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中編4
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スナックでの出来事

あれは俺が社会人に成り立ての頃だった。

久しぶりに中学時代の同級生8人と集まって飲み会をしようということになった。

場所は、その同級生のひとりが勤務していた歓楽街のとあるスナック。

平日というコトもあって店を貸切りで使用させてもらえた。

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飲み会がはじまると皆は多いに飲んで騒いだ。

社会人に成り立てということもあり、また、久しぶりに会う仲間での飲み会だからそうなるのも当然だ。

ただ、俺自身は酒に酔わないほうだし、あまり酒も好きではなかったので仲間たちほどの量は飲んでいない。

水割りを5、6杯飲んだ程度だったと思う。

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俺たちの席は店の一番奥で、そうやって騒ぎながらカラオケも散々歌い、数時間後にようやく少し落ち着いて飲み出すようになる。

もちろん、俺たち以外に店には、そこのオーナーひとりしかいない。

静かになった店内で就職先のことや思い出話を語らった。

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そのうち、しばらくすると仲間のひとりがトイレに立った。

トイレは俺たちの座る席とは真反対の場所になる店の入口横だ。

酔ってフラつきながらトイレで用をたし、戻ってきたそいつは「あのトイレ、流そうと思ってもなかなか水が流れなくてあせったわ」と、報告みたいに話した。

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そして、再び皆で飲み出すのだが、次は俺がトイレに行きたくなって席を立つ。

店の入口横まで歩き、トイレのドアを開けると、そこには便座はなく、大きな鏡のついた洗面台があった。

wallpaper:201

そう。このトイレは、まず洗面台のあるスペースが手前にあり、その奥にさらにドアをへだてて洋式便座の個室がひとつあるトイレ。

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そして、そのトイレに入ろうとするとき、俺は皆のほうを一度振り返って“皆が奥の席で盛り上がっている姿”をハッキリと覚えている。

店のオーナーも俺たちの席に一緒に加わっていた。

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それから、何の不自然さも、おかしな気配もなく洗面台を通過して奥にあるトイレのドアを開け、洋式便座の個室に入る。

そういえば、先にトイレに入った仲間が「水がなかなか流れない」と言っていたので試しに水洗レバーを下ろしてみる。

ジャーーと、快音を鳴らして普通に水は便座内を流れた。

「何だよ、流れるじゃん」

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それを確認して用を足そうとする。小便のほうだ。

用を足しはじめるとすぐにだった。

shake

トン

トン

トン

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ドアを誰かがノックしている。

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「今、入ってるわー!」

反射的にそう答えたが、考えてみればおかしい。

俺がトイレに入る前に振り返って席を見たときは皆は遠い席で着席している。

ましてや俺に続いてトイレに向かおうとしたヤツもいない。

そう思うと急に気味悪さ感じて俺は怖くなってきた。

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もちろん、不気味であるから急いで用を足し、確かめる気持ちですぐにドアを開ける。

もしも、仲間の誰かが本当にトイレ待ちなら、この個室に入る手前の洗面台スペースで待っているハズだから。

しかし、やはりそこには誰も居ない。

では、トイレ入口のドアの所で待っているのか?

そこを開けても、皆は全員奥の席で盛り上がっている。

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ノックを聞いてから10秒前後しか立っていないだろう。その間にダッシュで奥の席まで帰るのもムリに近い。

だから、俺は自分が想像以上に酔っているのではないかと思った。

再び洗面台スペースに入り、冷水で顔を洗って酔いを覚ますことにしよう。

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顔を洗おうとして洗面台の鏡を見たのだが、やはり自分でも酔ってないことをその面持ちで実感する。

単なる空耳だったのか?

でも確かにノック音は聞こえたのだ。

結局、どう考えてもそのおかしさを拭いきれない気持ちの俺は「もしも、まさか、、」という想いから、顔を洗うその直前に『俺が出た後の誰も入っていないトイレ個室』のドアを、トントンとノックをしてみた。

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、、、、、、(無音)

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それはそうだ。

やはり無人の個室トイレの内側からノックが返ってくることはない。

そうなれば、やはり俺が酔っていたのか、もしくは空耳だったのだ。

しっかり顔を洗って酔いを覚まそうと俺はもう2、3度ほど冷水で顔を洗った。

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shake

トンッ、、、

、、、

トンッ、、トンッ、、

、、、

shake

ドンッドンッドンッ!!

shake

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誰も居ないハズの個室から何度もノックがする。

しかもハッキリと大きな音で。

俺は慌ててトイレから飛び出て、席にいる皆にこの一連のコトを詳しく話した。

「はいはい、分かったから!分かったから!(笑」

仲間たちは俺が冗談で怖がらせるつもりだと思ったらしい。

もしくは酔っ払いのただの戯れ言か。

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後日、その飲み屋で勤務している仲間のひとりと話したときに、そいつは俺にあることを打ち明けてきた。

「実はオーナーが話すなと言ったので、あの場で話せなかった、、」

聞くと、あの店の上の店舗のトイレで数ヶ月前に従業員のホステスが自殺をしたという話。

そのとき下水に彼女の嘔吐物やら所持品やらが詰まってビルの下水処理が大変だったということだ。

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これで、水が流れなかった仲間の件も、そして俺のあのノック音も、その原因が理解できた。

亡くなる間際で死にたくないと気づき、誰かの助けを呼びたかったのかもしれない。

そのスナックは、名前もオーナーも替わったが今でも当時のままの姿で現存している。

そして、霊現象のあるビルだという事柄も、ひっそりと伝えられているようだ。

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