないな、もう移るか」
おっさんはそう言って、クッ、と何か力を込めた。
そして、
「ほなな。ええ男紹介してくれてありがとう」と、私に最後の挨拶をした。
私は「短い間でしたけれど、楽しかったです」と言葉を返した。
その会話のすぐ後、おっさんが移転する影響だろうか、私のイチモツが突如として、まばゆい光を放ちだした。
私はズボンの隙間から漏れる光を必死に押さえ、近所の人に気づかれないように苦慮した。
やがて20秒もすると光はなくなり、私がチェックのため自分のイチモツを触ってみると、イチモツの口も無くなっていた。
おっさんは無事、馬川くんに憑依できたのだろうか。
私はそれが気になり、その後もその場に留まった。
すると突然、
「奥さん、お取り込み中、すんまへん!馬川くん、これからよろしゅう頼みます!」
おっさんの大きな声が聞こえた。
おっさんは外の私にも憑依の成功が伝わるよう、あえて大きな声を出したようだ。
私が安心し、その場を立ち去ると、
「キャーーー!!!!」
後ろから奥さんの悲鳴が聞こえた。
私はニヤニヤと笑い、イチモツを掻きながら、その場をあとにした。
怖い話投稿:ホラーテラー 山下の息子さん
作者怖話