以前、私が福岡に住んでいた時に、霊障に悩んでおりました。
そんなある日に、友人の知り合いが祓える人との事で、紹介してもらいました。
その方の名前を仮に神田さんとします。神田さんは無償で祓ってくれ(お礼を渡そうとしましたが、彼はお礼を受け取ったら霊能力が下がるからと受け取りませんでした。)祓ってもらった直後からぴたりと霊障がなくなりました。
神田さんは、当時、三十代の大柄な男性で、優しそうな人でした。
感謝を伝え、しばらく雑談などをしておりましたが、
話は次第に、神田さんの霊感の話へ…いつ頃から霊が見えたか、祓えるようになったか…などと他愛もない話をしておりました。
すると、友人が、
「今まで一番怖かった体験は何?」
と、神田さんに言いました。
神田さんは、少し考え、口を開き、
「七人ミサキって知っとると?」
と、言いました。私と友人は、首を振りました。
今から話す話は、神田さんの体験した話です。
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当時、神田少年は小学五年生で、当時から不思議な体験ばかりしていた。
しかし、祓う力などなく、いつもなにかに怯えていたらしい。
神田少年には、年下の弟がいて、同じ部屋でいつも一緒にいそうだ。
この弟は、神田少年よりもすこぶる霊能力に優れていたらしい。
神田少年は、怖いものが見えても弟がいるから大丈夫だとどこかで安心していた。
そんなある日、医者で共働きの両親が帰ってこない日もよくあり、その日も二人で留守番をすることになったらしい。
深夜、ふと神田少年が目を覚ますと、カーテンの向こうの外が異様に明るい事に気づく。
時計をみると、時計の針は深夜二時をさしている。
おかしいなぁ。
そう思いながらも、普段から変なものばかりを見ているため、カーテンをあける勇気などなかった。
気のせいだ。寝よう。
寝返りをうとうとした時、
チリンチリンチリン…
遠くから金属がなる音がする。
静かな住宅街にその音がひたすら鳴り響いてる。
最初は遠くから聞こえる金属音が、次第に大きくなってる…つまり、近づいてる事に気づく。
神田少年は、布団の中で震えていた。
チリンチリンチリンチリン…
チリンチリン…
そして、神田少年は気づいた。
その金属音は、家のすぐそば、いや、正確には、
自分の部屋の窓の外から聞こえている事に。
ここは、二階なのに。
こんな時間になんなんだ。どうしたらいいんだ。
神田少年は、一人で焦っていた。
隣のベッドには、自分よりも霊能力のある弟が、寝息をたてている。
神田少年は、弟を起こそうとした。
しかし、いつも自分より二歳も年下の弟に頼ってばかりいた。
外にいる奴は、分からないけど自分が今まで体験した奴らより遙かに怖くて危険な奴だ。雰囲気でわかる。
弟を巻き込むわけにはいかない…自分でなんとかしよう。
弟を想う一心だった。
神田少年は、震える足でベッドからでた。
一歩一歩一歩一歩
恐る恐る窓際へ近づく。
近づく度に
チリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリンチリン…
音はずっと鳴り響いてる。
とうとう窓についた。
震えながらカーテンに手を伸ばす。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
心臓の爆音が聞こえてるんじゃないかと思うほどなっていた。
あ…開ける、開けるぞ!
神田少年は目をつぶりながら、カーテンを思いっきり引っ張った。
チリンチリン
カーテンを開けた瞬間、金属音は、鳴り止んだ。
神田少年は、恐る恐る目を開いた。
窓の外には
六人の坊主が窓にべったり張り付いて目を見開き、無表情で神田少年を見つめていた。
「うわぁぁああああああああああああ。」
神田少年は、思いっきり叫んだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごごごごめんなさい。ごめんなさいぐぇ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。だあ。ごぉ。」
神田少年は、土下座をし涙や鼻水、よだれをたらしながら何度も何度も何度も何度も謝った。
「わぁぁああ。兄ちゃんも僕も何も悪いことしてません。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。連れて行かないで。ごめんなさい。ごめんなさい。」
弟もいつからか起きていたのか神田少年の横で、ひたすら謝っていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
気がつくと、兄弟の声だけが響いていた。
神田少年は、恐る恐る頭をあげた。
六人の坊主は、いつの間にか後ろ向きになっており、
チリンチリンチリンチリン…
と鐘を鳴らしながら、去っていった。
神田少年と弟は、息を切らしながら顔を見合わせていた。
すると、弟は、口を開いた。
「兄ちゃん、ありがとうな。」
神田少年は、微笑しながらピースをした。
神田さんは、ここまで話して、ため息をついた。
「後で調べたんだが、奴らは七人ミサキと言って、普段は七人で行動をする妖怪のようなもんらしい。
いろんな所を旅して、仲間を見つけるんだ。仲間が増える度に先頭を歩いてる奴が成仏できる。
だから、奴らは自分の番がきて早く成仏したいがために旅を続ける。
俺が見たのは六人しかいなかったって事は仲間を捜していたんだよ。
子ども心に謝って許してもらえたが、大人になった今でも、あいつらに会ったら勝てない気がする。できれば一生会いたくはないんだが…」
神田さんは、煙草を口にくわえ、火をつけた。
「でも、兄弟無事でよかったですね…」
友人が、口を開いた。
「俺はね、こうやって無事大人になれたんやけど、弟が……。」
私達は、固唾を飲んだ。
「高校にあがってすぐから今も行方不明なんよね。
捜索届けも出した。
探し続けてもう十年近くになるんや…。
ある日、弟の机から見つけたんや。汚い弟の字で、書かれてる手紙を。
その手紙を開いて読んでみた。
『七人ミサキさんへ
あの夜、俺は、なんも悪いことしてないと言いましたが、俺はいつも兄ちゃんがキライでした。
いつもうじうじ怖がって、なんで俺ばっかし、って心ん中で弱虫、意気地なしとか言ってました。
でもあの夜、兄ちゃんは、俺を助けてくれました。
本当は、あの夜、俺を連れて行こうとしたんやろ?
助けてくれた兄ちゃんを嫌ってた俺は、悪い子です。
どうせ、また来るつもりなら今すぐは怖いのであと、数年たってからにしてください。
兄ちゃんのいない所で
○○○』」
そこまで話すと、神田さんは、空を見上げ、悲しい顔で言いました。
「弟が連れて行かれたんなら、兄として、見過ごすわけにはいかんな。
また会わないかんわ。
弟の番が来たら…
それが兄のメンツやからな(笑)。」
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あれから数年が経ちました。
先日、友人から久し振りに電話があり、
他愛もない話をしておりましたが、
友人が、ふと言ったのです。
「そういえば、神田さん、今………
行方不明らしいよ。」
嘘のような本当の話です。
作者黒い苺