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まず最初にお断り致します。
このお話は怖くはありません。
どちらかというと、不思議なお話です。
それでも良ければ、しばしの間のお付き合いを…。
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私が「ソレ」を目撃したのは、中学二年生の夏。当時、頻繁に散歩に利用した近所の河川敷でした。
学校から帰宅するとその足で、緑の匂いが萌ゆる土手を降りて広い河川敷に降り立つと、その眼前には軽く背丈まで伸びたススキの枯れ穂。
遠くからだと衝立のような薄茶の枯れ穂も、近づくと湿った土が覗えます。
そこには点在する不法投棄のタイヤや家電、それからボロボロになった衣服や、多分隠したまま放置されたエッチな雑誌(笑)
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一見しなくてもゴミだと思われるその物達の所以を想像するのが、当時の私の楽しみでした。
そして、次第に最奥へと進んでいった私の目の先に飛び込んだのです。
ぬかるんだ土の中から顔を覗かせた、自棄に白い「ソレ」を──
それは、違和感を感じさせる程白い『骨』でした。
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ただ最初は、ソレが『骨』とは気づきませんでした。子供だった私の目には、ソレはプラスチックの塊か何かだと思ったのです。
そう勘違いさせるまでの白さは、とても異様に映ったのでした。
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結局、その日は特に深く考えず、そのまま帰宅したのですが、翌日、授業中にもずっと頭から白い物体の存在が離れられず、速攻帰宅した私は、昨日と同じ場所へと足を運んだのです。
そして、「ソレ」は昨日と同じ場所、同じ様子でそこに佇んでいました。
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私は手近にある木片で、そっと白い物体の土を除いていきます。
次第に、土の中から姿を現す土に汚れた長い物体。両端はコブのようにぽっこりと膨らんだ形状。
すぐさま頭に浮かんだのは、「ソレ」が『骨』だという認識でした。
突然姿を現した非現実的な物体に、しばらく呆然としていましたが
(まさか、こんな所にある骨だもん。犬か何か動物の骨だよね)
すぐにそんな考えが頭よぎったのです。
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雨が少なく、日照りが続く日以外は、湿った土の河川敷は、様々な理由で亡くなったペット達の墓場でもありました。
だから、咄嗟にそんな事が浮かんだのかもしれません。
その日はそれ以上の詮索はなんとなくはばかられ、もやもやした気持ちをかかえたまま帰る事にしたのです。
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それから毎日河川敷におもむいては、むき出しにされたままの「ソレ」を眺める日々が続きました。
と、同時に細部まで見ていたが故の疑問も、日々大きくなっていきます。
それはどう見ても、ペットの犬や猫の骨とは一線を画しているように感じました。
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太く、そして長い白い骨。
長さは30センチくらい。太さも何か大きな物を支えるようにがっしりとしている骨。
頭の片隅では、ソレは動物(ペット)の骨なんかじゃない、と警告を出しているにもかかわらず、私は土から突き出た謎の骨にすっかり魅了されていたのでした。
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だからでしょうか。存在の事を、親にも友達にも言えなかったのです。
きっと魅了されていると同時に、底知れない恐怖があったからかもしれません。
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もし、なにかの犯罪によるものだったら?
誰かに教えて、その人が巻き込まれたら?
不安が胸中を占めると共に
こんな不思議で非日常な事を独り占めしたい。
そんな子供っぽい独占欲があったのかもしれません。
結局しばらくの間、私の頭の中は、寝ても醒めても骨の事で埋まっていました。
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ですが、興味と独占欲が崩壊したのは、骨を見つけてから一ヶ月以上後のこと。
どうしても骨が何の「骨」であるのか気になり、掃除の時を見計らって理科室の人体模型を見ようと足を向けたのです。
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ひととおりクラスメイトと簡単な掃除をした後、みんなが理科室を出たのを確認してから人体模型へと近づきました。
長い間使われた人体模型は、ところどころ部品を紛失したのか、ぽっかりと空間を作っています。
自然と私の目は、筋肉の模型が無くなった太ももへと注視したのでした。
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綺麗にえぐられた太ももから除く白い骨。それは、私が河川敷で見た「骨」ととても酷似していました。
(まさか…本当に「人間の骨」?)
言葉が頭を巡ると、夏の終わりとはいえ、まだまだ残暑で蒸し暑い理科室に反して、私の体は一気に冷たくなりました。
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まるで全身の血が抜けてしまったかのようです。
耳の中はドクドクと早鐘を打つ心臓の音が周囲の音を消し、呼吸も浅くなり息苦しさを感じました。
頭の中は「まさか」という言葉が、延々と繰り返していたのでした。
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それから、しばらくの間、河川敷には行きませんでした。
もし、あの「骨」が人の物で、何かしら犯罪に巻き込まれたものだったとしたら…。
次、土の中から突き出るのは自分の骨かもしれない。
恐怖に河川敷に近づく事も止めた私は、見えない影に毎夜うなされていたようでした。
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それが展開したのは、ある日見たテレビの番組で流れた言葉。
豚のある部分の骨が、人間の大腿に似た大きさや形をしている──とのことでした。
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ほっとしたのもあり、翌日河川敷に向かおうとしましたが、わずかに怖さが足を引き止めてしまい、途中まで行ったものの、あの「骨」のある場所までは近づけませんでした。
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しかし、一度二の足を踏んでしまうと不思議なもので、受験や進学の慌ただしさもあり、あれだけ心を占めていた謎の「骨」の事も忘れ、河川敷から遠のいてしまってました。
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結局、あれから一度も確認しないまま、私はその土地を離れてしまい、今に至ります。
たまに、近くを通る事がありますが、そんなときはあの非日常的な日々を邂逅します。
そして、今もあの場所に「アレ」は誰にも見つかる事なく、朽ちてしまっているのだろうか。
少女の頃の懐かしい記憶に、心馳せてしまうのです。
作者桜井櫻子
過去に実体験したお話です。
決して怖くもありませんし、謎を残したままですが、どうぞよろしくお願いします。