こういう所で話すべきか迷うが…もう話さないと耐えられそうにないから話す。
俺は、ライフラインに関わる企業で夜勤をやっている。
もっとも、夜勤とは言え大した事はしていない。
ただ一晩中、見張ってるだけの仕事だ。
にも関わらず、低学歴の俺でも結構な給料が出る…良い仕事だ。
実際、俺が夜勤でも選んだ理由は、そこにある。
だが、そんな楽な仕事なのに奇妙にも人気はない。
むしろ辞めていく人が入る人より多い位だ。
もっとも、俺なんかみたいな連中は普通に働いていたがな。
だって低学歴でもまともな収入なんて、なかなかあるもんじゃないぜ?
普通なら辞めない、なにがあっても…
そう、俺は先日の夜勤までは思っていた。
今から書くのはそんな先日の夜勤で体験した実話だ。
大した内容ではないが、許してくれ。
………………………
「あぁ、疲れたぁ…」
俺は、今まで見ていた書類の束を机に投げ出す。
書類は机の上でばらつき、一気にやる気をそいだ。
まあ…投げ出した時点でやる気はほとんど残ってなかったが。
今回の夜勤中に終わらせなければならない書類ということで、珍しく意気込んで始めたが、目は疲れと眠気で自然と閉じようとするし、頭は完全にボーとしていた。
集中なんて出来るわけない。
「はぁ、交替時間、まだかなぁ」
ため息混じりに呟きながら、俺は時計を見る。
時計は無情にも未だ交替時間の30分前を示していた。
自分の机から見える休憩室のドアは開きそうにない。
まあ、そりゃそうだ。
夜勤をやったことある奴は分かるだろうが、夜勤においての休憩は仮眠の為にあるようなもんだ。
だから、当然のようにギリギリまで使うし、今日に至っては夜勤のペア(夜勤は2交替の為、二人で行う)が時間を過ぎても寝てるのが当たり前の奴だ。
万が一にも起きてくる訳がない…。
そう諦めていると、不意に凄い勢いで休憩室のドアが開いた。
何事かと見てみると、土気色の顔でペアが突っ立っていた。
普段から、体調悪そうではあったが、今日は特に悪そうだ。
「顔色悪いな…大丈夫か?」
「……」
気遣う言葉をかけるが、ペアは心ここに在らずといった感じ。
かなり不安ではあったが、普段からこう言う面はあったし、何しろ俺は眠かった。
勝手に交替を珍しく早めにする気になったんだろうと決めつけ、ペアを休憩室から連れだし、形ばかりの引き継ぎをする。
その間もペアは終始無言で、気味が悪かった。
引き継ぎが終わると、この時点で眠気が耐え難くなっていた俺は休憩室に直行した。
休憩室に入る寸前、ペアが何か呟いた気もしたが、普段から言動がおかしな奴だったのでスルーした。
…でも念のため、欠伸をしつつ、俺は休憩室の中を見回す。
しかし、やはりいつもと同じ休憩室で、あるものと言えば簡素なベッドにエアコンのリモコンのみだ。
俺はすっかり慣れた手つきでエアコンを設定し、ベッドに潜り込む。
ベッドから天井を見上げ、いつものように俺は顔をしかめる。
天井にはポッカリと穴が空いているのだ。
どうもその穴の先にエアコン本体があるらしく、エアコンをつけると送風されてくる。
その風は埃っぽく、俺がベッドに横になると丁度顔の位置に吹き付けるのだ。
その内慣れるだろうと思っていたが、未だに慣れない。
しかし、位置をかえるわけにもいかないから、仕方なく気にしないようにして寝た。
それか幾ばくかの時間が過ぎた頃、俺は不意に目が覚めた。
なんだか、やけにしつこい視線を感じたのだ。
ペアの奴が見に来たのかと思い、「どうした?」と聞こうとしたが、奇妙な事に口が動かない。
慌て起き上がろうとすると、今度は首から下が動かなかった。
何故か分からず困惑していると、天井から「カリ…カリ…」と音がする。
最初は気のせいかと思っていたが、音は段々激しく、頻繁になっていく。
最後には何かを引っ掻いているような「ガリガリガリガリガリガリ」と言う音になり、俺は身体が動かないまま、恐怖で逃げ出したくなり天井に向かって「助けて…」と情けなくも考えてしまった。
その時だ、奴が現れたのは…天井に空いた穴に突如気配が生まれ、穴から俺を凝視してきた。
まるで品定めでもするように、濃厚な視線が頭からかかとにかけ、浴びせられる。
そして、また頭に視線が戻ってきて数瞬経ち、気配は消えて、「ガリガリガリガリガリガリ」と音がする。
そして音は段々と小さくなり、最後には無くなった。
なぜか、この時一緒に身体も自由になったが、俺は気を失ってしまった。
…………………
以上が俺の経験した全てだ。
ちなみに関係ないかもしれんが、聞いた話によると、昔は夜勤が辛く、夜勤中に過労死する人がいたらしい。
そのためか、今でも誰もいないはずの部屋で人影や心霊体験をする人がいるらしい。
ああ、そう言えばこんな事も言ってたな。
休憩室の穴、どうもダクトと言うらしく、ダクトをつかい、他の部屋とつながっているらしい。
なんでもコスト削減で各室にエアコンを置くより安価にできるからだそうだ。
でも、それじゃあさ…
あいつ、どの部屋から来たんだろうな…
怖い話投稿:ホラーテラー とある夜警の呪視幽霊さん
作者怖話