母の体験談を紹介したいと思う。
私の母は幼い頃から、いわゆる金縛りにしょっちゅう遭遇していた。
ある晩は、寝ている体を霊に押さえつけられたり(肩を押さえつける指の感触がはっきりと分かったそう)、ある晩は、死んだ飼い猫がニャーニャーと耳元で鳴いたり・・・。
金縛りの体験は色々あるが、これは母が私に教えてくれた中でも1番印象深い話だ。
母が就職したての頃、親戚のおじさんが自殺をした。
お葬式から数日経ち、母はふと考えた。
(自殺をしたおじさんは、この世の中の様々な苦しみから解放されたんだ。
私も自殺を選んだら楽になれるのかもなぁ・・・)
ちょうど母は仕事のことで悩んでいた時期だったらしい。
もちろん真剣に自殺をしたいと思ったわけではなく、ふと頭をよぎった程度だった。
そんな考えを巡らせながら布団に入った夜、金縛りにあった。
金縛りになる直前、母にはいつも同じ音が聞こえるという。
それは水が流れる音だ。
ザーザーと勢いよく流れる音ではなく、チョロチョロと少しの水が流れる音らしい。
母曰く、水はどこの世界にも繋がっているから、だそう。
浅い眠りの中、チョロチョロ流れる水の音が聞こえ、水道を閉め忘れたかな?と思った瞬間、体がピクリとも動かなくなった。
部屋は暗く、目が閉じているか開いているかもわからない。
頭の方にすぐ壁があるのだが、なぜかその壁の存在が感じられない。
不思議だが壁があるはずの向こう側に、空間が広がっているのだ。
そこはとてつもなく暗く、寒く、空間が無限に広がっているように感じた。
冷たい空気がそこから流れてくるのを感じた。
暗く冷たい空間の奥の方からかすかに男の声が聞こえる。
その声は徐々に近づいてくる。
「◯ちゃん、◯ちゃん・・・」
声が部屋と空間の境目、本来壁がある場所まで近づいて来たとき、声の主が自殺をしたおじさんだと気づいた。
声は静かに語り出した。
「◯ちゃん・・・
ここは暗くて寒い・・・
ひとりぼっちだよ・・・
なーんにもない・・・
暗くて寒い・・・
とても寒い・・・
真っ暗で何もない・・・
ずっとずっとひとりぼっちだよ・・・」
おじさんの声はとっても悲しげだった。
気がついたら朝だった。
いつの間にか寝てしまったのだろう。
おじさんは母に教えてくれたのだ。
自殺をするとどうなるか。
自殺をしたら魂はどこに行くのか。
誰かが自殺をしたと耳にすると、この話を思い出す。
そして思う。
その人も、おじさんと同じ場所に行ったのではないかと。
作者こんこんたん
母の金縛りの体験は、もっと恐怖を感じるものもありますが、それよりも印象深い話でした。