これは私の妻の知り合いの身に起きた話である。
30代前半の静代(仮名)は、所謂元ヤンのバツイチ女性。夫と別れ二人の子供と愛犬のジャンプと市営団地の4階に住んでいた。スナックを経営していた静代にはある悩みがあった。静代は視える女性で、街中でもよく霊を目撃していたと言う。慣れっこになっていたのだが、一つだけどうしても慣れない現象に悩んでいた。
それは度々家にやってくる白い着物女性の霊。
やってくる時はわかると言う。
眠っていると不意に目が覚めるのだが、身体は全く動かす事ができない。
金縛りである。
来たな・・・と思うのもつかの間、部屋の隅でパシッパシッとラップ音が響き出す。
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身体はうごかないが、頭の中に団地の階段を滑るように上がって来る着物姿の女性が浮かんでくるらしい。
その女性はそのまま玄関のまえで立っているだけ。
頭の中には、白い着物を来た30代半ばの髪の長い女性が俯いて立っている姿が映り続け、身動き出来ないままの時間が経つばかり。
しばらくすると金縛りが解けて、女性の気配も消える。
そういう日が月に数回あるのだという。
昼間でも気配を感じる時があるそうで、その場合には愛犬のジャンプが玄関に向かって激しく吠える。
sound:2
子供たちは視えたりしないが、そういう現象がよく起こるので、ジャンプが吠える時は非常に恐い思いをするらしい。
そんな日々に疲れ始めていた時、いつものように金縛りにあった。
「またか・・」と身構えた静代はいつもと違う雰囲気に気づく。
その日は部屋の四隅でラップ音が鳴った。
いつものように体は動かないが、頭の中に女が階段を上がって来る景色が映る。
いつもと同じで玄関の前で立ち尽くす・・・と思った女が、なんと玄関を通り抜けて家の中まで入ってくるではないか!
sound:19
そして静代の寝ている部屋をも通り抜けて枕元に立った。
驚いた静代は目を開けた。
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するとそこには、静代を見下ろす着物の女性の姿が目に入った。
長い髪は手入れされておらず、化粧気のない顔はとても淋しそうだったという。
何かを訴えたい感じは伝わるのだか、その女性はただ立つだけで何もしてこない。
数分もその状態が続いたが、やがて女性が消えると金縛りも解けた。
恐怖に汗だくになり、シャワーを浴びて気を落ち着かせるも、その日は眠る事が出来なかったという。
その後も何度か部屋の中まで入ってくる女性。
静代はいつの間にか慣れっこになっていたある日、県外に嫁いでいた姉から久しぶりに電話がかかって来た。
久しく聞く姉の声は沈んでいた。
理由を聞くと怪現象に悩まされているという。
その怪現象とは、度々枕元に着物の女性が立つのだという。
詳しく話を聞くと、その女性の容姿などが静代の所に現れる女性と酷似していた。
姉は静代程視える人では無いので、怖くなり視える妹の静代に助けを求めたらしい。
静代は自分の身にも同じ現象が起こっている事を姉に話した。
静代は姉には一切霊現象について話していない。
それなのに遠く離れた姉の所まで、同じ現象が起こる事に二人は困惑した。
ただ、ひとつだけ確信した事は、この女性が身内なのでは無いか。
白い着物に化粧気のない顔は、何か時代が古い印象を受けたという。
おそらく先祖で何か伝えたいからでて来るのだろうか。
二人にはそれくらいしか思いつかなかった。
先祖かもと思い始めてからは、怪現象は幾分か収まったらしい。
両親と仲が悪かった静代は、先祖の事を尋ねる事もできず、その後も特に女性の正体がわかる事もなかったという。
この話を妻が静代から聞いたのが7年くらい前。
その後は静代と付き合いが無くなり、霊現象がどうなったのかはわからない。
静代も元気にしているのかも分からない。
枕元に立つ白い着物の女性。
一体どんな生い立ちがあった女性なのだろう。
暑くて寝苦しいによく思い出す話だか、その結末を私が知る事はなさそうである。
作者親父ゲーマー