霊はでませんし、無駄に長いし、人に言わせたら怖くないと思いますけど、
怖い話をひとつ。
※東北の秋田県に出張した時の話です。
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僕はちょっとだけ高い山の上にいた。
趣味の登山、ならいいのだろうけど、生憎仕事として来ている。
仕事の内容は測量業務。
三角点と呼ばれる石柱にトランシット(光波測距儀)を据え、はるか向こうに見えるターゲット(基準点)に角度をあわせ、距離を計測する事でxyzの座標を求める、そんな仕事をしていた。
光を飛ばし、ターゲットに当てて反射する時間で距離を計測する。
オリンピックでも走り幅跳び等で計測に使われているため、ご存知の方もいるだろう。
ミリ単位で計測することが出来る。
街の中でもよく見かける方はいるのではないだろうか。
あれはノゾキではない。
まして有害な電波など出ていない。
避けないでもらいたい。
いや避けてもらったほうが計測も早く済むのだが。
二度計測したところで、ターゲットの横にいた同僚の姿が消えている事に気づいた。
ここから1.5キロ弱離れているが、望遠レンズなのでいるかどうかは判断できる。
今日は少し暑いから車に入って休んでいるのかな?
計測が終了し、電子野帳(デジタルで計測結果がインプットされる)を確認する。
ちゃんと入力され、ミスがない事を確認した僕は、同僚にトランシーバで観測終了を告げた。
返信がない。
「もしもし。もしもーーーーーーーーし。おーーーーい。 ドウゾ ガッ」
何度話しかけても無線は届いていないらしい。
相手からの返信がない事はよくある。
恥ずかしい話、電池ぎれか距離がありすぎて届かないか、なんていうくだらない理由だ。
多分向こうの電池が切れている。
相手の姿は相変わらず見えないが、車はターゲット近くに停まっている。
とりあえず山を降りて同僚のいる方向へ歩いていけば、1.5キロくらいなら歩けるだろうし、なんだったら「あまりに遅い!」という事で迎えに来るだろう。
そんな風に気楽に考えてトランシットをしまい、三脚を束ねて担ぎ山を降りた。
これが失敗だった。
失敗だったというよりまさかこんな事になるとは・・・。
人生には3つの坂があるという。
僕はここで2つの「坂」を使っている
1、下り坂
2、まさか
いや、実にこまった。
下っていく途中、見覚えのない景色が続いた。
でも登るときと下るときでは景色は違うもの。
そんな風に考えるお気楽な性格だから、構わずズンズンズンズン下りていく。
ふと。
目の前に何かいる事に気づいて足を止めた。
本能がやばい!と言っている。
とりあえず足を止めろ、と。
ゆっくり足を止め、トランシットを背中から降ろし、三脚を地面に置いた。
なぜかそうした。
おそらく、何かあったら荷物を軽くして逃げろという僕の危機管理能力の業ではないだろうか。
だったら道に迷わない能力が欲しかった。
目の前の何か、が何であるか解らない。
なんとなく向こうを見ている気がする。
こちらに背を向けている気がしたので、少し近づいてみる。
日が落ちかけてきている。
森の中は既に薄暗い。
ガサッ
「ソレ」が動いた。
ボクに気づいたというよりは、ただ、動きたくて動いたように見える。
「ソレ」は熊だった。
立派なツキノワグマである。
正直いって驚いた。
驚くあまりに足元にあった拳大の石を拾い、それを躊躇うことなく振りかぶって投げつけた。
ツキノワグマの足あたりをかすめて、石は森の中へ消えていく。
クマはかなりびびったようで、ボクに背を向けたまま石の飛んでいった方向へ、それこそ飛ぶようにして逃げた。
ここでひとつ問題が生じた。
歩けるような道が伸びているその先は、そのクマが走り去っていった方向・・・
これは勝利なのか、敗北なのか。
大いに悩んだが、悩んでも仕方ないと自分に言い聞かせ、機材を再び担いで歩き出した。
しかし、「俺、迷子になってるよなぁ・・」という状況で、歩いていく先にはたぶんさっきのクマがいる事を考え出すと、精神的におかしくなる。
「ホォーーー」
「ヒョォーーーー」
と、裏声で叫びながら歩いていく。
腰には雑木を捌くためのナタを下げているので、それを手にしながら歩く。
再びクマと遭遇したらこのナタで殴りかかってやろう、
やられたらやり返す、倍返しだ!などと考えていたが、正直勝てる気はしていない。
※ごめん、この時まだドラマやってない
それよりもトランシットが重すぎる。
かなり精密機械な上、結構な値段なので邪険にも扱えない。
いろんな意味で背中が重い。
なんて日だ!
と、ぶつぶつ言いながら歩いていくと、何かがなっている。
携帯だ。
ボクの携帯がなっている!
そう、そうだ!携帯電話があるんじゃん!
なんて日だ!
相手は同僚。
「あまりに遅いから迎えにきた。で、今どこ?」と言ってきた。
いやいやいやいやいや、その前にトランシーバで声かけたのに応答しなかったでしょ?ていうかどこいたのよ?ターゲット板のところにいなかったでしょ?
と言うと、
「あー、寝てた」
と言う。
悪びれもなく。
寝てた、と。
ま、まぁいいや・・・これで帰れる・・・かもしれない。
そう僕は見知らぬ地で、見知らぬ森で迷子だ。
「いやー、実は迷子ちゃって。クマも出て。ここどこかわからないのよね。」
すると同僚が、
「え?アイフォンの地図みりゃいいんじゃね?」
と言う。
なんて日だ!
そう、GPSがついている!自分の位置が大体わかる!三角点と基準点の位置もだいたいわかるから、本来の道もなんとなくわかる!
その後、森の中でクマさんに出会うこともなかったので、一緒に歌うことも踊ることもなく、同僚と再会する事が出来た。
しかし、感動はない。
疲労感が半端なく、ただただ眠りたかった。
宿泊している宿へ向かう帰りの車中、僕は寝言をいったそうだ。
同僚に言われた一言が怖かった。
「●●って誰よ。女の子の名前。××ちゃん(嫁)と違う名前。」
娘の名だといっておいた。
しかし子供はまだいない。
作者来道
寝言は寝て言えとかいいますけど、
寝てから言ったんではマズイ事もあるんです。