短編2
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自殺の代償

母の体験談を紹介したいと思う。

私の母は幼い頃から、いわゆる金縛りにしょっちゅう遭遇していた。

ある晩は、寝ている体を霊に押さえつけられたり(肩を押さえつける指の感触がはっきりと分かったそう)、ある晩は、死んだ飼い猫がニャーニャーと耳元で鳴いたり・・・。

金縛りの体験は色々あるが、これは母が私に教えてくれた中でも1番印象深い話だ。

母が就職したての頃、親戚のおじさんが自殺をした。

お葬式から数日経ち、母はふと考えた。

(自殺をしたおじさんは、この世の中の様々な苦しみから解放されたんだ。

私も自殺を選んだら楽になれるのかもなぁ・・・)

ちょうど母は仕事のことで悩んでいた時期だったらしい。

もちろん真剣に自殺をしたいと思ったわけではなく、ふと頭をよぎった程度だった。

そんな考えを巡らせながら布団に入った夜、金縛りにあった。

金縛りになる直前、母にはいつも同じ音が聞こえるという。

それは水が流れる音だ。

ザーザーと勢いよく流れる音ではなく、チョロチョロと少しの水が流れる音らしい。

母曰く、水はどこの世界にも繋がっているから、だそう。

浅い眠りの中、チョロチョロ流れる水の音が聞こえ、水道を閉め忘れたかな?と思った瞬間、体がピクリとも動かなくなった。

部屋は暗く、目が閉じているか開いているかもわからない。

頭の方にすぐ壁があるのだが、なぜかその壁の存在が感じられない。

不思議だが壁があるはずの向こう側に、空間が広がっているのだ。

そこはとてつもなく暗く、寒く、空間が無限に広がっているように感じた。

冷たい空気がそこから流れてくるのを感じた。

暗く冷たい空間の奥の方からかすかに男の声が聞こえる。

その声は徐々に近づいてくる。

「◯ちゃん、◯ちゃん・・・」

声が部屋と空間の境目、本来壁がある場所まで近づいて来たとき、声の主が自殺をしたおじさんだと気づいた。

声は静かに語り出した。

「◯ちゃん・・・

ここは暗くて寒い・・・

ひとりぼっちだよ・・・

なーんにもない・・・

暗くて寒い・・・

とても寒い・・・

真っ暗で何もない・・・

ずっとずっとひとりぼっちだよ・・・」

おじさんの声はとっても悲しげだった。

気がついたら朝だった。

いつの間にか寝てしまったのだろう。

おじさんは母に教えてくれたのだ。

自殺をするとどうなるか。

自殺をしたら魂はどこに行くのか。

誰かが自殺をしたと耳にすると、この話を思い出す。

そして思う。

その人も、おじさんと同じ場所に行ったのではないかと。

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やっぱり死ぬことは良くないですね。

とても怖い話ありがとうございます

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