私の知人で、霊感師の「Yさん(仮名)」がいらっしゃいましてね。
その人の所に相談に来た方のお話です。
Yさんは子供の頃から霊感が強かったようで、いろいろな経験をされてました。
夏場になると「怪談話」をクラスの皆にするほどの猛者だったそうで。
そんな人物ですから高校時代にあまり話もしたことがない女性「Kさん(仮名)」から急に、
「5年ぶりなんだけど怪談ごとで相談があるの」
と言われても何も驚かなかったそうです。
双方都合のいい時間を約束して、Yさんは喫茶店で彼女に会うことにしたそうです。
※ ※ ※ ※
約束の時間より少し早めについた私は、先にコーヒーを注文して待っていた。
そしてちょうど1杯目を飲み終えたあたりで、Kさんらしき人物ともう一人の女性の2人連れが歩み寄って来るのが見えた。
その時だ。
連れの女性の肩口からちょうど背負子を使っている感じで、赤ちゃんの顔が見えた。
まるまるとしていて、立派な顔立ちで、本当に可愛らしい赤ちゃんだった。
彼女はそのことに全く気づいていないようなそぶりだ。
いわゆる『水子』と私は判断して、その2人連れに目をやった。
近寄ってきた人物は案の定Kさんだった。
「急に電話をして悪かった」とか、「何を今しているのか」など、同窓会のような会話をいくつか交わした。
その後、Kさんは連れの紹介を始めた。
その連れの女性はIさんといい、Kさんの仕事場の同僚との紹介だった。
「早速で申し訳ないけど、相談にのって欲しいの…Iちゃん自分で話せる?」
コーヒーを3つ注文しなおしてから、KさんはIさんに説明するよう促した。
Iさんはひとつコクリと頷くと、ポツリポツリと話はじめる。
「……実は男性の方とお付き合いをはじめてもすぐ別れてしまうんです」
「ほう、それはどういった感じでそうなるのですか?」
私はおかわりのコーヒーをひと口すすってから彼女の話を即す。
「最初は普通なんです。ですが、だんだんと親しくなっていくと男性の方から『気味が悪い』とか言われるんです。そしてだいたい破談になるんです」
寂しそうに伏目気味にIさんはそう話すと私の方を真っ直ぐ見遣った。
「何か相手に嫌われるような行動に思いあたるものはありませんか?」
「……いえ、何も」
ここまでの会話を黙って聞いていたKさんがIさんのフォローした。
「本人を目の前にして言うのもなんだけど、本当にルックスも性格もいいし嫌われそうな要素は何もないのよ」
私はここまで聞いて何となくわかった。
おそらくIさんの背後にいる水子が関係あるのだろう。
私は先に非礼を詫び、Kさんには「他言無用」と釘をさしてから話しはじめます。
「……Iさんは以前、お子さんを流産されたことはありませんか?」
それを聞いてKさんは絶句。
Iさんは目に涙をいっぱい溜めてから、その涙を隠すでもなく、コクリと頷きます。
それを確認してから私は続ける。
「Iさんが入ってきたときからあなたの肩口にいるんですよ。かわいらしい赤ちゃんが……本当にいい表情をしている。悪い子じゃないんですよ。むしろIさんを守っているようにも見えます」
そういうと彼女の背後にいる赤ちゃんが、私の方を向いてころころと微笑んだ。
Iさんは涙を流しながら語りだした。
「……以前結婚を前提とした男性との間に赤ちゃんを授かったことがあります……でも私が車で事故にあいまして、私自身は助かりましたが、お腹の中の子は流産してしまいました。そんなこともありその男性と関係が気まずくなり、結果別れてしまいました……」
私はそこまで聞いてからまたコーヒーをすする。
そして肩口にいる赤ちゃんに向かって確認するように私は話はじめた。
「……きっと今まであなたに言い寄ってきた男性は、遊び半分の気持ちだったんじゃないでしょうか? だからその子が悪さをして追払っていたんでしょうね……きっと本気であなたを大切にしてくれる人があらわれたらその子も悪さしないと思いますよ」
Iさんは涙をハンカチで拭ってから、
「……そうですね。そんな男性に巡り会えるよう頑張ります」
と私に元気よく答えた。
赤ちゃんは相変わらずころころと私に向かって笑っていたのが印象的だった。
※ ※ ※ ※
1年ほどたったある日、私の元に一通の挨拶状が届いた。
「私たち、結婚しました!!」
とIさんからの結婚報告の内容だった。
ウエディングドレスをきたIさんの胸元には可愛らしい赤ちゃんが抱かれていた。
その顔は、はじめてIさんと会った日にあったあの水子霊にそっくりだった。
※ ※ ※ ※
「きっとあの水子が生まれ変われたんでしょうね……」
とYさんが私に説明してくれた顔は、安堵にも似たよい顔をされていました。
作者有馬麻里亜
実際にYさんから伺った話を小説風にアレンジしたものです。
『怖い』というよりは、『幽霊って本当はなんだろう』というお話になったかと思います。