功くんとはもうすぐ二年の付き合いになる。
たまに会ってご飯食べたり、お買い物に行ったり、そのあとにはホテルに行ったり。ホテルに直行というときもある。
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…所謂セックスフレンド。
私は23歳。功くんは32歳。
最近はリアルに三十路過ぎのひとにときめく。
三十路手前の女の先輩が、
「自分が30に近くなってきたら40代がたまらなくなってきた」
と言っていたけど、私もそうなるのかな?
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◇◇◇◇◇
今日もこれから功くんとデート。勿論恋人として付き合ってるわけじゃないけど、こう言うときもデートと言うのだろうか。
この二年間に私には彼氏がいたときもあるけど、功くんには言ってない。
お互いいい人ができても特に言わない。
内緒にしてるつもりはないけど、功くんの方は頑張って隠してるみたい。
バレバレなんだよね。それは女の勘?というやつかな。
そんなこと言って実は功くんも私に彼氏いるときは分かるんだろうか。
お互い確かめたことはない。だってセフレだもん。
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それでも、デートとなると張り切る私だ。
今日のお迎えは19時。ご飯は食べないらしいので、きっと何だかんだとホテルに直行だろう。今日の昼休憩は夕方近くだったしお腹は空いてないので、まぁいいか。
お気に入りの下着をつけて、落ちてしまわないようアイメークもしっかりした。
一昨日届いたばかりのお気にのブランドの新作を着て準備OKだ。
テレビを見ながら連絡を待っていると、功くんからメールが届いた。
アパートの下に着いたらしい。香水をひと掛けして部屋を出た。
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功くんのカーステからは時々私がリアルタイムで聞いたことがない曲が流れてくる。カラオケで歌うと先輩たちにウケがいい曲ばかりだ。
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◇◇◇◇◇
車は住宅街から少し離れたバイパス沿いのホテルに着いた。
わりと最近出来た新しいホテル。アメニティーも充実してて料金の高い部屋には露天風呂も付いている人気のホテル。週末の夜には満室で入れない。お泊り組で空かないからだ。
今日は平日なので割と空いてる
二人で露天付きの部屋を選んだ。
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部屋に入ると功くんは露天風呂にお湯を張り始めた。室内にもお風呂はあるがやはり露天の方が二人とも好きなのだ。
部屋に入ってすぐに洗面所やトイレ、バスルームがある。
そして部屋の中央の壁にテレビがあってちょうどテレビが見やすい位置にベッドがある。
露天は部屋の奥。もちろん窓の外。
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お湯がたまるまでカラオケでもしようとリモコンを取り
ふかふかで大きなベッドにダイブした。気持ちいい。ベッドが大きいとなんでこんなに満ち足りるのか不思議だ。
一人でにこにこしてる私を見て功くんは少し笑ってた。
功くんが笑うと嬉しい。私はまたにこにこと笑った。
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功くんはお湯を見たり曲を探したり、部屋と露天を何往復かしてた。
お風呂の前にトイレを済ませておこう。夏だからってエアコン強すぎたかな?トイレの個室で少しぶるっと身震いした。
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功くんは服を脱ぎ始めてた。私もベッドに座りながらアクセサリーを外した。
先入ってるね!
と功くんは間接照明でムード満点の露天へ。天蓋もあるお姫様みたいな露天。
窓は開けっ放しだ。早く来いということか?素直で分かりやすい性格が好き。
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功くんに遅れて私も服を脱ごうと視線を部屋へ戻した。
シャツのボタンを外しにかかる。目の端に何か見えた気がした。余りに音もなく静かだったので気が付かなかった。
あれ?功くんは今、露天にいるよね。振り返ると露天に浸かって鼻歌を歌う功くんがいた。
あれれ?
視線をまた部屋に戻した。
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こっちを向いていた。
黒い髪が肩までのボブ。白いブラウスを着て膝丈の桜色のスカートを履いている。
こっちを向いて私のことを睨んでる。
顔中に怒りが溢れてる。表情なんて生易しいものじゃない。
唇が切れそうなくらい歯を食いしばっていた。
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人間、訳のわからない事態が起きると反応ができないらしい。
見つめたくないのに見つめていると、すぅーっと音も無く近付いてきた。
距離は3m…1m…と縮む。
僅かな時間なのに、長いような気がした。
白い手が私に伸びて、その人は眼前にいた。
ひやりと私の頬に風が動いた。その人の手だ。
冷たい。触れていないのにこんなにも冷たい。
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動けなかった。夏といえこんなに汗をかいたことはない。
ずっと相手の目から目を離せないでいた。冷たい眼をしてる。ぞっとした。
暑くもないのに汗が止まらない。寒い。喉はヒリヒリして声は出なさそうだ。
その人が口を動かした。
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…ナンデ?
声が聞こえたような聞こえなかったような。大人の女性の声だった。
しーちゃん、早くおいでよ!
後ろから功くんの声。反射的に露天の方に振り返る。
振り返りざま彼女から目を離してよかったのか頭をよぎった。
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けれど、私の不安は良くも悪くも裏切られた。
彼女は功くんのすぐ近くまで移動していた。
しーちゃん、まだ?何してるの?
功くんに彼女は見えていないらしい。まだシャツすら脱いでない私を訝しげに見ている。
その間も彼女は功くんに静かに近づく。
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先程と同様、声が出ない私。
功くんに手が届く距離まで迫った彼女は、振り返り私を見る。
…ナンデ?
まただ。また声が聞こえたような聞こえなかったような。
なぜ彼女に質問されるのか分からない。勿論見たこともない人?だ。
浴槽の縁に屈み彼女は功くんに手を伸ばす…。
しーちゃん体冷えたの?震えてるよ?早くあったまろう。おいで。
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…ワタシヲミテ。
彼女は両手で功くんの頬を…。
待って!!
え?しいちゃん?
あ、待ってて。功くん今行く。
私が声を出したら彼女はすっと消えてしまった。
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◇◇◇◇◇◇
どっと疲れが出た。功くんに誘われるまま露天風呂に浸かる。
早く出たかったけど、功くんになんて言っていいか分からなかった。
彼に質問をしてみた。黒髪のボブで20代後半、落ち着いてる感じの人は知り合いにいるか。
彼にはそんな知り合いはいないという。
あの人、怖かったけど綺麗な顔をしていた。そして悲しそうだった。
彼女は一体何者だったんだろう?
作者粉粧楼
後輩から聞いたお話に尾ひれつけて書きました。
後日談?があるのでまた近いうちにお届けできたらと思います。
駄文を読んでいただきありがとうございました。