夏の週末、金曜日深夜、自家用車で出張先の山間部から自宅へ帰る途中のこと。
それほど幅も広くない山道を走行中に、フロントガラスに「カンッ」という音が。
ゆっくりと停止して外からフロントガラスを見てみると…ほぼ中央に、1~2mmほどの小さなヒビが出来ていた。
この時頭に浮かんだのは、
(飛び石かな?? しかしこんなんじゃあ来月の車検通らないかもしれない…リペアが不可だと痛い出費になるのか?)
なんて考えでした。
でもすぐに考えが変わりました。
前日にリサイクルショップでとても安いドライブレコーダー(内蔵したメモリの方が高かった位)を手に入れて取り付けているのを思い出した。
飛び石でも相手がわかれば相手側に・わからなければ保険で修理しても16等級だからお金がかからない。
(注:現在では等級ダウンがあるので実質お金がかかります)
走行に支障が出ることもない傷だったのでそのまま帰宅し、ドライブレコーダーに入っていたメモリをノートパソコンで確認しました。
その映像は安価で買ったとは思わないほどの高精細でびっくりするほどでした。
そこには走行中に小さな小さな黒いもの(多分小石か何かでしょう)が、フロントガラスに当たっているのがしっかりと確認できました。
とはいえ、当たった場所は山道の直線道路だったので、反対車線から・なんて事もあるわけがなく…結局どこから飛んできたのかはわからずじまい。
(もっとも、ドライブレコーダーに写るのは夜間なのでヘッドライトが見える範囲だけで、判断なんて無理なんですが)
一応メモリからパソコンのHDDにバックアップをして、その日は終了。
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翌日の土曜日
お世話になっているディーラーへ行き、今回のことを話して保険を使って修理出来ないか&ついでに車検も・と依頼をしてみました。
ディーラーさんもこういう事はたまにあることらしいので、快諾で保険会社の対応もしてもらえる約束をつけました。
まあ、保険会社といってもディーラーのところで車を購入する時一緒に契約したので、当たり前っちゃあ当たり前なんですが。
修理と車検で1週間くらい預からせてもらうということで、そのまま愛車はディーラーのお店へ預け、自分は代車を借りて帰宅。
ドライブレコーダーの記録もあることを知らせると、保険屋さんに話が通しやすくなるので、可能ならば一緒に置いていって欲しいといわれ、
自宅にバックアップも取ってあることから、そのまま一緒に渡しました。
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そして1週間後……とならず、翌日の日曜日。
メーカーの修理会社から1本の電話が。
「ドライブレコーダーのデーターを確認したのですが、枝か何かがぶつかったんでしょうか?」
…え?
「ぶつかったのは、小石だと思うんですが」
「いえ、どう見ても数センチはある棒状の物体でしょう? フロントガラスのヒビもそのくらいの大きさですし」
そんなことは…ないはず…
とりあえず、パソコンの中にあるデーターを確認してもう一度連絡するということで電話を終わらせ、すぐにパソコンを立ち上げて見直し…
…………
おかしい。ぶつかった日の夜に見た時は小石位の小さな黒い物体だったはずなのに、今見てみたら確かに数センチくらいの棒状の黒い物体が写っていた。
改めて修理会社に連絡を入れて、愛車がある場所へ直接向かい確認することにしてみた。
そして見たヒビのサイズはは…昨日預ける時に比べて明らかに異なり、1センチくらいの大きさになっていた。
電話をくれた・対応してくれた修理会社のかなり年季の入った人(Aさん)に昨日の状態を確認たかどうかを聞いたが、
『車自体はAさんが退社後に着いたらしく自身では見ていない。朝一で確認したときからこの状態だった』
とのこと。とはいえ、
『保険会社の人が既に来て、事故等ではないことは確認も終わっているので無償で修理できる』
とのことだった。
ふに落ちない点があったものの、ちゃんと直るのならばそれでいいか・と納得して帰宅。
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そして2日後の火曜日、またAさんから電話が。
声を聞くと、日曜日に電話をくれた人だった。
「もしもし」
「すいません……どうしても確認しておきたいことができまして……ぶつかったのは『枝みたいなもの』でしたよね?」
「…ええ、そうでしたよね…」
「…それが…ヒビが大きくなっているんですよ。おまけにドライブレコーダーに記録されているのも……」
「は? ヒビが大きく?」
「もし可能でしたら、もう一度こちらに寄ってもらえませんでしょうか」
「はぁ…(予定表を確認して)仕事が終わって…夜の6時過ぎでよければ」
「はい、大丈夫です。それではお待ちしています」
…『お待ちしています』が妙に気になった。
帰宅途中に修理会社によって……愛車を見て言葉を失った。
未だ修理がまだ終わっていない車のフロントガラスの中央に、10センチほどの蜘蛛の巣状のひび割れが入っていた。
明らかに自分がつけたものではない傷が…Aさんに詰め寄って、
「どういうことなんですか?」
「それが…今日の朝一番に部品が届いたので交換しようとして車を見たらこうなっていたんです」
「まさか、だれかが誤まってつけたんじゃあ…」
「走行メーターは記録してあるので走行していないのは確かですので、外から・とも考えられるのですが…」
「ですか?」
「預かっているドライブレコーダーの記録が…ちょっと……見てみますか?」
たしか木の枝のようなものが映っているだけじゃあ…
…………はっ!?
「何ですかコレは!」
思わず声を上げてしまいました。
そこに映っていたのは木の枝などではなく、小動物みたいなもの(黒い影でしたが耳が見えた)が急に現れて、真正面からフロントに衝突して丸いヒビが入るシーンが。
「やはりここの誰かが乗り回して事故ったんじゃあ」
「ですから、メーターが回っていない以上この車は動いていないんですよ。
それ以前にレコーダーの日付は、金曜日の深夜になってるでしょう?」
「…………」
「…………」
しばし無言に。
気を取り直して話し合い『フロントガラスは明日一番に交換する』『明日のうちに車検のチェックをして明後日(木曜日)の夕方までに終わらせる』という約束をして自宅へ帰りました。
その後自分のパソコンに残した映像を見直そうと思ったのですが…いやな予感というのか、見ると後悔しそうな気がして結局見られませんでした。
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そして約束の木曜日のお昼前、修理会社のほうからまた連絡が。
「もしもし、○○さん(自分の名前)でしょうか」
しかし、今まで対応していたAさんとは明らかに違う違う若い人の電話だった。
「そうですが…Aさんじゃないんですか?」
「Aは朝出社したのですが…○○さんのお車を見て事務所にかけ込んで、しばらくして早退したので、私が代わりにお電話させて頂きました。
お預かりしている車なのですが、今日車検を通す予定だったのですがちょっと問題が出てしまって、来週まで待ってもらえないでしょうか」
…は?
「何か故障した場所があったんですか?」
「いえ、故障ではないのですが、
実はフロントガラスにまたヒビが入ってしまいましたので、大至急で修理部品を取り寄せていますのでもうしばらく待っていただけないかと」
「交換したんじゃないんですか?」
「昨日確かにAさんが交換したみたいなのですが…今日の朝確認したらまた入っていて…」
「やっぱり誰かが勝手に使ってるんじゃあ」
「…いえ、それはないかと。
Aもそれを疑ったみたいなんですが、ドライブレコーダーの映像を確認した直後に真っ青な顔になって早退してしまって…分からずじまいなんです」
…またドライブレコーダーの映像…
「今日の帰宅時に寄らせてもらってもいいですか?」
「あ、はい。7時頃までならいますので、それでよければ」
車を見て、唖然とした。
中央からフロントガラスほぼ全面に蜘蛛の巣状のヒビが広がっていた。
ボディ本体には傷ひとつなく。
「Bさん…これは…だれがやったんですか?」
「今日きたらこうなっていました。
あ、誰かが工具で割ったなんて事はありません。傷痕を見る限りボーリングの玉位の丸くて重いものがあたらないと、中央のくぼみはこうはなりませんから。
それにもしそんなものをぶち当てたとしたらボディにも何らかの傷が出来るんですが、それも見当たらず…
不思議なんですよねぇ」
もう、薄ら寒い感覚しかありませんでした。
車の傷を見直して…ヒビの間からドライブレコーダのレンズがみえた…まるで自分を見ているような…
…あれに映ったものが…最初の…
「あのドライブレコーダ…」
「ああ、交換前に付けられているものは、ちゃんと付け直し…」
「処分してください!」
あれを付けたあとから…
「え? あのタイプって国産でかなり高級な機種じゃあ」
「いいです! 処分してください! 次はつけないでください!」
「はぁ…分かりました」
それだけ頼んですぐに帰ってしまいました。
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自宅へ帰って真っ先にパソコンに残しておいたファイル削除し……
『削除出来ませんでした』
そのほかのファイルは削除できるのに、この映像ファイルだけはどれだけやっても何をしても消せない。
…と、ついダブルクリックしてしまったようで、ファイルが再生され始めた。
山道を走る映像が映る。
あわててストップをクリックする…が、映像は止まらない。
右上の閉じるボタンを押しても。「Ctrl」+「Alt」+「Del」を同時押ししても…電源ボタンを押してもパソコンは映像を流し続ける。
そして…ぽつん、と小さな黒い点が。
確か最初はこれくらいのものがガラスに当たったはずだった。
そこから黒い点は徐々に黒い丸に変わって行き…
前回見た時はこのくらいで耳のようなものが見えた。
さらに大きくなってゆき…
こんな大きさにまでなるはずがない!
一瞬、白黒の人の顔に見えた!
恐くなって思いきりノートパソコンを閉じたと思った瞬間
『バキン!!』
パソコンの間に丸い石のようなものが現れて、ディスプレイと本体が真っ二つに割れていた。
まるで、画面から飛び出してきたように…
恐る恐るその石を見てみたら……石像の頭部だった。
こんなもの、1分1秒でも手元に置いておきたくない。
石像はどうしようか迷った挙句、ちょっと離れた場所にある神社の裏山にこっそりと置いてきて…
完全に壊れてしまったノートパソコンは帰り道にあった粗大ゴミ収集所に捨ててきた。
…完全に違法ですね…
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2日後…土曜日の昼前。
修理会社から電話があった。
「もしもし」
その声は、Aさんだった。
「お預かりしていた車ですが、先ほど車検から帰ってきましたので御連絡をと思いまして」
「Aさん…あの映像を見たせいですぐに退社したんですか?」
「…ええ、お恥ずかしい話ですが。
あれを見た後、そのまま近くの神社へ駆け込んで祈祷を受けてきました」
「…やっぱりそうでしたか。
車の方はあれからは何かありましたか?」
「いえ。金曜日に部品が届いてすぐに付け替えて…また何かあるかと思って防犯カメラに映る位置に止めておきましたが、何もおきずに今日の午前中に車検を受けてきました」
関係する機械をすべて処分したからこうなったのか…
「返却はディーラーさんからのほうがいいでしょうか? こんなこともあったので、もしすぐにでも必要でしたら直接こちらに来ていただいてもかまいませんけど」
「あ、じゃあそろそろお昼なので…2時前くらいにそちらに伺います。代車のほうはどうすれば」
「台車はこちらからディーラさんのほうへ返しておきます」
自分の車は、問題なくあった。
今度はフロントガラスが傷ついているということも全くない。
あのドライブレコーダーもちゃんと外されていた。
「今回は時間がかかって申し訳ありませんでした」
「いえ…こちらこそ色々とお手数を」
云々
Aさんの首からお守りがかかっている以外は…
ふと、周りを見渡して…
「そういえば、Bさんは今日は休みですか?」
前回対応してくれたBさんの姿がなかった。
まぁ、週休二日のこの御時勢だから、Aさんが休日出勤だろうと思ったのだが。
「そのことなんですが…付いていたあのドライブレコーダを処分するようにBに依頼したそうですが」
「ええ。あんなのが映ったものなんて縁起が悪そうで」
「そうなんですか…
実はBなんですが…そのドライブレコーダを自分の車に取り付けて…
昨日の深夜、交通事故に遭って亡くなりました」
え??
「昨日? 金曜日の深夜?」
「仕事が終わった後にドライブに行ったらしいのですが、道路の真ん中に置いてあった大きめのお地蔵さんに衝突して…即死だったそうです。
酷い悪戯ですよね。
しかもそのお地蔵さん…頭部がなかったそうです」
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「…もしかして事故現場って、I市の国道○○線と立体交差した道じゃぁ…」
「はい。良く御存…知……で…………え?」
昨日まで通っていたその道は、二度と通れなくなった。
作者waiepleG
車に起きたささいな事故とその時記録された映像が…
誤字脱字や、日本語の使い方が変な部分が多々あるとお思いますが、その点は御容赦を