これは、俺が数ヶ月前に体験した話。
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まず、自分のコトを先に話すと、俺はよく金縛りに遭う。
しかし、だからといってそれが全て「霊」の仕業であるとは思っていない。
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事実、金縛り現象を調べると医学的には「ナルコレプシー」という病名がつく。
ナルコレプシーとは睡眠障害であり、身体機能は停止しながら、脳と視覚野だけが起きている状態だ。
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つまり、世間でよく聞く「疲れからの金縛り」というのが、まさしくこのナルコレプシーというわけだ。
というよりも、医学会においては全ての金縛り現象はナルコレプシーに置き換えられる。
金縛りに入る際に耳鳴りなども伴い、様々な幻覚を見るのもナルコレプシーの症状であるからだ。
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そういったワケだから、俺は金縛りを無闇に霊現象だとは思っていないし、頻繁に遭うだけあって、とくに怖いとも思わない。
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だが、奇妙な金縛りに一度遭遇した。
それが、冒頭で述べたように数ヶ月前に体験した金縛りである。
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その日、俺はいつものように徹夜仕事明けでかなり疲れていた。寝ようと横になったのは昼間の3時ぐらい。
そして、目を瞑り、しばらくすると金縛りの前兆である高音の耳鳴りがしてきた。
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いつもの金縛りだと思い、めんどくさいなと感じながら、うるさい耳鳴りを聞いていると、何やら耳鳴りのノイズ音の中から違う音がする。
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「ヒヒヒ、、、ヒッ、、」
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男の不快な笑い声だ。
その声から、その野郎の年齢は30代半ばぐらいで、世間をなめているような自己中心的な奴だと分かる。
そして、その笑い声はノイズよりもハッキリと大きくなっていき、あたかも隣にいるくらいの耳元まで近付いてきた。
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そうなると、さすがの俺でも薄気味悪さを感じる。
反射的に心の中で「やめろ!この野郎!」と叫んで、その声の侵入を拒絶をした。
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すると、その笑い声はおさまったのだが、次の瞬間に何やら言葉をしゃべってきていることが分かる。
はじめは聞き取りにかったが、集中して耳を澄ますと、男の言葉がハッキリと聞こえた。
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「おめえ何言ってんだよ」
「俺のこと呼んだのは、おめえのほうじゃねぇか(笑」
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聞こえた声と笑いながらしゃべるその言葉にギョッとしたが、当然俺は奴を呼んだおぼえもないので、「お前なんて呼んでないわ」と返事をする。
しかし、奴はさらに「そう言われてもねぇ」と鼻で笑うように答えてくる。
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当然この状況下で俺は金縛りになっているので身動きは出来ない。拒もうとしてもムリだ。
ならば、とことん奴と張り合って、俺が『なぜ奴を呼ぶことになったのか』という理由を追求してやろうと考えた。
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「何笑ってんか知らないが俺がなんでお前を呼んだんだよ?」
しかし、奴はブツブツと文句らしい言葉を、吐くだけでハッキリと返事をしてこない。
だが、俺も引き下がらずに「ハッキリ答えろ」と繰り返す。
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すると、奴はチッと舌打ちした後「んなら変わるわ」と言ってきた。
変わる?何を?
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俺が戸惑っていると奴の気配がフッと耳元から消えたことが分かった。
ただし、金縛り状態は解けていない。
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「はい、ご質問は何でしょうか?」
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安心したのも束の間、突然また耳元で声がした。
しかも今度は若い女の声で尚且つ“電話で実際に話しているくらい”明瞭な声だ。
「あの方は何も知らないので私に聞いてください」
女はそう言った。
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どうやらこの女は霊界のオペレーターのような存在らしい。
わかりやすい例えとハッキリした口調で俺の質問に答えてくれた。
その回答は次のようなモノだった。
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1)最初の男は浮遊霊で俺のそばを“たまたま”通りかかった。
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2)その波長と俺の波長が“たまたま”リンクしてしまったため、奴の声を聞くことになった。
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3)俺は聴覚アンテナは優れているがビジョンのそれは優れていないので、奴の姿が見えなかった。
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また、その女は金縛りのメカニズムについても語ってくれた。
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金縛り状態になるときは、やはりその人間が身体的にも精神的も疲れている状態だと掛かりやすく、そうでなくともレム睡眠と同じ状態の脳内に切り替ることが出来る人間、もしくは生まれながらその状態に近い脳内を持つ人間は、金縛りのように「霊界との干渉」が増えるのだという。
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さらに、金縛りのときは基本的に抵抗しないほうが良いらしい。
というのも、身体の筋肉が睡眠時と間違えて停止しているのが金縛り状態なわけだから、そこで抵抗すると、より筋肉が萎縮して動けなくなるということだ。
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この女の解説によって、俺は金縛りというものをかなり理解した。
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つまり、金縛り状態とは確かに医学的に言えば睡眠障害であるナルコレプシーで間違いなく、そしてオカルト的に言っても霊現象で間違いない。
要するに、違う角度から捉えているだけで実際には2つとも同じモノとなる。
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ただし、ナルコレプシーの場合は、霊の存在を認めていない医学界の話であるから、金縛りでの幻覚や幻聴が「本人の脳内で作り出された思い込み」という解釈でしかない。
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また、逆にオカルト信者からしてみれば、金縛りは全て霊現象だと捉え、見えたり聞こえたりするものは、全て霊の仕業だと思っていることだろう。
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そこがお互いの決定的な間違いなのだ。
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霊とは、やはり物理的に実体の無いモノで、例え目の前に「赤い服を着た霊」が立っていたとしても、そこにそいつが居るわけではない。
しかし、実体は無くともそういうエネルギーを持った存在があり、それが脳内に働きかけることで人間には「赤い服を来た霊」が幻覚や幻聴としてみえるというのが真実だろう。
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つまり、霊は「情報」というコトだ。
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女の解説によって瞬間的に理解した俺は「そういうコトなんだろ?」と女に確認を取る。
女は「はい、その通りです」と返事をした。
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そして「まだ聞きたいことがある」と話しかけたが、女からの返事は二度と返ってこなかった。
直後、俺の金縛りはスルリと解けた。
この体験は忘れることなく覚えているだろう。
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皆さんも睡眠時には、浮遊霊の通り道で横になり、奴らとリンクしないように。
作者ウェザー
金縛りで霊と会話した話