去年の話。
私は職場仲間と某トンネルへ肝試しに行った。
そのトンネルは曰くつきの心霊スポットとして非常に有名である。
トンネルは峠に存在するのだが、旧トンネルのためカーナビには記載されていない。
そのため、目視でトンネルへと向かう道をさがしていた。
しばらく峠を行くとそれらしき道を見つけた。
しかし、道は草木で覆い尽くされていたために徒歩でトンネルへ向かわざるを得なかった。
徒歩でトンネルへ向かう私達。
虫達のざわめきの中懐中電灯の明かりを頼りに進む。
正直この道を歩くだけで十分肝試しといえるのではないかと思った。
20分位歩いただろうか。
ようやくそれらしきトンネルへ辿り着いた。
【○△隧道】
入り口にはそう書かれている。
○△隧道は不気味な雰囲気をまといつつその口を開けている。
私達は予め某トンネルについて調べていたのだが、某トンネルはブロックで入り口を塞がれているはずである。
どうやら私達は違うトンネルへ来てしまったようだ。
目的の某トンネルへ向かうために引き返そうか悩んだが、私達の目的は肝試しである。
いかにもな雰囲気を纏ったトンネル。進まない訳にはいかないだろう。
私達はトンネルの中へと歩を進めた。
トンネルの中はかなり傷んでおり、天井から雫が滴り落ちる。
私達が今まで向かった心霊スポットと唯一違った点は落書きが一切なかったこと。
きっと肝試しという名目で侵入したのは私達が初めてなのだろう。
ボタ…ポタ…
傷んだトンネルの中を5分ばかり進んだだろうか、私達は違和感を覚えた。
出口が依然見えないのである。山奥の小さなトンネル。そこまで長いわけがない。
「おかしい。」と思った私達は、「とりあえずもう5分歩こう」と薄暗いトンネルの中を進み始めた。
ボタ…ポタ…
「!!」
私達は明らかにおかしい場所に辿り着いた。
依然出口が見えないトンネルの中。旧トンネルである。
散々傷んだトンネルが新しくなっている。
あたかも作られたばかりのようだ。
私達がいる手前側と新しくなっている先。
綺麗に境界線が引かれたかのように分かれている。
まるでこの世とあの世の狭間のようだ。
私達が更に歩を進めようとした瞬間。
ヴォォォォォォォォォォォォォォォ
地の底から響くような声がトンネルの先から聞こえた。
のも束の間。
私達は一斉に車へ向かって走りだした。
タッタッタタタタタ…
タッタッタタタタタ…
タッタヴォォォタタタタタ…
タッヴォォォォォォォォォォタタタタタ…
タヴォォォォォォォォォォォォォォォタタタ…
どんどん声は迫ってくる。
もうダメかと思ったその時。
私達はトンネルを抜けることができた。
そこまで迫っていた声はもう聞こえない。
私達は再び虫がざわめく薄暗い道の中を車へ向い無事帰宅することができた。
私達は後日、「あの声は何だったのか」と疑問に思い、昼間に再びトンネルへと向かった。
…が、ない。
私達が徒歩で進んだ筈の道がない。
それらしき物が何一つないのだ。
○△隧道で検索をかけても一切情報は無い。
あのトンネルは一体何だったのか。
あの声は何だったのか。
もし、あの先へ向かっていたらどうなっていたのか。
……それを知る術は私達にはない。
作者舞園 紅梨水
実話です。
一体何だったのか甚だ疑問で仕方がありません。