お久しぶりです。私は、怖い話やオカルト的な話を探す為に全国を旅する怖話ハンターです。
今日は、私が体験した話をしようかな…
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ある日繁華街で、私は変わった店を見つけ心を踊らせた…
何故かと言うと、その店の入口に掲げられていた謳(うた)い文句に心底、私のオカルト靈(だましい)がしびれたのだ。
『幽霊とデート気分を味わいませんか? イメージ倶楽部、曼陀羅。(まんだら)』
このキャッチを見て、まず思い浮かぶのは、幽霊の格好をした女性と二人っきりでのデートだ…
つまり、幽霊イメクラ。
当然、私もそれだろうと思い、入店した。
中に入るとボーイらしき神主ファッションに身を包んだ男性が、写真を差し出し、指名システムである事を説明した。
「どの幽霊にしますか?」などと聞いて来たので、私は写真に目を通し、一番怖い顔をした『お岩』を選択し…
次に、料金プランを説明される。
40分コース4000円〜
60分コース6000円〜
90分コース7000円〜
当然、一番お得な90分コースを選択…
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個室へと案内される…
店内にはおどろおどろしいBGMが流れ、冷房を強めに設定しているのか肌寒く、雰囲気作りにも余念が無い。
「お寒い場合は毛布などをお貸ししております。なんなりとご所望下さい…」
と、男性に言われながら…
小さな鳥居を幾つかくぐり抜け、一番奥の部屋に通される…
部屋には名前がついていて、この部屋には『四谷(よつや)』と襖の入口に血のりで書かれていた。
四谷怪談をモチーフにしているのだろう…
室内は和室をイメージしてもらえばいい…
畳ばり四畳半の個室だ。
そこには既に『お岩』が待っていて、私に一礼する
「お帰りなさいまし、伊右衛門様」
と、四谷怪談のお岩さんになり切っていて、なんとも嬉しい心配りだ…
ドリンクを注文して腰をおろす…
そこには何故か敷布団が敷かれ、時代劇なんかで見た事のある高いマクラが置かれていた…
お岩さんは、よく見るとそれなりに若く可愛い人だ。白装束を身にまとい、顔は…右顔面を紅く爛れた様にメイクを施し…
顔色は蒼白…
煙管をくゆらせ、不気味な雰囲気を醸し出しているが、話を聞く限り性格は暗いわけでも無く、明るい人だった。
……………
この店で、『お岩さん』を始めて半年、それなりに慣れて、今は楽しいと話す彼女に私はある質問をした。
「あのさ…この店、本物が出たりしないの?この雰囲気だとマジで出そうだよね…」
「え…?…出ませんよ!で…出るわけないじゃないですかぁ!きゃはは」
……。
私は見逃さなかった。彼女にその質問をした時一瞬見せた、その引きつった表情を…
しかし、彼女に話をすり替えられてしまい、もうどうでも良くなってしまうドスケベな私が顔をのぞかせる…
「伊右衛門様?追加で5000円支払っていただければ、岩が伊右衛門様を癒して差し上げますが…いかがですか?」
この店はファッションヘルスも兼ねている…
つまり、追加で5000円払うと男性器のマッサージを行ってくれるという事だ…
勿論、承諾して仰向けで横になる…
「いけません伊右衛門様!…まずは、入浴して身体を清めていただかなければ…」
「ふふ、ソレガシとした事が、妻に焦りを見せてしまった…」
……………
こんな感じで雰囲気を楽しみながら、個室横にあるシャワーを浴び、再び個室に戻り仰向けになる…
ん?天井に鏡が貼られている…
お岩が白装束を脱ぎ捨て私に覆いかぶさる様子がよく見える。
お?もう一人個室に入ってきた…
ズタボロの洋服にボサボサの艶のない髪、顔は見えない…見えるのは頭頂部のみだ…
「岩さん?もう一人、入ってきたけど誰かな?この店の人?」
「はい?いいえ…誰も入って来てませんよ?」
背筋の毛が一斉に逆立つ。
横目で入口付近に立っているはずのソレを見てみた…
確かに、誰も居ない…
しかし、鏡に視線を戻すとソレは間違い無く居る…
「伊右衛門様?ローションつけてもいいですか?ちょっと冷たいですけど…」
「うっ…うん」
事が始まってもソレは微動だにせず佇んで居る…
何が目的か?何故そこに居るのかは分からない…
恐怖で縮こまってしまい私のあそこは男性機能が働かない…
すると、ソレはふっと動きだし、私にゆっくり近づいてくる…
直ぐ横までくると…
「づづづづずずずず…」
気持ちの悪い音と共に、ソレの頭は私の顔に覆いかぶさる…
それなのに、肉眼ではソレが見え無い…でも、顔には冷んやりとした空気が感じられた…
鏡にはソレの後頭部が映っているのが見える…
「伊右衛門様?どうかされましたか?あの…岩が下手だからかな?気持ちよく無いですか?」
岩の声にビクッ!と反応したが、なんとか返事を返す
「い…いや…そうじゃなくて…僕の目の前になんか来てるんだよね…」
と、お岩に視線を落とした。
すると、お岩は引きつった表情をしてこう聞いて来た…
「え…それって…ボサボサの髪の毛の人ですか?」
「あぁ…ヤッパリ出ること知ってたんだね…」
視線を鏡に戻すとソレは鏡に顔を向け凄い形相で私を見つめている!
目は信じられない程大きく見開き、顔色も薄紫色で血色が悪く、口から大量の血を吐き出しながら、何かを叫んでいる様に見える…ソレは急に立ち上がり、鏡に顔をずずずぅ!っと近づけ、ああ〜んと口を開け鏡に写す…
…歯が無い……
…舌も無い…
気味の悪いその表情はニィヤァァっと不気味な笑みを浮かべる…
あまりの恐怖で目を逸らすと、ソレは私の目の前に姿を表した…
「ひゃっ…………」
身体が動かない。
金縛りであることはすぐに分かった…声も出せず、助けを求めようとお岩に目を向ける…
お岩は笑みを浮かべながら、よだれを垂らし、視線が定まらないひどい顔をしている…
嗚呼…こんな事なら追加で料金など払わずに店を出れば良かった…などと裸のまま、思いを巡らせ、兎に角…もうこれ以上嫌なモノは見たくなかったので目を瞑り、時の過ぎるのを只々待つ事にした…
だが、私の願いと裏腹に次は、ソレの声が聞こえてくる…
「死……を…も……っ…て…つ…ぐ…」
やめてくれ!最悪のパターンだ…
それでも続ける…
「な……え……死………………ね…」
いやぁ!助け…!私が何をしたって言うんだ!死にたく無い!死にたく無い!
そんな事を心の中で叫んでいると………………
『トゥルルルルッ…トゥルルルルッ…トゥルルルルッ…』
と室内にある電話が鳴る。
途端に体が自由になり、私は直ぐに電話の受話器を手にとった…
『もしも〜し、詩織さん?時間オーバーしてるよ〜…』
「あ…あの…」
『あっ!?…お客さまでしたか?失礼しました。いかがなさいました?』
「いや…あの…お岩さんなんですけど…なんかその…おかしくなっちゃって…」
『え?わ…分かりました。今、伺いますので、お待ちください。プッ…』
と、言って切ってしまう…
「待って!なんかヤバイのも居るんだって!!」などと一人で騒ぎながらチラッと後ろを振り向く…
居ない?
鏡を見上げた…
私が写って居る…
当たり前だ…だが、ソレは写っては居なかった…
ホッとしていると、入口の襖が勢いよく開く!!!!
「ぎゃあああ!」
「ひえ!あ…お客さん…」
先ほどの神主が飛び込んで来たのだ…
「しっ詩織さん!?………あああ!またか…」
「え?!ちょっ…あの…またって?」
「いえ…お客様、えっと…料金はお返し致しますので、どうかこの事は、その…多言しないで頂きたいんです。大変申し訳ありませんが…」
そう言って料金を渡され私は店から追い出されてしまった。
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後日、あのお岩役の詩織さんなる女性に話を伺いたくて、その店に行った。
が…フィリピンパブに様相を変え、あの店は無くなっていた…
もしかしたらと思い、店に入る…
「イラッシャイマセー!オキャクサマァ!!」
化粧の濃い外国人が凄い勢いで私の腕を掴み席に無理やり座らせ、勝手にウィスキーを作っている…
「ねえ…あのさ…前にこの場所にあった曼陀羅ってお店…」
「アーアノミセ、ツブレタヨ…」
「何で?」
「ワタシ、アノミセ…ハタライテイタ…タカラ、イイタクナイヨ!」
このフィリピン人は以前、あの店で働いていたと話す。ならば、必ず何かを知っているに違いない…
私はそう思い、しつこく聞き出そうと粘った…
すると、渋々だが話してくれた…
怪現象が起こる様になったのは、ある日、詩織さんという女性が曼陀羅に務め出してからだった…
彼女は普段…明るく元気な人だったが、少し様子がおかしい時がたまに見られた…それは接客中に突然カミソリで手首を切り、客の局部に血をかけ、笑いながらそれをフェ○チオしたり…客の上にまたがり舌を噛み切り血を客の顔に吐き出したりと…かなりおぞましい内容だった…
その被害を受けた客は皆、口ぐちに天井に貼られている鏡にボサボサの髪をした女の霊を見たと話したと言う。
それまでは無かった…
詩織が持ち込んだんだ…と『リア』と名乗るフィリピン人は語っていた…
今はこのパブには何も無いのかと尋ねるとリアは…
少し間を開けて、「………アタリマエヨ!」と答えていた…
(怪しいもんだなこりゃ…出るな…)と私は心で呟き、そそくさと店をあとにした…
(フィリピンパブにご注意を…もしかしたら、あなたの通うその店は、以前『曼陀羅』と言う店だったかもしれないから…)
作者退会会員
シリーズ第…何段だっけ…(笑)
最後まで読んで頂きありがとうございました。