「こんな会社辞めますわ!!!」
自分に自信がある訳ではない。
いつまでもバブル期を引きずった非常識で理不尽なダメ経営者と、その取り巻きにウンザリだった。
突然無職になった私に嫁は「近々こうなると思ってた」と動じる様子も無く言った。
私と一緒に暮らす内に特殊な能力でも身に着けたのかと思ったが・・・
ここの所、元気も無くため息ばかりついているので仕事だけが取り柄の私にしては様子がおかしいと思っていたらしい。
私を責めることもせず気丈に振舞う嫁を見ていると「早く何とかしなきゃ」と思うのだが年齢も年齢・・・・
そうそう次の職も見つからずにいた。
長男が高校進学を控え、それと同時に次男も中学入学を控えていた為、それなりのサラリー条件を満たしてくれる職は中々無く私は一大決心をした。
派遣で本州に飛ぼう!
一般的にはそれ程でもないのかもしれないが営業職しかしたことの無い私にとっては一大決心だった。
今でこそ派遣業界もさほど稼げなくなったが、その当時は私の様な人間が合法的にまとまった収入を得ることの出来る唯一の方法であった。
その後、私は5年程、東海地区で自動車作りに従事することになるのだが・・・
過去作品「玄関に塩」にて簡単に触れているのでココでは割愛する。
派遣の仕事も毎日の長時間勤務と重労働に馴れてしまうと意外に時間を持て余してしまうもので暇さえあればネットカフェ通いをしていた。
忙しい毎日で忘れかけていた自分の時間も十分に作れるようになり1ヶ月もしない内に簡易的な独身生活を満喫出来る自分の順応性に驚く。
「近くに廃墟って無いのかな?」
漠然とPCで検索している内、滋賀に拠点を置く「某廃墟サイト」と出会うことになる。
念の為、断っておくが「出会い系」ではない!
由緒正しき「廃墟系サイト」だ!
前作「友人宅にて・・・②」を読んで頂いた方はご存知だと思うが私は自他共に認める「廃墟マニア」なのである。
退屈な東海生活に刺激を与えてくれた一人が、このサイトの主でもある「水津氏」である。
後で知ったのだが廃墟界では結構有名な方だった。
何度かサイトへ書き込みをする内に水津氏と親しくなりオフ会の誘いを受けた。
「来週の土曜日、岐阜にてオフやります!来ませんか?!」嬉しかった。
レオパレスと工場の往復、その途中にあるサークルKとネットカフェ位しか出歩かなかった私にとっては30分程の電車移動もチョットした旅行気分でウキウキだ。
更にJRしか知らない北海道民が名鉄に乗り継がなければならない難易度の高さは心地よい緊張の連続であったことを付け加えておく。
無事合流出来るか不安であったが予定通りに合流し水津氏の車に乗り込んだ。
他にも2台の車があり単独行動派の私にとっては総勢8人とチョット多目の廃墟探索になったのだが「廃ボウリング場」と「廃喫茶店」を巡り3時間程で現地解散となった。
時刻は23時を廻っていたが送ってくれるというので甘えることにして水津氏の車で我がレオパレスに向かった。
車を走らせてすぐに水津氏が口を開く
「Andy兄さんは霊感あるんでしたよね?!」
「はい、何かありました?」
「私は見える程度なんですけどAndy兄さんは?」
どこまで言えば良いものかしばし考えたが
「見たり聞いたり話したり・・・チョットした御祓い位なら出来ますが・・・先ほどのボウリング場にもオジサン居ましたよね」
「完璧ですね」
何が完璧なのかは判らないのだが・・・
「実はこれから付き合ってもらいたい場所があるんですがイイですか?」
「明日も休みですし構いませんと言うか是非連れてって下さい」
「廃墟では無く合戦跡なんですが・・・」
「合戦跡ってことは心霊スポットですか?」
「そうなんです!他の奴らは霊感無くって危ないんでAndy兄さんと行こうと思って!」
「行きましょう!」
俄然テンションが上がった!!
言っておくが私は「廃墟マニア」である。
「心霊マニア」では無い。
地元、近県の方はすぐに「ピン!」と来るだろう。
高速下でゴルフ場のある所だ。
時刻は午前0時・・・
現地到着・・・
うっすら霧が立ち込めていた。
気温も湿気も高く霊との遭遇指数は私的に95%だ!
昼間なら古戦場跡として観光客も立ち寄るのであろう、かなり整備された場所だった。
いや・・・
もしかしたらゴルフ場の敷地内に入っていたのかもしれない。
真っ暗闇の中、かろうじて届く月明かりと水津氏のマグライト、時折高速を通り過ぎる車のライトだけが頼りであった。
山側に数百m歩いた辺りで徐々に嫌な感じがしてきた。
重苦しい空気と何百何千もの目に見られている。
更には殺気に満ちた威圧感・・・
「水津さん・・・チョットまずいですね・・・」
「そうですか?暗いだけでまだ何も見えませんよ」
「・・・いえ・・・まずいです・・・戻りましょう」
「もう少し行くとキャンプ場跡があるんで・・・・・ん?」
「ほら!来ますよ!」
遠くの方から「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ~~」という雄叫びが徐々に近付いてくる!
そして見えた!!
真っ暗闇だった筈なのに、あまりにも鮮明に!
土煙を上げながら何百・・・いや何千もの群衆!
手には刀や槍を持っていた。
鎧姿をイメージしていたが大半の者は鎧など着けず品粗な着物姿であった。
初めて見る本州の霊!
北海道にはいない本物の戦国時代の霊から目が離せないでいた。
水津氏は?急に気になった。
見れば歯をガチガチと震わせ目をまん丸に見開いている。
「大丈夫ですよ!目を閉じてやり過ごして下さい!フェイクです!」
声を掛けたのだが・・・
水津氏は回れ右をして一目散に走り出してしまった。
「やれやれ・・・」
逃げ道などどこにも無い
ココでは逃げるだけ無駄なのだ。
既に彼らの世界に足を踏み入れてしまったのだから・・・
もう追いかけても間に合わない
私は自分にだけ結界を張りひたすら念を唱えた。
遠くでは水津氏が斬られ刺され苦しげな悲鳴を上げている。
何度と無く・・・何度と無く・・・
時間にして多分5分位の出来事であった。
辺りに静けさが戻り高速を行き交う車の走行音が遠くの方から聞こえた。
辺りはまた真っ暗闇・・・
遠くに水津氏のマグライトの光が落ちている。
私はその光だけを頼りに歩き出した。
マグライトの傍らに水津氏がうつ伏せに倒れていた。
「頼むから生きていてくれよ・・・」
私は心から願う。
これはフェイクだ
フェイクだが手順を間違えば憑かれてしまう
憑かれると追いかけてくる
斬られる
刺される
そして・・・
大量の出血、痛みが全身に走るのだ
その痛みも出血も幻であるのだが憑かれた本人には正に現実そのもの
我々は生身の人間・・・
時としてその痛みに耐え切れず死んでしまうこともある。
能力者内での見解は「ショック死」なのだが・・・
霊感の無い者から見れば目の前で突然暴れながら苦しむ姿を見て「呪い殺された」と思うのだろう。
幸い水津氏には息があった。
暫くすれば目を覚ますだろう。
私は過去の猛者達への鎮魂の意味も込めてタバコに火を点けた。
程なくして・・・
「タバコもらえますか?」
どうやら目覚めた様だ。
「痛かったでしょう」
「はい、めちゃくちゃ痛くて死ぬかと思いました・・・出血もかなりあったし」
「今度からは私の言うことを聞いて下さいね」
「そうします・・・」
「そんじゃ帰りますかぁ~」
「ハイ」
「とりあえず・・・車に着くまでに祓いますから無言で車まで歩いてください!決して走らないで!二体憑いてます!」
これが初めて水津氏と会った日の出来事だった。
今でも彼とは交流があり毎年一度は北海道においでになり廃墟や廃工場、戦争遺産などを案内する。
今年も先月末にいらしたのだが・・・
子供が一体憑いていた。
どこに行ってきたのやら・・・
「帰るまでに祓っておきますよ!」とは言ったものの今回のは、ねちっこくて祓いきれなかった。
来年また元気な姿を見せた時、続きを行おうと思う。
私は「廃墟マニア」
「心霊マニア」では無い。
作者andy兄
以前よりお約束しておりました東海シリーズ第1弾です。
前作の解説にも書きましたが新着のコメント欄から評価コメントが落ちてしまい読者様や各投稿者様の不利益になるという考えからコメント返しは致しません。
本来であれば個人にだけコメント出来る機能があればイイのですけど・・・
勿論コメントを頂けましたらありがたく読ませていただき今後の活動への励みにしてまいります。
尚、質問等には出来る限りお答えします。