昔、幼なじみの悪ガキでシンちゃんって奴がいた。
俺のウチもシンちゃんのウチもとても貧乏だった。
俺のウチはボロアパートの1階、シンちゃんのウチはボロい借家でお互い親は共働きだったから夕方までいつも一緒に悪さばかりしていた。
飯はだいたいウチの親が作っておいてくれて、それを二人で食べた。
ある日シンちゃんのウチで腹が減り、シンちゃんは「ラーメン食べるか?」と聞いて来た。
食べると答えるとシンちゃんはインスタントラーメンを作ってくれた。
まだ小学校もあがっていないのにガスコンロに鍋をかけてラーメンを作るシンちゃんに驚いた。
シンちゃんは手癖も悪かった。
よく親の財布から金をクスねてパン屋で菓子パンを買ってくれた。
後日親にバレて顔を腫らしていた。昭和40年代初めの頃の話だ。
ウチには白黒のテレビがあったがシンちゃんのウチにはなかったから遅くまでウチでテレビを見ていたりした。
そんな時、俺は親の仕事の都合で引っ越す事になった。
俺は引っ越して環境が変わったが相変わらずウチは貧乏だった。
小学校に行くようになって地元の友達も出来たが、夏休みにシンちゃんが泊まりに来る事になった。
今まではシンちゃんしか友達がいなかったから分からなかったが、地元の友達は本当に子供らしく、シンちゃんはなんか怖い存在に思えていた。
引っ越してから親父の友達が子供用の自転車を買ってくれた。
洒落たカッコいい自転車ではない。
何でもない普通の自転車の子供用のやつだ。
当時はサイクリング車と言う5段変速機の付いた自転車もあったが、憧れだった。でも俺は自転車を大事にして、いつも磨いていた。
シンちゃんにも貸してあげた。
二人乗りして近所を走り回った。夏休みも終わる頃シンちゃんは帰ることになった。
シンちゃんの親父はタクシーの運転手なので、タクシーで迎えに来た。
翌日、チャリの鍵が無いのに気が付いた。
親には「だらしが無いから無くすんだ」って散々怒られて、親父が金づちを使って強引に解錠した。
それからシンちゃんとは疎遠になって会わなくなった。
親同士の付き合いがあったようなので、シンちゃんの噂は聞いていた。
シンちゃんは施設に入ったと聞いた。
どこかで盗みをして見つかったらしい…
シンちゃんが施設に入ってからは会わなくなった。
シンちゃんと会わなくなり数年して中学3年になった。
ある日の夕方、母親が仕事に行く時に、いつも履いているサンダルの横の部分が切れそうだった。母親は「サンダルが切れそうだから買わなくちゃ」と言ってウチを出たが直ぐに帰って来て「やっぱり切れちゃた」と言った。
でも不思議な事に切れそうなところではなく、足のこうの何でもないところがカッターで切ったようにスパッと切れていた。
その時は不思議だねと話していた。
その日間もなくシンちゃんの親から電話があり、シンちゃんの死を知らされた。自殺だった。
県立の工業高校に内定していたのに…
詳しくは知らされなかったが、家庭環境が原因らしかった。
それから数十年して俺も独立して親と別に住まいを持つ事が出来た。
もうその時はシンちゃんの事は忘れていた。
ある日、朝起き掛けに夢を見た。
その夢は見覚えのある少年がクッキーの空き缶を持って立っている。
誰だか分からなかった。
少年はクッキーの空き缶を差し出して「ゴメンね…」と謝る。
そこで目が覚めた。
気にしながら朝の支度をして仕事に行こうとした時にあれはシンちゃんだ!と思い出した。
驚いて階段から落ちて足の爪を剥いでしまった。
数日して実家に用事があり久しぶりに行った。
和室で寛ぐ母親の側に見覚えのあるクッキーの空き缶があった。
俺は「それは?」と聞くと、母親はどうやら近くの幼稚園でバザーがあるらしく、近所の人に頼まれて不要品を探していたら出て来たらしい事を言っていた。
「懐かしいでしょう?」と言うので見てみると、仮面ライダーやミラーマンの絵の書いためんこが沢山出て来た。
なぜだか当時親父が買っただろう競馬のハズレ馬券も沢山出て来た。
ペラペラの紙にパウチされた穴が沢山あいていた。
呆れながらもっと見てみると、無くしたはずのチャリの鍵があった。
シンちゃんの夢を思い出した。
怖い話投稿:ホラーテラー 味人さん
作者怖話