俺には学生のときは2人の悪友がいた。
ここではそいつらを安田、田中と呼ぶことにする。
今は住む地域も別々で会う機会も減ったけど、大学生のときはそいつらとよくあてどなくドライブをした。 安田が車を持ってたから貧乏学生でもそこそこ遠くへ行けたものだった。
別に遠くへ行って何をするってわけでもなく通りすがりの女の子を見つけては「あの娘かわいくね?」「いや俺はチェンジだわ」とか言ったりしてた。
俺たちのドライブには2種類あって、市内をまわるだけのものと県外まで足を伸ばす旅行みたいなやつだ。
夏の熱い日、俺たち3人はその「旅行みたいなやつ」をした。その日はめずらしくルートがきまっていた。なんでも田中が隣の県の山の展望台に行きたいらしい。
まあ平日の昼間からそんなとこへ行っても小さい子供をつれたお母さまばかりのはずで、男3人はおかしいのだが誰も気づかないのかなんだかんだ話ながら車を走らせていた。
しかし、田中が道を知っていると言っていたのに実際に走ってみると道に迷うばかりでなかなか辿りつかなかった。
それでも山の中を車でのそのそ移動していると草がぼうぼう生えた広い空き地に出た。
すぐ近くに汚い長年人が住んでいないと思われる建物があってその空き地はそこの駐車場のようだった。
運転していた安田が車のエンジンを止めるとシートを後ろに倒した。
「もういいじゃん。ここで一泊で良くね?」
「じゃああの建物の中だけ見てこうぜ」
俺は好奇心にかられていた。
廃屋とはいえ人の家に勝手に入るのに誰も反対しなかった。やっぱりその廃屋には特別な空気が流れてたんだと思う。
正面から見るとそれが家であるとわかる。玄関らしき扉は鉄でできていて赤くさびていた。
俺達はきしむ扉をゆっくりと開けると中をのぞきこむように入っていった。
一階はどこもホコリをかぶっていてカビくさかった。部屋の真ん中に布のかかったテーブルがぽつんとあるだけだった。
奥には階段があって二階に続いているらしい。階段をおそるおそる登るとぎしぎしと音がした。
二階も一階と同じでどこもホコリまみれだった。ハウスダストのアレルギーがある俺は近寄りたくない感じだった。
「帰ろうぜ」俺は2人に声をかけきしむ階段を降りた。そしてまた一階のテーブルの横を通りすぎて家を出ようと扉に手をかけたときだった。
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気が付くと俺は扉の外に立っていた。
何だ?安田や田中はどうしたのだろうと思い周りを見渡してもいない。
そこで俺は自分か黒い雨合羽をきていることに気がついた。黒い手袋までしている。
おかしいのはそれだけじゃなかった。
扉にはさびなんてほとんどなかった。
駐車場の草も生えてなくて赤いワンボックスが止まっていた。
まるで誰かが今この中で暮らしているようだった。
俺は扉を開けた。きしみはしなかった。
中には大人の男と女がテーブルの前に座っていた。
男が立ち上がりこちらへ歩いときた。
俺は男と向かいあって立った年は30くらいか、メガネをかけた神経質そうな男だった。
俺はポケットのからダガーナイフを取り出すと振りかぶり男の喉につきさした。
男は一瞬何が起こったのかわからないような顔をした。
すぐに何か言おうと口を動かしたがひゅうひゅうと空気が漏れる音がしただけで膝から崩れ落ちた。
俺は包丁抜こうと引っ張たがそれに合わせて男の頭が前後に揺れた。
俺は男の顔を右足で踏みつけて包丁をぐいっと引っ張ると男の胸男の喉からひゅうという笛のような音と噴水のように血が吹き出し俺の顔を赤く濡らした。
俺は部屋の隅に座りこんでいる女のほうに向きなおった。
20代後半くらいか、目玉が飛び出んばかりにこちらを凝視している。
俺は包丁を両手で持ち、その目玉に突きたてた。
女の体が一瞬ビクンと跳ね上がり、けいれんした。
目から血をふきだしのたうち回っている。
俺はにまたがると首を絞めた。
ぐぅっとカエルがなくような音が女の喉のおくから出た。
全身を揺すって抵抗していたが、やがて弱まっていった。
女が動かなくなるのを見届けると俺は立ち上がり、奥の階段をのぼっていく。
2階にはベッドが2つ並べてありその間に小さなゆりかごがあった。
中には赤ん坊がおり、すやすや寝息を立てている。
俺が赤ん坊を抱きかかえるとにこにこと笑いだした。
俺そのまま床の上におくと、赤ん坊の顔の上に俺の足を垂直におろした。
ぶしゅうっ、という音とともに赤ん坊の頭がサッカーボールのように潰れ、血が床をつたう。
はみでた目玉がころころと床のうえを転がっり、一瞬俺と目が合った。俺は回れ右をして階段を降りると扉に手をかけ、その家を出た。
俺の意識はそこで途切れた。
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「おい!大丈夫かよ!しっかりしろよ」
気がつくと安田が俺の肩を揺すっていた。
ぼんやりとしたあたまの中で一刻でも早くここを出なければと思った。俺は扉にぶつかるようにして外に出て、車の後部座席に乗り込んだ。
ほぼ同じタイミングで反対のドアから田中も乗ってきた。
「田中、お前も見たのか?」
「見た見た。自分がこの家の家族をみんな殺してた。
「ここなんなんだよ」
お互いの顔を見て、俺も田中も涙や鼻水をだらだら流し泣きだしていた。
「どうしたんだよ」
安田が戸惑いつつ建物から出てきて運転席に座った。
俺は車を早く出すよう安田に喚き立てた。今すぐこの場を立ち去りたかった。
安田もただならぬ空気を察したのか黙って車を出した。帰りの車内では誰も口をきかなかった。
あの光景が真実なのか嘘なのか俺にはわからない。
街の図書館で調べても記録が何にもなかった。
ただ、悲惨な光景というのはその場に焼きつくことがあるのだそうだ。あの光景も殺された家族か犯人かの思いがそこにとどまったのだと俺は考えている。
S県の山奥は注意した方がいい。
作者みおみお
友達から聞いた話を大幅にアレンジしました。勉強のあいまに書きました。つたない文章だけど怖いと思ってくれたら嬉しいです。