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中編5
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砂利蛇女

一昨年の夏、夏休みに母の実家のある四国へ帰りました。

近畿からJRを乗り継ぎ手土産にと途中下車をしていたら、予定時間を上回り一時間に一本のバスに乗り遅れました。

次は21:32です。

設備不十分と言うか、約50m置きにしか灯りはありません。

日も暮れて、田舎なのでバス停の街灯だけでは真っ暗で怖がりな僕には十分な演出でした。

「こんばんわ。」

藤原紀香似の女性に声をかけられ「落とされましたか?」と聞かれました。

いつの時代?みたいな赤黒い扇子を渡され、広げてみると金等で鶴の絵が入ってました。

年代物ならオークションで…と、軽い気持ちで受け取り

話し相手になってもらい、待ち時間が過ぎていきました。

あと5分に差し掛かった時でした。遠くの方から微かな声で

「あなや悔しや、はないちもんめ。」

確かに聞こえました。

しかし、彼女は気付いてないのか自分にだけ聞こえているのか冷や汗が出てきました。

その10分後、ようやくバスに乗り揺られながら実家へ着きました。

実家があるのは海の近くで波の音以外は静かで、数件の民家だけで親戚固めと言った処です。

「ようきたね。」

婆ちゃんが出迎えてくれ、中に上がり手土産を渡し、遅いので風呂だけ入り4畳の仏間でその日は寝ました。

(シャン…シャン…シャン…シャン)

物音で目が覚め携帯を見ると、まだ3時でした。

窓の外の砂利道を歩く音が聞こえ「珍しいな〜」くらいで、また寝ました。

翌日婆ちゃんに

「ケンちゃん(僕)、挨拶行ってきい」と言われ、昼過ぎに親戚へ挨拶回りにいきました。

夕方に差し掛かり、良く遊んで貰ったカズ叔父さんの家に行った時

玄関手前で「バン!!!!」っとガラス戸を蹴る(叩く)様な大きい音がして、叔父さんが出て来ると同時に置き塩をかけられました。

叔父さんは奥さんと何か話して、中に入れてくれ

「こっち来るときなんか変わった事なかったか?」

と真剣に聞かれました。緊張して黙っていると

「ゆっくりしときなさい。」

と優しく言われ、神棚のある広間に案内されました。

大木で出来た大きな机以外特に何もなく、寝転がってると

「あの子が欲しい、あの子や分からん…」

と花一匁が聞こえてき

シャン…シャン…シャン…シャンと、また足音が通り過ぎ親戚の子供でも遊んでいるのだろうと思い聞き流しました。

20時すぎ、親戚が集まり宴会が開かれました。

13人が久しぶりの顔合わせに盛り上がり酒を飲んだり騒いだり、ほろ酔いで暑くなりました。

持っていた扇子を出し扇ぐと、神棚がパキッと鳴り婆ちゃんが見に行くと中の鳥居が壊れてました。

さっきまでの盛り上がりは一気に冷め、皆真剣な表情になっていました。

叔父さんに「貸しなさい」と扇子を取り上げられ、「どこで拾った?」と聞かれました。

バス停での出来事、今朝の話をすると爺ちゃんが口を開き

「気に入られてしもたな…」

と言いました。

「神様も耐えられん、移動しなさい」と叔父にあまりに深刻な顔で言われたので泣きそうになっていると

飾ってあったぬいぐるみに「ケン」と書き広間に残し身代わりをたて、親戚に囲まれ数珠を握りながらワゴンへ乗り込みました。

爺ちゃんの話によると

昔この辺の地域で、当時評判の芸者だった女が賭博狂いの男に裏切られダルマとして売られ殺されたあまりの悔しさ、我が子欲しさにさ迷い気に入った者を連れ去ると言う。

神隠しにあった者は数日後、頭に手足が刺された状態(赤子サイズ)で海に上がる。

被害者は生前に、扇子、童謡、砂利が共通していることから

古く砂利蛇女(じゃりじゃめ)と呼ばれているらしい

しばらく走り、普段あまり行かない山に着きました。

そこからはワゴンから降り、目の前の暗い石段を叔父さん達5人に円の形に囲まれたまま登り出しました。

鳥居が近くなった時、叔父さんが

「ここからは声をだしちゃいかん。」

と言い、鳥居をくぐりました。

黙って俯きながら進むと、数分後境内に着き

連絡を受けていた住職さんが出迎えていてくれました。

僕はホッと安心して、叔父さんが何か話しに行きました。

しかし、安心も束の間でゾッとしました。

叔父さんは住職と目の前で喋っているのに、暗がりの中何の違和感もなく僕の周りにはまだ5人いたのです。

誰も喋らず個々に数珠を握っている様で、案内されるまま中に入って行きました。

大仏の裏の部屋のガラっとした8畳程の座敷で、薄暗い仏壇と蛍光灯に照らされ

住職さんに墨で口に何か書かれました。

(鏡も無かったのでわかりません)

部屋の中央前よりに座布団があり、その四隅にロウソクが立てられ塩で線が引かれてありました。

何があっても声をださない事、夜が明けるまで座布団から動かない事。

を言われ、数時間の辛抱だと座りました。

住職がロウソクに火をつけると共に叔父さん達は出て行き、御経を唱え始めました。

今が何時かも解らず、夜中と言う事もあり正座のまま寝かけた頃

(シャン…シャン……の子が欲しい…シャン)

と微かに耳に入ってきました。

冷や汗が止まらなく目が覚めてき、住職の方をジッと見つめていました。

段々声がハッキリしてき、僕の周りを何週も歩いているのがわかりました。

「あの子が憎い、あの子がわからぬ…と恋し…」

歌詞が解るくらいになった頃足がしびれて体勢を崩してしまった時、ロウソクが倒れてしまい

目線上に引きずられた裾が見えました。

もう、その時点で死ぬと思いました。

恐怖で声も出なかったです。

どうやら僕が声を出さない様、姿が見えない様にしていただけの様で

その後もぐるぐる回っていたのですが、気が付けば姿が見えなくなっており

「助かった!」と思い少し後ろを見上げました。

そこには、深い赤の立派な着物(ドラマの大奥みたいな)を着た、頭が前後真逆に回転した女性が立っていました。

思わず前を向き頭を抱え俯き、勢い余って床に「ゴン…」とぶつかりました。

頭の上で

「籠の中の…鳥は…」

最後だと思い、持っていた数珠をヤケクソに端へ投げました。

砂利蛇女はスッと数珠の方へ行った様で

「…愛しや…我が子」

と言い声が薄くなっていきました。

それと同時に数珠が弾けて僕の方まで飛んできました。

縁側の方をみると徐々に明けてきており、「やっと朝だ…」と思っている時

視界に砂利蛇女が映りました。

後ろ姿に見える顔の正面は、焦点がズレており、ニタァ〜と緩んだ口元からはハッキリと

「マ・タ・ネ」

と残し、消えて行きました。

10分くらいしてから御経も終わり、住職が来て

「二度とこの地に来るな」と言われ、叔父さん達に駅まで送ってもらい近畿の自宅まで帰りました。

荷物も、持って帰るのは危ないとの事で婆ちゃんが処分しとくと電話がき

あれ以来お盆も行ってないです。

ただ、この話を書いたのは

あの時の住職さんが先月老衰されたとの連絡が来たので…。

いつか僕も海にあがるのでしょうか。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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