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誰の服
毎年恒例ではあるのだが、会社のメンバーで花見をした。
去年と同じ6人。男性4人、女性2人。
もっと大勢でやってもいいのだが派閥なるものがあるらしく、毎年それぞれのグループで少人数ながら楽しくやっている。
僕は一応この中では一番古株で、彼らからそこそこ慕われている。まだそこまで自信を持つ歳ではないのだが、慕ってくれている子たちがいるからにはそれなりに立ち振舞わねばならないなと思っている。
そんな意志は一口酒を口に含めば何処かへ吹き飛んでしまい、上司の威厳など皆無で馬鹿笑いしながら騒いでしまう。今は楽しむのが一番だ。
ひとしきり楽しんでそろそろ帰る時間になった。
服は広いブルーシートのあらゆるところに脱ぎ散らかされ、それぞれが「これは誰のですか?」と聞きながら持ち主の所に帰っていく。
一枚水色のカーディガンが余った。
酒で頬をピンクに染めた一番若い女の子が「これ誰のー?」とふらつきながら問う。
やはり誰のものでもないらしい。
「だれか知らない奴紛れ込んでるんじゃないか?」と僕が冗談で言うと、
「お邪魔してます」
と女性のか細い声が後ろから聞こえた。
振り返っても誰もいない。
なんだよ気持ち悪いなと思いながらみんなを見ると全員の顔が真っ青になっていた。
「どうしたんだよ?」と僕が聞くとみんなが唖然としながらも指を指した。
少し遠くに一際綺麗な桜の木がある。
そこで若い女性が首をつっていた。
まだつってそんなに時間が経っていないように見える。
服装はブラウスにスラックス、まさに新社会人という風貌だ。真下の地面には畳まれたジャケットと靴が置いてある
ふと、自分たちのブルーシートの上にある女もののカーディガンに目がいった。まさかな。
はっと我にもどり自分は何をしているんだと思った。
まだ息があるかもしれない。
すぐに女性を地面におろし救急車を呼んだ。
しかし素人目に見てももはやその心臓は止まっている。僕はその女性の見開いた目に手をかざしゆっくり瞼を閉じた。
動揺と焦りでその女性の顔を良く見ていなかった僕は愕然とした。
彼女はうちの会社の娘だった。
入って間もなかったがなかなか馴染めないことに気を病んでいたらしく友達も出来なかったらしい。内気ではあるが気の優しい良い子だったし、うちのグループで花見に行かないかと誘ったのだが、気恥ずかしさがあったのかやんわりと断られた。もっと強引に誘っておけばよかったと、とてつもない後悔に襲われた。
それでもどうやら彼女は僕たちのグループの後について来ていたようだった。
みんな途中からアルコールで記憶が曖昧になっているが、もしかしたら知らず知らずの内に彼女も混ざっていたのかも知れない。
そして最期の夜を楽しみあの世へと旅立ったのかもしれない。
そして彼女は精一杯の勇気を出して「お邪魔してます」とあの桜の木の上から僕に挨拶をしてくれたのかもしれない。
作者川島康弘