私が大学生で不登校になったときの話です。
高校時代の友人が集まって私の不登校を解消するという名目でパジャマパーティしようと言うことになりました。
一人暮らしの友人Aちゃんの家に私、Kちゃん、Mちゃんの四人が集まりお菓子やゲームを持ち寄りました。
20歳をこえていたのでお酒をあけたり懐かしいあの頃に戻ったような楽しい一夜になるはずでした。
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夜も更け誰かのふざけた話からネットや携帯にまつわる怖い話大会になりました。
チェーンメールや怖い非通知着信、検索してはいけない単語や画像。
今回の企画者Aちゃんが「お兄ちゃんとすんでる人おる?」とみんなに確認してきました。
静まり返る室内。
「そうやんな、じゃあ大丈夫かな?」
Aちゃんはいきなりノートパソコンを開き、何やら検索を始めました。
唐突なことにおいてけぼりになった私たちはお菓子を食べたりしてインターネットゲームの話などして盛り上がっていました。
「あったーーー!」
Aちゃんが楽しそうに見せてきたのは動画サイト。
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shake
真っ黒い兄
埋め込み式の動画サイトで文字がでかでかと書かれていました。
どうやらもう再生されているらしく小学校低学年くらいの男の子がうつりました。
カメラを撮影しているのは男の子の妹らしい。
親からカメラを借りて撮影している微笑ましい映像である。
兄と思わしき男の子はいきなり工事中のマンホールに入ると言い出したのです。
妹にかっこいいところを見せたいと思ったのか妹が止めても聞く様子はありません。
「絶対戻ってくる!」
妹は兄の言葉に押され見送る形で撮影をはじめました。
マンホールから頭を出して、「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
普通の兄弟の日常会話。
shake
次の瞬間、一瞬で兄の頭がマンホール内にすっと消え、かわりにこもったうめき声が聞こえてきました。
そこでカメラが地面に落ち砂嵐になり、動画が終わりました。
「ごめん、この動画初めて見てん。後味悪いな、ごめんね…」
さっきまで元気だったAちゃんがパソコンを切り、みんなで「良く出来た作り物だねー」と話を切り替えようとしました。ただ一人、Mちゃんをのぞいて。
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Aちゃんがいつもの調子に戻ったとき、はじめてみんなが何かに怯えているようなMちゃんの様子に気がつきました。
口元を押さえ震えるMちゃん。
「ご、ごめん。気持ち悪いからトイレに行くね。」
心配になり私はMちゃんを支えトイレまでつきそうことに。
「…止められなかった。 」
「え?」
それっきり彼女は口を閉ざしてしまいました。
Mちゃんが個室に入り鍵をしめた途端
「こないで!約束なんてしてない!」と大声を上げたので服のボタンで鍵を開けました。
便器の蓋を必死で押さえるMちゃん。
何かの封印をするかのように上に乗り体重をかけている。
リビングにいた二人も異変に気がつきMちゃんをその場から引きはがし、みんなでMちゃんを囲み固まって寝ることにしました。
翌朝Mちゃんは早朝に帰ったようで靴もありませんでした。
一番に起きたAちゃんも始発よりあとに起きたのでメールをしたらしく「ありがとう」とかえってきていたのでみんなで安心していました。
そんな中、しばらく黙っていた一番古くからMちゃんと仲がいいKちゃんが「あの子、お兄ちゃんがいたって言っていたかもしれない。」といいだしました。
思わず「いたってことは?」とAちゃんがいうとKちゃんが重々しく口を開きました。
「遮断機がない踏切がなっているときに、お兄さんが大丈夫と言いながら走って横断しようとして…」
ここからは皆さんが想像するとおりMちゃんのお兄さんは次の瞬間、目の前で事故に遭ってしまったそうです。
「本当に昔やで?だから今はお兄ちゃんと住んでいないから…返事しなかったんやで、きっと」
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あわててMちゃんの携帯に電話しても出ないのでKちゃんから実家に電話してもらうと「戻ってきてるよ」と言われたそうです。
安心して冗談ぽく「野中が不登校になるからこんな変なことになったんやでー。ちゃんと大学いきや。」とAちゃんに見送られ二人で帰宅しました。
Aちゃんに聞くとあの動画は生きている兄が死んで戻ってくるという噂があり、兄がいないなら試しに観ようという出来心だったようです。
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一週間後くらいKちゃんから「Mちゃんと連絡が取れない」と電話がありました。
「Mちゃん、お兄ちゃんのことで地元にいられなくなって引越ししてきてん。…今気がついたんだけどね、父親が海外に行っ ていてあの日電話に男の人が出るのがおかしかったの」
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地元に聞くのがいいかなと、Mちゃんの実家の近くへ行きました。
隣の家のおばさんに引っ越したと告げられました。
引っ越したのはちょうど私たちといた日。
「引っ越したとき挨拶もなくてね。あとはトラックが変わった形していてね、あれなら確実に荷物積めると思ったんだけどね。夜逃げかしら?」
「変わったトラック?」
「そうそう、はっきり覚えてるよ。一瞬電車が道上を走ってるかと思うくらいやったんやから。」
作者野中ひゆ
大学時代の話です。