初投稿です。
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私はとある田舎の集落に住んでいました。
当時は戦後間もない頃で、
満足な食料など容易に手に入るものではありませんでした。
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そんな中、私の家の近くに小さな肉屋ができました。
その店を仮にA店としましょう。
A店は、上質の肉を
格安で提供する店ということで、たちまちA店のことを知らない村人はいないほどになりました。
A店の前には毎日行列ができました。
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その肉の、今までに食べた事のないような美味しさに、
私の家もすぐにA店の常連となり、毎日のようにA店の肉が食卓に並ぶようになりました。
その日もいつも通りA店の、柔らかく美味しい肉が食卓に並んでいました。
味噌で味付けされ、焼かれたその肉を口に運んでいると、ふと口内に異物感を感じました。
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ぺっ とそれを皿に吐き出してみると、それは3本ほどの髪の塊でした。
母に訴えようとしましたが、美味しそうに肉を口に運ぶ父と母の様子を見ていると、なんだか言う気にはなりませんでした。
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翌日、友人のKにその事を話すと、Kは驚いた様子で「俺もだ」と言いました。
そして、俺たちはあの肉屋には何かある、と思い探りに行く事にしました。
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当時は中学2年生、好奇心旺盛で遊び感覚だったのでしょう。
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翌日、放課後にKの家に集合し、例の肉屋へと向かいました。
そして、肉屋の裏口へ回り込み、中へ入れる場所を探しました。
しばらく探索していると、Kが私を呼びました。
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「これ、見てみろよ」
やや興奮気味の声でKが言いました。
Kの指差す方向に目をやると、そこには大量の髪が散乱していました。
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私達は興奮し、躍起になって入り口を探しました。
そして、私は僅かにめくれた外壁のトタン板を見つけました。
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私とKは息を潜め、その隙間を覗き込みました。
もう辺りは暗く、中からは薄暗い光が漏れ出していました。
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まず私達の目に写ったのは黒い水たまりのようなものでした。
光の加減で色は真っ黒に見えましたが、私は、肉屋なのだから血だろう。と納得しました。
次に見えたのは、手に斧を持った人影でした。
その人影は斧で何かを叩き切っています。
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私はすぐに其れが家畜などではない事がわかりました。
何故ならその何かには、黒い髪が生えていたからです。
私は思わず叫びました。
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Kも其れが何か気付いていたようで、私の方を目を見開いて振り向きました。
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私はすぐに自分が大変な事をしたことに気付きました。
人影がこちらを振り向いたからです。
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斧を引きずり、こちらに向かって来ました。
私とKは泣きながらめちゃくちゃに走りました。
暫く走ると、斧を引きずる音も聞こえなくなり私達は落ち着きを取り戻し始めました。
その時です。
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shake
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私の横で荒い息を整えていたKがふっ と視界から消えました。
そして、鈍い音と共にKが膝から崩れ落ちたのです。
一瞬、私は何が起きたか理解できませんでした。
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呆然と立ち尽くしていると、数十メートルほど後ろに人影を見ました。
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背格好から、先程私達を追っていた者のようです。
しかし、その手に斧はありません。
なぜなら、Kの頭に深々と突き刺さっていたからです。
恐らく、斧をブーメランのように投げたのでしょう。
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私はそれを見るや否や、瞬時に状況を把握しました。
それと同時に、足が動き出していました。
もう、頭の片隅にもKの安否などありませんでした。
薄情だと思うでしょうか。でも、この状況に置かれたら、貴方も必ずそうしたでしょう。
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私はこれ以上にない程全力で走りました。
先程まで隣にいたKが居ないことも忘れて。
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そして、気がつくと私は自分の玄関にへたり込んでいました。
逃げ切ったのです。
もう時計は10時過ぎを指していました。
私の家は門限が厳しいのです。
泣きつく暇もなく父親にぶたれました。
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Kの事を話すも、まるで取り合ってもらえず、次の日を迎えました。
Kは学校を休みましたが、行方不明などとは言われていなかったので、私は昨日のことは夢だったんだと、自分に思い込ませました。
きっと私もそう思いたかったのでしょう。
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その日の夜、さすがに私は肉を食べる気にはなりませんでした。
しかし男子中学生の食欲です。一食でも我慢することなどできません。
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メニューは豆腐ハンバーグでした。
肉を使わない、豆腐で作られたハンバーグです。
私はこれ幸いと、かぶりつきました。
なんだか前に食べたものとはずいぶん味が違って、すごくジューシーです。
私は大喜びで何個もおかわりしました。
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母「あらあら、こんなに喜んで食べて...お肉と豆腐を半分ずつにしたのが良かったのかしら。」
作者加藤
初投稿!創作です。