ペンキで大きくX.Y.Z(恐らく暴走族などのチーム名)と殴り描きされた壁を横目に建物に吸い込まれてゆく友人のKに僕は震える身体を抑えながらついて行った
K「危ね!おい!気をつけろよ!」
気をつけるのはKの方だ、ただでさえ暗いというのに急に曲がり角で止まったりするから、あまり前を見ないようにうつむき気味に歩いていた僕は彼の背中に頭頂部をぶつけてしまったのだ…
僕「だってKが急に止まっ…」
僕の言葉を遮るようにKが喋る…
K「おい、見ろよ…なんだよこれ…気色悪ぃ…」
気色の悪いと言うものを誰が好き好んで見るというのか…でも、見たくなくてもこういうものは何故か…怖いもの見たさと言うか、見てしまうのは世の常か…
人形?洋風の人形が落ちている…
薄汚れ、髪の毛は多少を残して殆ど抜け落ち、右手が無い不気味な人形だ…
いや、暗く薄気味の悪いこんな場所で見るから不気味に見えるのかもしれない、明るい場所で見ればただの薄汚いボロ人形だ…でも…
なんだろう…この、僕らを睨みつけているような…
この先には進むなと言わんばかりに怖ろしい形相に見えるのは気のせいか?月明かりが人形の顔だけをうっすら照らしている為に一層、不気味な表情に見える…
僕「やっぱ、やめようよ…僕…具合い悪くなって来たよ…」
K「馬鹿、意気地の無い事言ってんじゃねえよ」
…………
僕らがこんな場所に来たのは他でも無いKの提案だった。
せっかくの夏休みに海やプールにも行かず僕らゲームサークルは部室に閉じこもりクーラーの効いた涼しい部屋で夏の初めに発売された新作ゲームをやり続けて居た。
それはそれで楽しかったし毎年こんな感じでいつの間にか夏が終わっていたので、気にもしなかった。
K「今年は夏の終わりに肝試しに行くぞ!」
この提案にその手の物に苦手な僕は、気乗りしなかった…
正直、嫌で仕方なかった。
勿論、大反対したがKの言い分は、「今年の我々の作るゲームの参考にしたい。」と言うのだ…
はぁ???……
…僕らゲームサークルは毎年一つゲームを作成している。学園祭の際、この作成したゲームを客に一回、百円でやってもらうということを毎年おこなってきたのだ…しかし、今回のテーマは確か“格闘”だったはず…
しかし何故かKが勝手に“ホラー”に変更してしまっていた…
しかも、僕以外のメンバーは皆、知っていて、やる気満々の様子…「いつの間に?」と尋ねると「あれ?あの打ち合わせの時、居なかったっけ?」だって…
……。
冗談じゃない…そんな打ち合わせ、何時の間にやりやがったのか…
僕はそんな打ち合わせがあったことすら知らないと抗議するものの、もう決まったことだと完全にスルーされてしまった…
メンバーは僕、K、あとEと唯一の女子であるAの四人だったが、Eは里帰りで行けないということだったので三人で行くことに決めていた。
しかし、当日になって急にAから風邪を拗(こじ)らせたとの連絡が入った為、結局、僕とKの二人きりで向かう事になってしまった…
最悪だ…
三人でも怖いというのにたった二人で行くなんて…しかも、このむさ苦しい男と二人で…
Kはこのサークルのリーダーで、一番のゲームヲタク、太っていてクーラーの効いた涼しい部屋でも何時、汗をかいていて(しかもワキガ)正にキモヲタって感じの奴だ…
僕もあまり変わらないが、奴よりはマシな方だと……
…僕は思っている…人から見たらどうかなんて知らん!
少なくともデブでもチビでも無い平均的フツメンだ…
(なのでここから僕のことをラジオの『あ、安部 礼司(今のトレンドをドラマ仕立てで紹介するラジオ番組)』から名前を貰ってアベとする)
…………
街の外れに昔パチンコ屋だったという廃墟がある、ただそれだけ聞けば特に怖くはないが、かつてその店を切り盛りしていたオーナーが経営難に悩み、その場所で家族と一家心中をしたという逸話が残されているのだ…
その為、その場所は近所でも有名な心霊スポットとして知られていた…
普段から人気(ひとけ)のない場所なので淋しくそこに建っているのだが、夜ともなれば一層不気味さが増す。その辺一帯が何か禍々しいもので包まれたかのような感覚だ…Kが「そういえば、少し前に銭湯屋のおばちゃんが、あそこは昔、墓地があったんだ…なんて事も話してたなぁ…」なんて事をブツブツ話し、余計な情報を思い出しやがって…などと震えながら向かった事を覚えている。
二人で先ずは建物の周りを散策して入れそうな入り口を探した。
すると一箇所ガラスが割れている場所があった…恐らく暴走族などが壊して中に入った跡だろう。
「あそこから入ろう」とKはどんどんと歩いて行ってしまう…こんな場所で一人にされては堪らないので、その後を必死でついて行く…
人形があったのは入り口から入って直ぐだった…この店のオーナーの子供の物だろうか…定かでは無いが、兎に角不気味だった…長居は無用と通り過ぎると
Kがビデオカメラを止め、
K「アベ!お前写真ちゃんと撮れよ!何しにきたと思ってんだ?」
あまり撮りたくは無かったが、仕方なく、来る時にKに渡されたデジタルカメラで人形と周辺をを撮影した…
その場を後にして、階段や窓、トイレなど彼方此方(あちらこちら)を撮影をしてから、撮影した画像を確認した…
あれ?おかしい…
人形を写した画像がないのだ…いや、あるのだが人形が写っていないのだ…
僕「ねえ…おかしいよこれ…」
K「何が?」
僕「ほら、見てよ…さっきの人形、写って無いんだよ…撮ったのに…」
K「なら、撮り直せよ…結構良い材料になりそうだったんだからさ…」
こんなやり取りをして仕方なく人形の元に戻り撮影をしようとする…
あれ?無い…
確かにこの場所のはずだ…
と、Kと二人であの人形を探す…
が、結局見つけることができなかった…
時間もだいぶ遅くなってきていたのと早くこんな場所から出たかったというのもあり、人形は諦めて
他を見て回ることにした…この時、人形が無くなった事を不気味に思い、さっさと帰れば良かったと今でも後悔をしている…
事が起こり始めたのは、従業員用の給湯室に入ったあたりからだった。
僕は急に気を失いそうになるほどの頭痛に見舞われる…いや…正直この辺りからの記憶が殆ど無い…ここからはKの話に基づいて話していく。。。
Kの話によれば、その時僕が急に泣き出し「死にたく無いよぅ…死にたく無いよぅ…」と繰り返していたと言うのだ…
K「おい?アベ?どうしたの?辞めろよ!冗談だろ?」
僕「死にたく無いよぅ…お父さんやめてよぅ…」
K「マジやめろ!!ぶっ飛ばすぞ」
と僕を突き飛ばす…すると、僕の背負っていたリュックサックから何かがポロリと落ちたそうだ…
リュックのチャックを開けておいた覚えはなかった…しかし何故かチャックが開いていて…
K「おっと…なんか落としたぜ…」と拾いあげようとヒョイっと懐中電灯でソレを照らした時に彼は驚いた…
K「GIYAAAA!!」
その声で僕もようやく気を取り戻して…
僕「ひえ!な、なに?」
とKの顔を覗き込むと…
今までこんなKを見たのは初めてだった…完全に怯え切り、引きつったような表情で…ぐわっと僕を睨みつけると、不思議な事を口にする…
K「お前ぇ…手の混んだドッキリ仕込みやがって…クソヤロ…」
なんの事だかサッパリで、「何が?」と尋ねると…
K「その人形だよ!そんなもんリュックに入れてやがって…俺を脅かそうとワザとやりやがったな!」
と“ソレ”に灯りを照らした。
そこには、入口で見たあの人形が転がっていた…
しかも、入口で見た時の表情とは明らかに違う部分がある…
閉じていた口がパックリと開いているのだ…
いや正確には、まるで何かタバコのような物で口元を焼いて穴をあけたみたいになっていた…
その上、人形の腹部にナイフが突き立てられていた。
僕「し、知らないよ!僕じゃないよ!こ、こんな物…リュックに入れるわけないだろ!」
K「じゃなんでリュックからそんなもんが落ちるんだよ!」
僕「だから!分からないよ!」
………軽い口論になったが、僕らは兎に角ここに居るのはヤバイと、外に出る事にした…
Kが僕からデジタルカメラを取り上げると「一応…」とか言いながら人形を撮影し、そそくさと給湯室を出た…
二人とも無口で、軽く早歩きのような感じで出口に向かう…この時後ろから何か聞こえたような気がしたが、足を止めようとは思わなかった…恐怖で自分でも自分の顔が引きつっているのがわかった…
出口が見えるとなんだかホッとして早歩きだった足も二人とも少しスピードが緩む。
K「あ、あれ?!」
Kが久々に声を出したかのような裏返った声をあげる…
不思議に思い「何?」と声を掛けると…
K「ココだよな、さっき入った場所って…」
と聞いて来た…
扉に懐中電灯の灯りを照らす…
間違いなく我々が入った入口はココだが…何か様子がおかしい…
…ガラスが割れていないのだ…
確かに入った時はガラスは割れていて、だからこそ入る事ができたのだ…が、そこに見えるガラスは割れていない…
僕「ど、どうなってんの?」
K「お、俺に聞くなよ…知らねえよ…」
僕「どうなってんだ?」
K「もしかしたら、入口が似てるだけで別の場所かもしれねぇな?」
僕「いや、見てよ…ほら、あそこに僕らのスクーターがあるよ…」
K「あっ…ほんとだ…って…どうなってんだよ!!これ!?」
僕「知らないよ!こんなとこに連れてくるからこんな事になったんだよ!何とかしてよ!?」
K「……う…」
パニックだった。何が起こってるのか…ただならぬことが起こっていることは確かだが、どう対応したら良いのか全く分からず、僕はただ立ち尽くすことしかできなかった…
K「割ろう…な?構やしねぇ…割っちまおう!」
その時だった、僕は懐中電灯の灯りをまだガラスに当てていて、ガラスには僕らの姿も薄っすらだが写っている…
だが写り込んでいるのは僕らだけでは無く不思議なものも写っている…
Kの真横に白い何かが写り込んでいるのだ…勿論、横に目をやったがそこには誰も居ない…
徐々に形がわかるようになってきた…女の子?
背は130センチちょっと、髪をおさげに縛り、ぼぅっと此方を見ている…手にはあの人形を持っている…
恐怖のあまり身体が動かない…いや、金縛りのような感覚…
Kは気づいて居ないのか辺りを何か棒のような物はないか探している…
K「アベ!お前も探せよぅ!」
ガラスから目が離せない…
その女の子は徐々にKの方へ近づいて行く…
Kがガラスに背中を向けたその時、女の子は彼の背中に覆い被さるように背中に乗り、溶けるように彼の身体に吸い込まれていった…
Kの様子が変わったのはこの時からだ。
ガラスを割るための棒探しを辞め、急に立ち尽くすと、僕の方に向き直りこんな事を話し始めた…
K「お父さんがね…リナを殺そうとするから…あたしはね…怖いから逃げるの…お湯沸かす部屋に逃げたのにね、お父さんはまだリナを追いかけてくるの…死にたく無いよぅ!って言ったのに聞いてくれなくてね…リナの首をうんと強く締めてね…し…め…て…ね……」
僕の身体は以前、動かせず目を閉じる事もできず、震えている事しか出来ずにいると…
Kが僕の顔を覗き込み…
K「ビックリした?お返しだよ…さっきの…」
だって…ドッキリ?
僕「なっ…ちょっと冗談キツイよ!!マジふざけんな!」
と、安心し脱力しながら言うと…
「リナのお人形盗ったお返し…」
……
一瞬で背筋が凍りつく。
Kの顔がニヤぁと不気味な笑みに変わる…目から赤い涙が零れ、ケタケタケタケタケタケタっと嗤う
僕「GIYAAAAAAA!!!!」
この時はもう我を失っていた…無我夢中でガラスをタックルで割り外に出た…乗ってきたスクーターにまたがり兎に角この場から遠く離れたかった…何故かKの乗ってきたスクーターが無かったがそんな事はどうでもよかった…
しばらく道を走らせていると次第に我を取り戻し…スクーターのスピードを緩める…
すると、携帯が鳴る。途中のコンビニに立ちより携帯を開く。
Aからだ…
『ピッ』
A「おーい、アベくん、大丈夫?あたしさぁ、風邪だいぶ良くなったから…これからそっち行くね!」
僕「いや、こない方が……」
A「だって一人でしょ?」
僕「一人なわけないじゃん!!二人で行ったよ…」
A「あれ?Eも行ったの?里帰りとか言ってなかったっけ?」
僕「は?違うよ…Kと一緒に…」
この後、Aの口から信じられない言葉が発せられる…
…………
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『誰それ?』
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