数年前彼女と伊豆に遊びに行った時の事です。
釣りの好きな俺は伊豆のある防波堤で釣りをしていました。
平日だし宿の予約もしないまま夕方まで釣りをして、旅行案内所に向かいました。
どこか泊まるところが有るだろうと安易な気持ちでいましたが、旅館・ホテルには空きが無く案内所の人はペンションをすすめてきました。
案内所の人が言うにはそこは改装したばかりで綺麗な建物と言うのでそのペンションに決めました。
宿に着くと遅い時間だったのですぐに食堂で食事が用意されました。
食堂の奥にはバーカウンターがあったので、「食事が終わったら飲めるの?」と宿の主人に聞くと快くOKしてくれました。
彼女と一度部屋に戻ってから、他の宿泊客が入浴している時間をバーで飲もうと食堂の奥のバーに行きました。
宿の主人を交えて一緒に飲んでいると意気投合して話がはずみました。
彼女は潮風を浴びた事もあり、先に入浴して部屋で待っていると先に席を立ったので、主人と一緒に飲んでいました。
一度部屋に戻り風呂に行くと、そこは主人自慢の伊豆石を使った大き目の家族風呂でした。
入浴中の札をかけて脱衣所の内側から鍵をかけて入浴するタイプです。
大き目の風呂に一人で入っていると脱衣所から風呂に続く曇りガラスに小柄の人影が有りました。
鍵を掛け忘れたのかと思い「入ってますよ」と言っても人影はそのままです。
他の宿泊客かもしれないので扉の所まで行きもう一度「入ってますよ」と言ってみたが人影はそのままです。
しょうがないので曇りガラスの扉を開けました。
すると誰も居ません。
見間違いかと思い、また湯船に浸かりましたが、気味が悪いので早々に部屋に戻りました。
部屋に戻り、彼女は怖がりなのでそれとなく風呂に入っていた時に何か変った事が無かったか聞いてみたけど何も無かったといいます。
やっぱり気のせいだったかとその日は釣りの疲れと飲んだせいもあり寝ました。
深夜、隣の部屋からバリバリ・バリバリと音がしていたので目が覚めました。
たまにズズーっと重たい物を引きずる様な音もします。
彼女は気がつかず寝ているようなので、一人で廊下に出て隣の部屋の扉の前まで行きました。
その頃には音も止んでいて自分たちの部屋に戻ろうとしたとき、廊下の先に白髪を振り乱した小柄の老婆がいました。
ギョッっとして見ていると老婆はすべる様に移動して隣の部屋の近くで消えました。
俺はドキドキして部屋に戻って彼女の布団に入り背中をくっつけて寝ました。
彼女は「どうしたの?」って聞きましたが、怖がると思いその時は言いませんでした。
俺は眠れず朝を待ち、彼女に釣りに行こうと誘い明け方二人で堤防に向かいました。
彼女と堤防に向かう途中散歩をしているおばあさんとすれ違い「おはようございます」と彼女が挨拶をしました。
堤防に着いてしばらくすると宿の主人が顔を出してくれたので、思い切って昨夜のことを話ました。
すると主人は改装する前は長いこと民宿を営んでいて、主人のおばあさんにあたる人はとても面倒見がいい人だったけれど、亡くなる数年前からボケてしまって、部屋で畳を掻き毟ったり、テーブルを引きずったりしていたとの事でした。
主人の自宅が宿の上の階にあり、何かの縁だから線香でもあげてくれと言われました。
彼女には本当の事が言えないまま、自宅に招待されたから行こうと言いました。
俺は憑かれたく無かったので線香をあげていると彼女が遺影をみて
「あっ今朝のおばあさん!」って言いました。
怖い話投稿:ホラーテラー 味人さん
作者怖話