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中編4
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ねぇ

今から13年前、私が21歳の時の話をしようと思う。

ちなみに私は幼い頃、かなり幽霊や心霊現象と呼ばれる物に遭遇する事が多い子供だった。

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母が家の2階から階段を降りてくる際、上には母しか居なかったのにパタパタと聞こえる足音は2人だったり、

夜中に目を覚ましてふと足元を見ると、生首が3つ物凄い早口で会話をしていたりと、

怖い思いには事欠かない幼少期を過ごしていた。

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しかし大人になるにつれその力は薄れ、今では車を運転していると

(あー、ここで原付に乗った兄ちゃんが亡くなったんだなー。)

といった気配がふんわり分かる程度である。

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「幽霊なんていない!それは全部気のせいだ!」

と言われると

(そうなのかもなー。)

と思う位、私も心霊現象に対してはあやふやな気持ちなのだが

あの日の体験だけは絶対に忘れる事が出来ずにいるし、これからも忘れる事は出来ないだろう。

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21歳のあの日、私は前日から1人暮らしをする友人Yの家にいた。

「彼女に振られたから、ヤケ酒に付き合え!」

と泣きつくYの気迫に負け、2人で夜遅くまでかなりのお酒を飲んでいた。

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「おいY、もうすぐ5時やで。さすがに寝ようや」

私が切り出すと、Yはまだ飲み足りないなどとブツブツ言いながらも、布団に横になると同時にグーグーイビキをかきだした。

そんなYに苦笑しながらも同じ位限界だった私は、Yの掛け布団だけを拝借して横になると、すぐに眠りに落ちて行った。

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wallpaper:176

チッ チッ チッ チッ

静かな時は少し気になるYの部屋時計の秒針の音が、私を眠りから僅かに引き戻した。

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チッ チッ チッ チッ

(・・・今何時やろう?)

横向きで眠るのがクセの私は、そのまま僅かに目を開け時計を確認した。

明るい日差しが隣で眠るYの背中を照らす。

(まだ朝8時かぁ・・・。)

昼には起きようなどと考えながらまた目を瞑り、まどろみの中で寝返りをしようとした時、

自分が金縛りにあってる事に気が付いた。

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チッ チッ チッ チッ

(・・・あれ?・・・やばいな。)

金縛りにはあまり耐性のなかった私は、全く体が動かず声も出せない恐怖に1人で焦っていた。

(Y~!気付け~!Y~!)

必死に頭の中で叫んでも、もちろん気付くわけもなくYは起きる気配もない。

金縛りのまま、暫く経ったその時だった。

チッ チッ チッ チッ

sound:26

カチャ  パタン

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・・・ん!?

1Kの間取りだったYの家の、玄関のドアが開く音がした。

チッ チッ チッ チッ

ペタ ペタ ペタ ペタ

時計の音と一緒に裸足の足音がゆっくりと廊下を歩いてくる音がする。

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(あれ?鍵は閉めてたはずやし、誰やろ?)

金縛りの恐怖で一杯だった私は、必死に見えない所で起こる物音に意識を集中した。

チッ チッ チッ チッ

チッ チッ チッ チッ

チッ チッ チッ チッ

sound:26

カチャ  パタン

長い間があって、私とYが寝ている部屋の扉が開く音。

私の頬に、ほんの微かに部屋の空気が動いた感触があった。

(うわ~!誰やねん、誰やねん!?)

部屋の入り口に無言で佇む気配に、私は必死に考えを巡らせた。

(・・・あ、もしかしたら、別れたYの彼女かも!?荷物でも取りに来て、私が居たからどうしたものか迷ってるんや!)

鍵が閉まっているのに家に入れるのも辻褄が合う。

そう思うと、急に恐怖は薄れていった。

(お~い!俺、金縛り中~!気付いてくれ~!)

私は必死に心の中で、Yの彼女に呼びかけた。

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チッ チッ チッ チッ

チッ チッ チッ チッ

チッ チッ チッ チッ

動かない。

部屋の様子を伺っているにしても、あまりにも彼女が動かない。

また不安な気持ちが沸き上がってきた時、彼女がゆっくりと動き出した。

ペタ ペタ ペタ ペタ

ペタ ペタ ペタ ペタ

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ペタ ペタ ペタ ペタ

おかしい。絶対におかしい。

部屋の中をウロウロしているのだが、私の周りしか回っていない。

ペタ ペタ ペタ ペタ

皆さんも想像して欲しい。自分が寝ている横を人が通り抜ける時、布団の端を踏まれる感触が分かるだろうか?

その感触がぐるぐるとずっと私の周りを回っているのである。

ペタ ペタ ペタ ペタ

私がかなり不安な気持ちになってきた時、ふと彼女の足音と気配は私の足元で止まった。

そしてまたしても長い間の無音。

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チッ チッ チッ チッ

チッ チッ チッ チッ

チッ チッ チッ チッ

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shake

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ねえ。

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完全に彼女の、いや、此の世の者の声ではない、低く冷たい女の声を聞いた瞬間、全身に鳥肌が一気に立ち、冷や汗を流しながら気を失った所までしか覚えていない。

次に目を覚ました時は夕方近く、Yが呑気にテレビゲームをしているところだった。

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あれから特に不吉な事があった訳でもなく無事に毎日を過ごしているのだが、13年経った今でも忘れられない恐怖がある。

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あの今でも耳の真横で聞こえる程鮮明に覚えている「死にたくなる声」と、

何故だか分からないが目が覚めた時に知っていた、あの女が

「木内 昌代」

という名前なんだという事である。

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