かみひと「呪邪」1
インターネットで怖い話をみているとこんな話があった。
その人にはとてつもなく強い悪霊が住んでいて、他の霊や悪霊が近づくこともできず、ましてや消滅するという、そしてその人はその最中は寝ているという内容だった。
僕はそれだ。いや違うところが2・3点ある。
1つめは、自分でそれと理解しているというか見える。
2つめは、その最中に寝ることはない。ずっと見ている。
3つめは、悪霊ではなく良い霊、ほぼ神に近い存在だ。むやみやたらに霊を消滅させない。なぜそんなことを知っているのかは、また別の話なので後で書こうと思う。そして僕は、その神で悪霊を退けることを職業としている。なぜそのような職業が成り立っているのかというと、ダイキのおかげである。
ダイキは、大学からの付き合いである。入学して間もないころ、何のサークルに入ろうかと掲示板を見ている時に声をかけられた。
「なぁ!!」
「初対面でこんなこと言うのもあれなんだけど、、、」とダイキは言った後に間をおいて僕の後ろの方を見ていた。
僕はダイキが見える人であると感じた。
「あぁこれのこと?すごいだろ?」と僕は言った。
「え?見えてるの?」
「うん。たまに除霊とかしてる。」
「まじかよ。じゃあいけるかも」とボソッと呟いた。
こんな会話をするうち次第に僕とダイキは自然と打ち解けた。今では親友だ。
それから僕らは、場所を変えようと食堂に向かった。
「さっきのさぁ~いけるかもってどういう意味?」ダイキにそう尋ねると、ダイキは申し訳なさそうに僕に話した。
内容は兄が父親と、少し離れたところにある田舎の神社に除霊に行った話だった。その神社は昭和の終わりごろまでは、神主が居て神社として成り立っていたそうなんだが、その神主が悪霊に取り憑かれ亡くなったそうだ。以来その神社は悪霊の住処となっている。その神社での除霊の最中に兄が取り憑かれたらしい。幸いにも父親が近くにいたので、被害を最小限に抑えたものの、兄はまだ悪霊に蝕まれているらしい。
ダイキは申し訳なさそうに僕に言ってくれた。
「その話本当なの?」
「????」
ヒロユキの後ろ、僕の正面に座っていた女の子が僕らに向かって言ってきた。
「ねぇ、その話本当?」
不覚にも僕は彼女に一目惚れしてしまった。
彼女の名前はアヤ。少し吊り上った目で顔立ちはハッキリしている。綺麗な女の子だった。僕は、その見た目以上に何かを感じていた。
「聞いてたの?」ダイキがそう答えた。
「うん。あなた達が食堂に入ってきたときからすごかったから。周りの霊たちが、、」
「その話私も混ぜてくれない?協力するから。」
「ほんとか?その方がうれしいよ2人もいたら心強いし!!」
「私はアヤっていうの。君たちは?」
僕は一目惚れしていることを悟られないように自己紹介した。そんな必要は全くなかったのだが、、アヤは重度の恋愛鈍感だった。
その日僕らは、ダイキの家族のことをより詳しく教えてもらうため、また予定を決めるためアヤの家に向かった。アヤは一人暮らしだ。本人は男を部屋に入れることを全く気にしていなかった。しかしながら部屋は女の子さながらのいい匂いがしたのを覚えている。すべてアヤが仕切ってくれた。僕とダイキはそのテキパキとしたアヤに唖然だった。なぜアヤの家だったかというと僕らは実家暮らしだ。
そこで話し合った結果、決行は土曜日。3日後だ。ダイキが家に連絡すると、今から準備を始めてくれるらしい。結界を張ったり、兄に憑いている悪霊を最低限静めたり、準備は山ほどある。僕も3日後に備えた。
決行の日、僕はアヤと駅で待ち合わせし、隣県のダイキ宅へと向かった。ダイキには悪いが、向かう道中は他愛もない会話でとても楽しかった。
寺に着くと、門の所でダイキが待っていた。
「よう!早かったな!」
「駅から1本道だから迷わなかったよ!」
ダイキはコソっと僕に「楽しかったか?」と聞いてきた。バレバレだった。顔に出ていたらしい。
そんな話は置いといて、ダイキに寺の中に案内された。
正面が本堂、左に大きな鐘、本堂の左奥には階段があり、墓へと繋がっていた。そして右側にダイキの家があった。家の中に招待されると、居間には、ダイキの父である住職が僕たちを出迎えてくれた。
「このたびは私どものためにすみません。」
「いえいえ僕はそうゆう運命ですから。」と僕は答えた。
「すごいですね。その方はご先祖様ですか?」と住職
「まぁ、そんなところです。早速ですけど。」
あぁ。と言いながら、僕らは本堂の奥の奥にある離れに案内された。異常な光景だった。
何もない真っ暗の部屋にダイキの兄は立っていた。いや、立ったまま死んでいるように見えた。その部屋は、電気をつけても闇に包まれていた。
今まで祓ってきた悪霊とは違う桁外れに恨み・悲しみ・呪いが強かった。勝てるのかわからなかった。というかなぜこの状態でダイキの兄は生きているのだろうと背筋が凍りついた。アヤはというとずっと部屋の奥の方を見ていた。一番闇が濃い場所だ。
アヤは僕に大丈夫だよとだけ言って、本堂の方に帰って行った。住職とダイキも本堂の方に歩いていった。そして僕は、結界の中に入った。
モトヒロを兄のいる部屋に残して本堂に戻ったとき、少しだが地震があった。震度2もなかっただろうか、俺は、モトヒロが結界の中に入ったのだろうと思っていた。アヤはというと、モトヒロが居る部屋の方を向いて目を瞑っていた。父は、お経を唱えていた。俺も一緒になってお経を唱えた。
何時間経っただろう、日はもう傾き始めていた。もうすぐ16時になるだろうか、かれこれ5時間は経っている。すると、モトヒロが兄を背負って出てきた。
「今すぐあの部屋を封じてください。弱っている今しかありません。」
父とアヤが走って部屋へと向かった。僕はモトヒロに駆け寄るとモトヒロは笑顔で「もう大丈夫だよ。」と言い、俺は兄を本堂に寝かせた。
部屋に向かうと真っ黒の霧みたいなものが部屋の隅で縮こまっていた。どうやらこれが、ダイキの兄を苦しめた悪霊らしい。住職と目で合図して、私はその霧を包み込める程の強力な結界を何度も何度も何重にも張った。部屋の外では、住職が部屋を封印する準備をしている。どうやらこの住職も只者ではないらしい。私が部屋を出た瞬間、住職が部屋を閉め扉に墨で大きく文字を書いた。その文字は、正方形の離れの四方に大きく書かれていた。
これで、完璧に悪霊を封じ込めることに成功した。
本堂に戻ると、ダイキとモトヒロが少し悲しそうな顔をしていた。
どうやらダイキの兄には脳に障害が残り、自分で歩くことも喋ることもできないそうだ。
少しの間、脳に酸素が回っていなかったらしい。後になって、医者からそう言われたとダイキが言っていた。
ダイキの父である住職は「生きていただけで十分幸せだ!ありがとう。」といって、私とモトヒロを抱きしめてくれた。すごく切なかった。
ダイキと住職は兄を連れて病院に行くというので私たちも付いていくことにした。
「しかし君たちはすごいなぁ。」住職が本当に驚いたとゆう様子で僕らに言った。
ダイキ「どうゆうこと?」
「モトヒロ君だったか?君のその方は神レベルの存在だ。とても強い力を持った人の霊だよ」と住職が僕に言った。
「そしてアヤさんかな?結界を何重にも張りめぐらせ尚且つ小さな穴を開けて呪いが分散するように作っていた。あの状況であれは俺でもできねぇ」と住職はいった。
ダイキは口を開けたまま僕らの方に顔を向けて「まじで?」
その顔が何とも間抜けだったので、僕らは笑ってしまった。
僕ら3人はダイキの兄たちを待っている間、病院の待合室で話し合った。
「やっぱり消滅まではできなかったね。」アヤは、最初から分かっていたかのように僕に言った。「でっも大丈夫だったでしょw。モトヒロのそれの方が強いと思ったからそう言ったんだよ。」
「何とかダイキのお兄さんから外すことができたけど僕も危なかったよ。」
「結構時間もかかったしね。」
「てかなんでアヤは結界とか張れてそんなに動じないの?怖くなかったの?」とダイキが口をはさむように言ってきた。
「・・・・・私の家ね、陰陽師っていうの。お婆ちゃんに習ったから。ある程度は使えるよ。何度か実践も積んでるから。」
「実践?」僕とダイキはハモってしまった。
「あれはね、呪邪って言ってね私はそれを追いかけてこの県に来たの。お婆ちゃんのお使いで。」とアヤは話し始めた。
「今までのは弱かったからお婆ちゃんと2人でも封じることはできたけど、今回のはモトヒロが居なかったら無理だったね。」と笑いながら言っていた。
「この県にあと5体呪邪が居るはずなんだけど、それを大学卒業までに封じるのが私の役目なんだ。」と僕の目を見ながらアヤは目で手伝ってねと言っていた。
僕は勿論オッケーだが、ダイキはどうするのだろうか?
「俺らも手伝うよ!」ダイキが僕の気持ちを読んだように言った。
「も?ってことはモトヒロも手伝ってくれるんだね?」とアヤは僕にウインクしながら聞いてきた。こいつは本当に鈍感なんだろうか、わざとやっているのだろうか。僕にはわからなかった。返事は「もちろん」と最初から手伝う気満々です。そんなオーラで返した。
住職が僕たちの所に来て、「今日は本当にありがとう。またいつでも寺に来てくれ。そしてすまないが、タクシーで帰ってくれないか?ダイキも一緒に帰りなさい。」とお金をダイキに渡して、住職は兄のいる病室へと歩いて行った。
ダイキを家まで送ってからの帰り道、僕はなぜかアヤに告白してしまった。そのあたりの記憶が全くないのだが、見事に振られたのは覚えている。でもアヤは最後にこう言った「今から私の家で一緒にご飯食べない?」
なんなんだこの女は?と思いつつも喜んでアヤについて行った僕は心底自分のことをアホだと思った。
作者ともり
話の目線がコロコロ変わります。