私は亰子。
十六歳の年頃の女の子。
部活大好き、勉強嫌い。
そんな普通の女の子です。
私には妹がいる。
ある日、部屋の大掃除を手伝ってもらうことにした。
ガラクタを段ボールに詰め込んで、それを部屋の見えない所に押し込んでいた。
段ボールはいくつもあった。
中身を全て確認し、いらないものを捨てよう。
骨の折れる作業になるだろう。
しかし、いざ始めると・・・。
そこには懐かしさが詰め込まれていた。
物理的には戻れないけれど、心だけがあの風景に帰っていく。
あぁ、泣いちゃう。
たかが部屋の掃除でこんな気持ちになるなんて。
隣で引いている妹を見て我に返った。
次の瞬間、今日一番の懐かしさに顔面を殴られた。
男の子の人形。
当時かなり流行ったものだ。
買ってもらったときは嬉しかったなぁ。
この人形とは十年ぶりに再会したことになる。
妹「何よこれ、超キモイ!!」
顔が外国人の人形なので、かなり不気味である。
妹「捨てるよね。」
亰子「嫌よ、部屋に置いとく。」
妹「はぁ?ふざけないでよ同じ部屋なのに!」
何とか妹を説得し、部屋に飾った。
それからというもの、妹は寝つきが悪くなった。
布団に入っても人形が気になる。
黒いオーラが出ている気がするのだ。
それだけではない。
この部屋にいるときは常に視線を感じる。
あまりに不快だったので、人形の身体を窓側に向けた。
だいぶ気が楽になった。
これで夜も普通に寝られる。
待ち望んだレムに潜る。
・・・。
夢さえ見ない。
まっくらやみでもいい。
人形と目が合わなければ。
あれ?
誰なの?私を引っ張るのは。
急に目が覚めた。
一時半。
まだ寝れるじゃん。
目を完全に閉じようとした直前、こちらを睨んでいた。
何故だ。
身体を窓側に向けたはずの人形がとてつもない形相でこちらを・・・。
静かな夜に響いた。
人形「おはよう!」
妹「ギャーーーーー!!!!」
部屋の電気が点く。
亰子「何、どうしたのよ?」
妹「喋ったのよ!このキモ人形!!」
亰子「え?あぁ、喋るのよその人形。」
妹「そうなの?」
亰子「そうよ、寝なさい。」
亰子はさっさと寝てしまった。
妹は結局寝られなかった。
・・・。
亰子「おはよう!」
妹「もう、キモ人形のまねしないでよ。」
亰子「ごめん。」
妹「なんなのよ、あの人形。」
亰「あの中にはタイマーが入ってるの。調節の仕方は忘れたけど電池を入れ替えてみたの。それでたまたまあの時間に声がしたというわけ。」
妹「あぁ、そういうことね。」
亰子「人形の声にはいくつかの種類があってね。実はもう一体女の子の人形がいたのよ。」
妹「・・・。」
亰子「義美っていう友達が持っててね、よく二人で遊んだわ。」
嫌な予感。
亰子「今日ウチに来てもらうから。」
妹にとっては最悪だった。
十時くらいに義美がやって来た。
義美「亰ちゃ~ん。」
亰子「あ、きたきた。どうぞ上がって。」
義美「お邪魔しま~す。」
早速人形の話になった。
亰子「ねぇねぇ、これ懐かしくない?」
義美「うん!流行ったよね。」
亰子「持ってきてくれた?女の子のほう?」
義美「え?何が?」
亰子「ほら、よっしーが女の子の人形持ってたじゃない。」
義美「ううん。京ちゃんが持ってた女の子の人形をあたしが借りて遊んでたのよ。だって、あたし買ってもらえなかったもん。」
亰子「・・・そうだっけ?」
義美「うん。たぶんこの家のどこかにあるわよ。」
亰子「ん~、大掃除したばっかなのにな~。」
義美「綺麗になったよね。掃除してないところってもう無いの?」
妹「ちょっとちょっと!」
義美「あら、蓮ちゃん。ひさしぶりねぇ。」
蓮「あのキモ人形が夜中急にしゃべったのよ、おはようって!」
亰子「これタイマー付いてたでしょ?調節の仕方忘れちゃってね。教えてくれない?」
義美「?タイマーなんてないわよこれ。」
亰子「え?でも・・・。」
義美「この人形は男の子と女の子が会話するわよね。会話するにはスイッチがいるのよ。一つはボタンを押すこと。例えば男の子のボタンを押すことで男の子が喋る。それと同時に女の子のセンサーが反応して返事をするのよ。逆に女の子のボタンを押すと女の子が喋って男の子が返事をする。もう一つは朝日。長時間暗闇に置いた後に微弱な光を感じて「おはよう!」っていうのよ。この「おはよう!」機能は男の子も女の子も共通よ。人形はずっと京ちゃんの家にあったからあたしは「おはよう!」を聞いたことはないわ。」
細かな記憶がよみがえって来た。
蓮「でも「おはよう!」を聞いたのは真夜中よ。部屋も真っ暗だったし。」
亰子「う~ん、どういうこと?」
義美「とにかく、女の子のほうを探してみない?」
亰子「でも、どうやって?」
義美「簡単よ。男の子のボタンを押してみればいいの。歩き回りながら押しまくれば女の子のセンサーが反応して返事が聞こえるはずよ。」
蓮「やだ、気持ち悪い。」
亰子「でもそれしかないわ。やってみよう。」
三人は人形の恋人探しを始めた。
「声」は数パターンあり、「おはよう!」、「ありがとう。」、「バイバイ。」、「愛してるよ。」がある。
「おはよう!」以外の「声」を何度も聞く羽目になった。
大掃除の後だったため、なかなか見つからない。
不気味な人形なら、掃除中に捨てたとしても記憶に残るだろう。
蓮「はぁ~、疲れる。」
亰子「あんた、休んでていいわよ。」
蓮「気になるじゃない。一度怖い目にもあってるんだから。被害者よあたし。」
そんなこんなで家の中は調べ尽くした。
亰子「後は・・・。」
亰子が外を睨む。
庭の物置が怪しい。
亰子「あそこになければもうないわ。」
戸の前に立ち、ボタンを押してみる。
男の子の人形「愛してるよ。」
耳を澄ます。
・・・。
「・・・てるわ。」
おっ!
蓮「なんか聞こえた。」
義美「探しましょう。」
一斉に物置を探してみた。
埃にまみれ、手が汚れていく。
男の子の「声」と三人の咳が混じる。
亰子「あっ!!」
小さな手が見えた。
亰子「あったわよ・・・。」
唾を呑む。
亰子がその小さな手を握り・・・、引っ張った!!
女の子の人形「がいじでるヴぁーーー!!!」
三人「ギャーーーー!!!」
全身がボロボロで髪は抜け落ち、カビだらけになっていた女の子。
飛び出た目玉は亰子を見ていた。
・・・。
二つの人形は神社に供養してもらうことにした。
その道中での会話。
亰子「思い出したわ。あたしが物置に放り込んじゃったのよ。ちっちゃい頃のあたしが嫉妬してたのね。本当はあの人形は恋人同士だった。それをあたしが引き裂いちゃったわけ。女の子の人形はあたしを恨んでいたのよ。あの男の子の人形とお話ししたかったはずなのに・・・。」
ちょっぴり悲しい夏の小話でした。
・・・。
やっと会えた二体。
邪魔者のいない静かな夜。
今宵も神社に優しく響く愛の言葉。
女の子の人形「愛してるわ。」
男の子の人形「愛してるよ。」
作者退会会員
またお前らの声を聞かせてくれ。
P.S. イカ姉ちゃん、ありがとうでゲソ。