会社に入社して1年目の時の話です。
会社から実家が遠く、残業で遅くなる時は決まって日が変わっていた。
そんな日が半年も続いて、一人暮らしする事にした。
正直言ってうちの会社って、給料が良い方ではない。
手取り金なんて、雀の涙だ。
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そこで、住む所は出来るだけ安い所にしようと、俺は家賃3万円の安アパートに決めた。
築何年経ってるか分からないけど、見るからにボロボロだった。
幽霊とか信じていない俺は、どうせ帰って寝るだけだし良いよねって感じ。
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しかし、
五日後には引っ越すことになった。
何があったかは、今から順を追って説明する。
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ー1日目
引越し当日。
昼過ぎから始めた部屋の片付けは、意外にも時間がかかり、すっかり外は暗くなっていた。
次の日は会社だったので、今日は片付けもそこそこに早めに寝ることにした。
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ーーチチチチチチッ
静寂の中に人知れず時を刻み続ける、目覚まし時計の音だけが鳴り響く。
やはり初めての一人暮らしはどうも落ち着かない。
一人の夜は今までとは違い、やはり心細いものだ。
乾いた喉を潤すため台所に向かい、1つだけになってしまったコップを手に取ると本当に一人なんだなと実感する。
蛇口をひねり、水道水を注いでいると
sound:33
ガサガサッ
何やらビニール袋を擦りあわせた様な不可解な音が聞こえてきた。
(なんの音やろ、、、?)
気にはなったが、コップ一杯の水を飲み干し、そのまま布団に戻った。
sound:33
ガサガサッ
「なんやねん。うっさいなぁ、、、」
心細さが後押しして、怖いことしか思い浮かばない。
だから、考えるのを止めて、誰かがゴミでも捨てに行ってるのだろうと思い込ませて寝ることにした。
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ー2日目
今日は残業で遅くなったので、外食をして帰ることにした。
そして、アパートの前に着いたのが、10時頃。
これだけボロいアパートは夜になると、一層不気味さが増す。
正直言ってお化け屋敷のように気味が悪い。
ふと自転車置き場の前へ目を向けた。
ゾゾゾッと背筋に悪寒が走った。
そこには、ポツンと1人お婆さんが立っている。
(気持ちわりぃ婆ァやな。ここの住民か?勘弁してよ)
腰の辺りまで伸びた白髪は清潔感は無くボサボサ。
瞳からは生気すら感じられない。
爪は伸びっぱなしで異様に長いのが印象的だった。
俺は軽く会釈して、そそくさと自分の部屋に入った。
早くも、ここに住んだ事を少し後悔し始めた。
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sound:33
ガサガサッ
今日もビニール袋を擦る様な音がした。
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ー3日目
今日も残業で遅くなったので、アパート前に着いたのは10時半頃だった。
また、昨日のお婆さんが自転車置き場の前にいた。
(毎日、毎日何してんねんこの婆ァ!気持ち悪いねん!!)
次の瞬間、お婆さんはコチラを向いて笑った、、、
ような気がした。
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sound:33
ガサガサッ
やはり、今日も音が聞こえてくる。
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ー4日目
寝坊してしまった俺は、慌てて家を出た。
玄関の鍵は閉めたが、窓の鍵は開けっ放しになっていた。慌ててたのもあるが、足場のない窓からの侵入は不可能だったので、閉めに戻ることを諦めた。
寝坊した理由というのは、夜な夜な聞こえてくるビニール袋の音で余り熟睡出来ていなかったからだ。
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ようやく、仕事が終わったのは夜の11時。
アパートの前に着いたのは、11時半頃だった。
またもや、お婆さんは1人ポツンと立っている。
(いつも1時間以上ここで何をしてるんや?)
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さすがに毎日、毎日、何をするわけでもなく、ただただ佇む姿が段々と怖く感じてきた。
一度怖く感じると、なかなか近づくことが出来ない。
誰か他の住民が帰って来てくれさえすれば、一緒にアパートへ行けるのに。
そんなことを考えながら、時間だけが過ぎる。
時計の針はちょうど、12時を指していた。
いつもならこれぐらいの時間にあのガサガサという音が聞こえてくる。
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次の瞬間、お婆さんに異変が起きた。
あまりに奇妙な動きに全身から鳥肌がたった。
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なんと、頭だけくるりと180度回転させてコチラを向いているのだ。
「ひゃっ!ぁひゅぅ!」
俺は声にならない声を上げた。
恐怖のあまり、硬直した俺は目を離す事が出来ない。
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すると、化け物と化したお婆さんは、その場に手をつき、唸り声を上げ出した。
「ギャギャ!!ギョゥガカッ!!」
お婆さんは俺を睨みつけ、唸る。
「マジかよ、、、」
空に向かって腰を突き立てて、ちょうど四つん這いの格好になり、更に唸った。
「グゥウゥゥガカッ!!アァァアァ!!」
もう必死だった。
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動け!
動け!!
動けぇぇ!!
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動こうとするが足がすくんでしまい、どうしても動く事が出来ない。
お婆さんは、長い白髪を地面に垂らしながら、段々とコチラに近づいてくる。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!
頭の中で連呼した。
長い爪がアスファルトを擦り、奇妙な音を立てながら、もう目と鼻の先まで近づいてきた。
たのむ!!
動け!
動いてくれ!!
shake
動けえぇぇぇぇぇぇ!!!!
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俺は、やっとの思いで体を動かす事が出来た。
そして、その場から走って逃げ出した。
「やべぇよ!!あの婆ァ!!」
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しばらく逃げて後ろを振り返ると、追ってきていない。
すると、あれは何かの見間違いじゃないかと思えてきた俺は、お婆さんの様子が気になった。
近くまで戻ってきた俺は、物陰からお婆さんの様子を覗く事にした。
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そこには、誰も居なかった。
(やっぱり、気の、、、)
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ガサガサッ
自分の耳を疑った。
なぜなら、自分の部屋の方から音が聞こえてくるからだ。
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なんと、俺の部屋に向かって四つん這いの婆さんがゴキブリのように、物凄いスピードで壁を登っているのだ。
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ガサガサッ
この音だったのか、、、
長い爪がコンクリートと擦れ合う音だったのだ。
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お婆さんは、俺の部屋の窓をガタガタと開け始めた。
そして、ある事を思い出した。
今日の朝は慌てていたので、鍵を締め忘れている事を。
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そして、
それは、中へ入っていった、、、
もう泣きそうになった。
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部屋には戻れないので、先輩に泊めてもらおうと、泣きながら電話をした。
先輩も只事ではないと感じたのか、直ぐに了解してくれた。
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ー五日目
会社を休み、先輩と一緒に部屋を見に行く事になったが特に変わった所もなく、結局先輩には信じてもらえなかった。
そして、先輩は昼勤なのでその足で会社に行ってしまった。
俺は今日中に引越したかったので、不動産屋に無理を言って、直ぐに次の部屋を用意してもらった。
勿論、安アパート以外で。
1人で部屋を片付けるのも怖かったので、引越し業者と一緒に片付ける事にした。
部屋が空っぽになり、部屋を見渡していると、何かが床に落ちているのに気づいた。
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ーーそれは、
異様に長い爪だった。
作者ザキ男
皆さんからのお褒めの言葉、ご指摘の言葉、全てが私にとっての原動力になりす。
今後とも、拙い私の話を宜しくお願い致しますm(_ _)m