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これは私が専門学校を卒業して最初に就職した老人ホームでの事
そこは新設で何もかもが新しいスタートだった
一階が寝たきり病棟、二階が痴呆病棟、三階が自立病棟で私はずっと三階担当として働いていた
一・二階と違って三階はショートステイといって期間限定で泊まりに来る入居者さんの部屋があり入れ替わりが一番激しい階だ
ある日一組の老夫婦が入居となった
勿論ショートステイの扱いとしてだったが、まだ部屋は大分空いており手続きが下りればいずれ正式に入居になるかもしれないというほぼショートではない話も聞かされた
その老夫婦は旦那さんが寝たきりのオムツ全介助、奥さんは杖をついてなら一人で歩行可能・身の回りの事は自分で出来るという事…でも二人共に下着に浴衣三着のみの荷物…私達職員から言わせればとても困る程少ない着替え…
しかも自立病棟に寝たきり…でも仕方がなかった…上が決めた事なので無理とも言えない
部屋には身体にベルトを着けて吊り上げる事が出来る機械が設置されている
入居初日からその夫婦の奥さんの方が厄介な事になる
一日何回もナースコールを押すのだ
聞いてみると『主人が何か言っています』というもの…ただ少し声を出しただけとか唸っただけとか…旦那さんに何か用事があるか聞いても本人は『何も用はない』とか…
そんなやり取りが一日何回もだ…ただでさえ忙しいのに更に無駄な動きとなり一部の職員はあえてナースコールに出なかったりこっそりナースコールを抜いたりしてた…わからなくもない
だが入居して間もなくだった
奥さんの足に浮腫みがみられるようになり受診をした結果利尿剤の服用と排泄のチェックの指示が出た
水分摂取と排尿回数のチェックで様子を見ていた…奥さんからは『足が痛くて中々歩き辛い』と…
だがその浮腫みは更に悪化していきとうとう両足が紫に
歩く事も出来なくなりまた受診…そのまま入院となった
職員としては楽になった
だって意味もなく呼ばれる事から解放されたんだから…そう思っちゃいけないけどそれが皆の本心だった
だが入院して一週間経ったある日…その奥さんが病院でそのまま亡くなったという連絡が…
余りにも早すぎて誰もがビックリした
奥さんの遺体がホームの霊安室に帰ってきた…本当は旦那さんも一緒に火葬場に行くのが当たり前だが近くの火葬場まで二時間かかる…寝たきり車椅子では耐えられないと判断しホーム入口で奥さんの遺体が乗せられた霊柩車を職員と一緒に見送る事となった
やがて旦那さんは寝たきり病棟に移された…だがこれも偶然なのか奥さんが亡くなった一週間後肺炎を起こし入院…そのまま亡くなったのだ
『主人が…』といつも口癖のように言っていた奥さんが迎えに来たんじゃないの!?と職員の中で噂となった…奥さんは老衰、旦那さんは肺炎だってちゃんと病名知らされてだけどね
そこからだ…あんな体験するなんて思ってもいなかった
夜勤中ナースステーションの奥で休んでいるとナースコールが鳴っている…夜中だからさ音は小さくしてるんだ、こんなんで他の入居者さんが起きて来たら夜勤が平和に終わらないからね
何処かしら…
名前のない部屋のランプが光ってる…
しかもショートの部屋…
ん!?
ここ何処だっけ!?
でもね…その一瞬で思い出したんだけど…その日ショートの部屋誰も入居してなかったんだよね…
超ービビったよ…マヂで…
凄い考えた…余りにも怖すぎて直ぐナースコール切ったけど…誰か部屋間違えて入ってるんじゃないかとか…そしたらこんな真っ暗の中探しに行かなくちゃダメじゃん…やめてくれよ…みたいな
案の定そこはあの老夫婦の部屋…
二・三回あったんだよね…それがさ…
他の職員に聞いてみたけど…私だけでさ、話した事で余計他の職員ビビらせてしまった訳
その【ナースコール事件】が落ち着いてやれやれ思っていたまたある夜勤中での事…
ナースステーション前の部屋の入居者さんがトイレに起きて用を済ませた後にベッドに戻らないで廊下に出てきたんだ
時間は午前0時…
耳が遠いおばあちゃんでさ、声掛けに行ったのよ
『どうしたの~?』
『あぁ~オシッコしてきたんだ~まだ寝る時間だねぇ~』
『今ねーまだ12時だからー6時になったら起こしてあげるからまだ寝てていいよー』
『あぁ~そうかいそうかい、じゃあまた寝るかねぇ~あの人には声かけなくてもいいのかい?』
声デカイって…話長くなりそうだな…早く寝てくれよ…
『誰?何処にいるのよ』
『あそこにいるじゃないかよ』
やめろよ…
『何処よ…』
『あんた見えないのかい!!あそこに浴衣着た杖ついた人が立ってんじゃないか!!』
もー終わったね…このばあちゃん見えてんだよ
『わかった、あの人にも声かけるから先に休んで』
『じゃぁ~今言いに行きなさいよ!!』
駄目だ…誤魔化せない…
『何処に立ってんの、ここ!?』
そう言いながら私は後ろ向きに一歩ずつ下がって行った
『違う!!』
『ここ!?』
『違う!!』
そんなやり取りというか言い合いしながら
『そこ!!』
私が止まったのは…その亡くなった夫婦がいた部屋の前…
部屋の前に立ってるっていう事は…多分今私の隣にいるか私と被ってその場にデテきてるんだよね!?
もー帰りたかった…
私は誰も居ないとこで話し掛ける演技をした…すると起きてきたばあちゃんはそそくさとベッドに戻って行った
嘘じゃない…マヂで帰って来てる…
あのナースコールもただの偶然じゃない…キテル!?!?
真っ暗で非常口の緑のランプがぼぉーっとついてる廊下にたった一人ってヤバいくらい恐ろしいんだよ!?
早く朝になって早番来てくれよ…ずっとそれしか頭になかった…
一人でこの恐怖を思い出にかえる事なんて出来ないからまた話したよ、したらね…いたんだ、他にもナースコール聞いた人が…
何故かそこでホッとしたね…自分だけじゃなかったからさ
それから間もなくその部屋に新しい入居者さんが入ったんだ
まだ全然若くてね、55歳
本当は65歳からの入居なんだけど骨粗鬆症で毎日座薬を使わないと全身の痛みで動けなくなる、そして一人暮らし…だから特別待遇だ
お茶目な人でさ、21時消灯なんだけど0時まで眠れないからっていつも内緒でお菓子に珈琲で煙草を吸いながらいろんな話をするのが日課だったんだ
私は凄くその入居者さんが好きで私も煙草を吸うから夜勤の時は私もお茶菓子買ってって良く話してた
ある日の夜勤の時だった
『この前ね…金縛りにあったのよ…』
そんな話をしてきたんだ
『上向いて寝てたら急に身体が固まって…そしたら天井に機械あるでしょ?そこからね…白髪のお爺さんがこっちを見てるのよ…私見間違いかと思って目を擦ったんだけど…やっぱり見てるのよ…』
恐ろしくなった…
その入居者さんの部屋はあの老夫婦がかつていた部屋…そしてその入居者さんが今寝ているベッドは元々亡くなった旦那さんが寝てたベッド…白髪も正解…
『あっ…そうなの!?気持ち悪いねぇ…』
こっちが一番気持ち悪いんだけど…
でもそんな過去言えないからしらきるしかなかったよ…
この体験は私の中で一番恐ろしくて忘れる事なんて出来ないな…
作者れこれこサン