中編7
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幻夢アリスの日常

1幻夢アリスの日常は何時だって普通の人間の非日常だ。

幻夢アリスは夢を見る。

世界が少しずつ崩壊していく夢。

いつだって同じだ。

ただ壊れていく。

とても無意味で悲しい夢だ。

臥薪町。

その町の外れにある洋館がある。

そこに幻夢アリスは住んでいる。

「人の死体なんて見飽きた。何か新しいものないかしら。ねぇ都島」

都島とは俺の名だ。

都島江西。

俺は答える。

「お嬢様は悪趣味すぎて私とはあいません」

「そうね。都島は堅物だからつまらない」

幻夢アリスはそういい目を閉じる。

華奢で背も小さく保護欲をそそる容姿。

人形のように精巧に作りこまれた顔立ち。

ゴシックロリータに包まれたこの世離れした雰囲気。

幻夢アリスは夢を見る。

崩壊の夢かはたまた別の夢か。

幻夢アリスは目を見開きこちらに一瞥をくれると

「面白いものをみつけたわ」

幻夢アリスは不敵に笑う。

さあ今夜も悪夢が始まるようだ。

2彩子は魔方陣の中で笑う。

魔方陣の中には三人の姿。

三人の少女。

「ねぇ本当にやるの。ヤバくない?」

その中の1人影野博子は不安げな表情を浮かべ木島彩子を見つめる。

「大丈夫よ。あなたも願いごと叶えたいでしょう?」

彩子はほくそ笑み影野を見つめる。

儀式。

その名も夢見のほほえみ。

儀式はいたってシンプルだ。

1人から3人の人間が魔方陣の中で呪文を唱え血を捧げる。

至極簡単な儀式。

「さあいくわよ」

彩子は二人に呼びかけ一つ息をする。

「我らかの魂を天に捧げる。かわりに我らの願いを叶えたまえ。そが血をのみ生きることをのぞまん」

三名は高らかに呪文を唱えた。

それぞれカッターナイフを持ち手首にあてる。

「覚悟はいい?」

二人は頷く。

その瞬間血が飛びちり魔方陣を浸食する。

三名とも声をあげる。

この儀式はこれにて終了。

この儀式は終了後、三日を過ぎれば無事願いが叶う。

ただし、条件がある。

儀式を第三者に口外してはならない。

三日間怪奇現象に襲われるが決して逃げてはならない。

部屋から出たりベッドから降りてはならない。

以上だ。

三日過ぎれば願いが叶う。

3霧原楓は人見知りだ。

友達もかつてはいなかった。

そんな中で彩子はそんな楓に声をかけてくれた。

最初は会話にならない。

でも、それでも声をかけ続けた。

嬉しかった。

少しずつ会話が成立するようになった。

楓にとって始めてできた友達だった。

4彩子が儀式をすると言い出したのは三日前だった。

楓は最初嫌だった。

だが、あの彩子の頼みだ。

なら受けるしかない。

それに友達の多い彩子が自分を選んでくれたことが嬉しかった。

もし本当に願いが叶うなら願おう。

彩子とずっと友達でありつづけられますように。

5楓は儀式を行ったその日悪夢を見た。

彩子がどこか遠くにいってしまう夢。

飛び起きた。

手汗が酷い。

時計を見る。

時刻は一時すぎだ。

嫌な夢だった。

彩子と離ればなれになるなんて。

深く一呼吸おき水を飲もうとベッドを降りようとした。

その瞬間だった。

ふと視線を感じた。

ゾクゾクと悪寒が全身を駆け巡る。

周囲を伺う。

誰もいない。

異常な程静かだ。

私は気のせいかと再びふとんの中に潜る。

気のせい。

気のせい。

そう言い聞かす。

するとズル、ズルっとなにかを引きずる音が聞こえてくる。

私はその日やった儀式を思い出す。

怪奇現象に襲われる。

これがそうか。

だが、この程度なら問題ない。

ズルっと引きずる音が続いていたかと思うと突如音が消えた。

だが、次の瞬間だった。

腹部にズシンと衝撃が走った。

「うぐ」

私は僅かに呻く。

見てはいけない。

見ては行けない。

そういいながらも見ない訳にはいかない。

恐る恐るふとんから顔を出した。

なにもいなかった。

いつのまにか腹部の痛みも消えふせていた。

私は安堵した。

もう一度ふとんの中に入ろうとした。

だが、そうすることはできなかった。

ズルっと引きずる音が聞こえた思うと喉元になにかぬめっとしたと思ったら痛みが走った。

それは腕だった。

ベッドの下からはえているそれは私喉を強く締め付けた。

「ぎぃややややあ」

体は酸素を求めて足掻くが呼吸はまともにできない。

徐々に意識が薄れていく。

ゆっくり、ゆっくりと。

楓の脳裏に彩子の笑顔がちらつく。

「彩子バイバイ」

そう心の中でつぶやいた。

意識はそこまでだった。

6

楓の訃報が届いたのは昼休憩になってからだった。

死因は不明というより教えてもらえなかった。

「ねぇ。これって絶対あの儀式のせいだよ。ヤバいって」

博子涙まじりに彩子に訴える。

「私達とんでもないものをしちゃたのかも」

彩子は顔面蒼白で覇気がない。

「あと二日、あと二日のしんぼうだよ。ねぇ」

彩子は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

そこで二人は解散した。

7博子と彩子は親友同士だった。

付き合いはかれこれ7年になる。

腐れ縁とはこのことだ。

今回の儀式だって、今までに二人でしてきたことのひとつしかない筈だった。

その筈だったのに。

8博子はその日ソフトボール部の練習を休んだ。

そんなことをしている精神的な余裕は博子にはなかった。

楓の死。

楓とは正直友達でもなんでもなかった。

ただのクラスメイトの一人だった。

そんな人間でもあんな儀式をした後に死なねると考えることがある。

次は自分の番じゃないかと。

そう思うと足がガタガタ震えた。

時刻は18時丁度。

辺りは夕暮れに包まれていた。

私は部屋の灯りをつけた。

目の前には鏡。

映し出されていたのは蒼白な自分の顔。

体が微かに震えている。

博子は溜め息をつく。

寝よう。

ベッドに入ろうとした瞬間、後ろからチリンと鈴の音が聞こえた。

慌てて博子はふりかえるが誰もいない。

気のせい?でも確かに鈴の音が聞こえたはず。

不思議に思いながらもベッドに向かう。

だが、彼女がベッドに入ることは二度とかなわなかった。

後ろからなにかに腕をつかまれた。

博子はギョとして後ろを振り向く。

そこで見てはならないものをみてしまった。

鏡の中から腕がはえていて私の腕をつかまえていた。

私は必死に腕を振り払った。

腕はあっさり離れた。

だが、全て手遅れだった。

つかまれていた箇所が腐りはじめていた。

博子の心臓激しく鼓動する。

腰が抜けてその場にしゃがみこむ。

腕は徐々に腐っていく。

だが、痛みはない。

それがかえって博子を不安にさせた。

腕は朽ちて下に落ちていく。

鏡にはっきりとその場面をうつしていた。

「ひぃ」

もはや声にならない。

続いて首が腐りはじめた。

ゆっくり腐蝕がすすむ。

顔も腐りはじめた。

目が飛び出し舌も腐っていく。

心臓から手がはえた。

先ほど博子の腕をつかんだ手だ。

肉をつきやぶって外へ。

それで完全に博子は絶命した。

首から上が腐り下におちる。

博子の最後だった。

9博子と楓の死。

彩子は自分のしてしまった罪深い行為に泣くしかなかった。

私のせいで。

そんな自己嫌悪のねんと今度は自分だという不安が彩子の心を支配した。

彩子はその1日を無為にすごした。

いつ怪奇現象が襲ってくるかわからない不安。

いきた心地がしなかった。

そんな中放課後担任の教師から教科書を視聴覚室に運ぶよう言われた。

断ることはしなかった。

なにかやっていないと、頭がおかしくなりそうだったからだ。

辺りはすっかり夕暮れに包まれていた。

視聴覚室の電気を入れた。

教科書を机におき、その場を離れようとした。

だが、蛍光灯がパチパチ音をはっしはじけとんだ。

彩子はびくびくっと体を震わせた。

灯りは消えた。

外に出ようとするが扉が開かない。

慌てて窓に近寄ってあけようとするがこちらも開かない。

「誰か助けて」

彩子は叫ぶが誰も助けにくる気配はない。

ふと鏡が目に入る。

写し出されたのは彩子の姿。

だが次の瞬間彩子はとある事象に遭遇することになる。

鏡の中から手がはえてきた。

続いて頭がでて足が出てきた。

彩子は起きている事象が信じられないとばかりに、窓を思いっきり開けようとするがびくともしない。

鏡の中から彩子とほぼ同一の人物が現れた。

だが、それは違った。

片目がない。

更に腕は腐りいまにもちぎれそうだ。

鏡の中から現れた彩子はまっすぐこちらに歩いてくる。

逃げ場はない。

彩子はその場にへたりこむ。

鏡の中から現れた彩子はゆっくりと彩子の前までくる。

腐った片腕はどろどろと下におち辺りは悪臭に包まれる。

「ひぎぃ」

彩子は絶句した。

片腕によって首を締め付けてくる。

上体が宙にうく。

呼吸ができない。

体に力が入らない。

「グギィ」

彩子は呻く。

もうだめだ。

そう諦めかけた瞬間声が聞こえた。

「助けてほしい?」

鈴のように美しい声だった。

助ける?助けるだって。

助かるの?私が。

「そのかわり貴方は代償を支払うことになるわ。それでもいいなら助けてあげる」

なんでも支払う。

だからお願い助けて。

そう心の中で呟いた。

「契約完了っと」

すると目の前にはゴシックロリータをきた少女がたっていた。

「食べちゃう」

次の瞬間鏡の中から現れた彩子は少女の口の中に吸い込まれていく。

バキボキ骨をかみちぎる音が響く。

「味はまあまあね」

そう少女は呟いた。

「助かったの?」

彩子は少女に問いかける。

「都島。反応は」

すぐ横にはいつのまに現れたの長身の青年がいた。

「反応は完全に消滅しました。お嬢様」

恭しく礼をする青年。

「だって助かったみたいよ。あなた」

助かった。

一気に体から力が抜けた。

「契約通り代償を支払ってもらうわ」

代償。

そういえばそうだ。

そういう約束だった。

「あなたにとって一番大切なもの。友情。今後一切あなたには友人はできないし今までの友達関係も解消。やすいものね」

「そんな」

彩子は少女を睨み付ける。

「自業自得よ。受け入れなさい」

幻夢アリスの日常は今日もまた終わりを告げる。

Concrete
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コメントありがとうございます。
最高の誉め言葉です。
ありがとうございます。

追記
こ、怖いがついてる。
嬉しすぎる。
つけてくれた方読んで下さった方本当にありがとうございます

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コメントありがとうございます
そう言っていただけると嬉しいです

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間違いを指摘して下さった方ありがとうございます。
修正いたしました。

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