皆様も毎日必ず利用する場所がお有りかと存じます。
厠(はばかり)つまり、おトイレの事でございます。
あそこにはこれまでも数多の逸話や恐ろしい話が語られて参りましたが、わたくしも一つ語らせて頂きましょうか。
ある、一人の老人が重い身体をやっとこさ引きずりながら、厠に参りました。
日頃からあまり身体を動かさない為か厠に行くのも一苦労で何時も行きたくなる前に厠に参りましたが、その日ばかりはそうはいきませんでした。
朝からの腹痛でどうにも堪らなく、急いで居りましたが、どうにも身体がゆう事をきかない。
とうとう間に合わず、廊下の途中で…
お食事中の方申し訳有りません。
「はあ、なんたる事か」と肩を落とし、仕方なく履物を脱ぎ着替えて居りました。
すると、厠の方から何やら奇妙な音が聞こえて参りましたので、老人は「はて?何だろな?」と廊下に出て厠に向かいました。
(ぶぶぶぶ…)
音は確かに厠の中から聞こえて居ります。
意を決しまして、扉に手を掛けワァッ!と開けると…
…⁉
何やら見た事も無い生き物が苦しそうにうずくまっていました。
「ひゃあ!な、何だこりゃぁ」
老人は腰を抜かしその場にヘタレ込んでしまったそうな。
その生き物というのは、
身体がぬめりと濡れており裸んぼ、バサバサに乱れた髪の毛、頭のてっぺんには毛が生えておらずその禿げの中心はペコんと凹みが出来ている…しかし体は小さく子供の様だったそうな…
その子供は妙な鳴き声で泣き続けて居りました。
「たまげたな…坊や、何処から入ぇったべかな?おらぁ、ここにずっとさ、おったべが全く気がつかんかったべなぁ…ほれ、泣いておっては分からんべえ、この爺に話してみりゃぁ…」
「ぶぶぶ…オリぁ…便所ん中から入ぇって来た…」
「便所ん中?そりゃたまげたなぁ…身体が汚れていんべえじゃろうて、爺が井戸ん水さで洗ってやるから、こっちさ来なされて…
腹も減ってんべえじゃろう?握り飯ぃこさえてやんべえかな?ん?ほれ…何しとる、来なせえて…」
その子供はいぜん、奇妙な泣き声を出しながら、しかし、老人の後について参りました。
井戸から綺麗な水を汲み上げました。
が、老人のする事、中々持ち上がらず居りました。
すると、その子供が…
「爺、オラ自分で出来るで、気にせんでくんろ…」
と、ヒョイっと片手で桶を持ち身体に水をかけて汚れを落としました。
「ひゃあ…たまげた子だんべぇ、力持ちなんだなぁ…その桶ぇ、大人でも両手使わねば持ち上がらね位だに、軽々と持ち上げるとは…」
と、その子供の身体を布巾で丁寧に拭いてやりました。
「不思議な身体つきしてるだなぁ…お前ぇこぉんな細い腕で何処からそげなチカラぁ出んだ?」
「オラ、河童だ…人間とは身体の創りがちげぇ…」
…??!
その地域では河童は怖ろしいモノとして語られて居りましたので、その老人は、その言葉を聞くと驚いて気を失ってしまいました。
………。
しばらくして、目を覚ますと部屋にしっかり布団が敷かれ、その布団に老人は寝かされて居りました。
「なんだべ…怖ろしい夢を見たんべぇなぁ…河童にもう少しで喰われてしまうとこだったからのう…」
と、ヒョイっと部屋から縁側、庭先に目をやりますと…井戸から部屋にかけて、濡れた足で歩いた様な足跡が残って居りました。
ゾクっと背筋が凍りつき、足跡の行方を目で追ってみると……
…!!!?
部屋の角の少し暗い場所に何やらしゃがみこんでおります。
老人の目ではうまく見えませんでしたが、それは紛れもなく先ほど見たあの河童でした。
「ぎぃやぁ!か、か、か、河童!おっおっおみゃあオラをどうするつもりだべ!」
「どうもしね…」
「ほだら、何でこの家さ来たんだ!?」
「まちげえたんだよ…オラぁ…爺様のウチ来るつもりじゃなかった…」
「なら何処さ家行ってイタズラするつもりだっただなぁ?この化け物め!」
「オラぁイタズラなんてしね…よ。」
「ほだら、なにしに人様の家来るんだ?」
「オラ…オラ、吉兵衛って悪さばかり働いてる男のウチ行くつもりだったんだ!あいつに罰を与えねばならねえって山の神様に頼まれて…」
「吉兵衛?」
「んだ…爺様、その男知らんか?」
「そりゃ…オ…オラの名だ…」
「え?そんなわけねぇべ!爺様ぁ親切なお人だ!吉兵衛のわけねえよ!」
と河童は疑いましたが、その老人は紛れもなく村の人々を何人も手にかけた悪党、吉兵衛その人だったのです。
河童は、山の神様から吉兵衛を見つけ出して命をとって来いと言われ何年、いや、何十年も吉兵衛を探しておりました。
そしてある日、村はずれにある小さなウチに吉兵衛が住んでいると耳にしてやって来たのですが…
初めは、騙すつもりで泣いたふりをして、近寄って来た所を襲うつもりでした。が…
その老人は優しい声をかけて来て、しかも井戸の水で身体を洗ってやろうとまで申し出て来たのです。
こんな優しい声をかける男がその悪党、吉兵衛のわけがないとその時河童は思いました。
しかし、その老人は吉兵衛なのです…山の神様の言いつけは絶対ですから、たとえ親切にしてもらったからといって見過ごすわけにはいきませんでしたので、仕方なく河童は吉兵衛の心の臓を取る事にしました。
「爺様ぁすまねぇ…オラぁお前ぇ様を殺さねばならねんだ…親切にしてもらっただに、申し訳ねすが…」
「そうか…そろそろ迎えが来る頃だと思ってたとこだが、ハハ…まさか河童がくるとは夢にも思わなんだべなぁ…分かった。さぁ…河童どん、遠慮しねえで人思いに殺ってくんりゃ…」
コクリと頷きましたが、、、
出来ませんでした。
どうしても吉兵衛を殺す事が出来なかったのです。
そして「うわぁああ」と走りだし河童は庭の井戸に飛び込んでしまいました。
それから、その井戸は河童井戸と呼ばれる様になりました。
作者退会会員
何だこりゃ。すいません駄作です。