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私の名前はRyu。
なんの事はない、失敗だらけの底辺男だ。
いつもいつも、家族の事や要らない事で苦労しては結局私だけが潰れる。まるで一つのルーチンワークみたいで我ながら滑稽な人生だ。
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今回お話しするのは、私の友人Kの事。
Kと私は、元バイト仲間だ。
何故『元』かと言えば、Kも私もそこをとうに離れているからだ。
3年ほど前の事だ。
当時私は某社で働いていたが、突然元バイト先からのヘルプ要請が入った。イコール今週休み無しという事だ。
只でさえ忙しいのに何考えてんだ!?と思いながらも、話を聞いてみた。
『Kが辞めた』
少し驚いたが、〝あぁ、やっぱりな。〟と納得した。
詳しい経緯は省かせて貰うが、最後に見たKはとても辛そうだった。
彼は私によく懐いてくれて、仕事後はよく2人で世間話に花を咲かせていたものだ。〝頃合いか…〟とは思っていたが、辞め方まで予想通りだった。
しかし無理もない。
尋常じゃない激務もそうだが、話はそこから数ヶ月遡る。
本人から聞くに、彼は友人3人(以降A,B,C)と某心霊スポットへ行っていた。
『出る』と有名な場所だったが、それらしい事は起こらなかったそうだ。
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A:『な〜んも出ねぇな』
B:『張合い無ェ〜』
C:『このまま帰んのヤダから他んトコ回っとく?』
K:『お、賛成。せっかく集まったんだから行くしかないっしょ?』
A:『じゃ、早く乗れよ。サッサと行くぞ?』
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4人を乗せた車が走り出した。
Kが何と無く外に目を向けると、小さな湖らしきものが見えてきた。
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『…おや?』
湖の真ん中が白く光っている。
何だろうと目を凝らし、車が湖の真横を通った時に解った。
K:『なぁ、あれ見てみ?ほら、水の上に白い人立ってるよ。』
C:『ん〜?居ねぇよ?』
K:『あれ?確かに今まで居たんだけどな…。』
B:『お前疲れてんだよ、毎日アレじゃ仕方無ぇよな。』
すると運転席のAがスピードを上げ、道を一気に下り始めた。
B:『おいA!飛ばし過ぎ!』
A:『黙ってろ、麓まで飛ばすぞ!』
K:『え、なんで⁉︎』
A:『後で言う!とにかく掴まってろ!』
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カーブで後輪を滑らせながらも無事コンビ二まで辿り着いた。
全員降りた後、Aは空いていた後部座席側のドアを開けて誰かを降ろすような仕草をした。
そこからファミレスに移動して全員落ち着いた頃、Bが口を開いた。
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B:『A、さっきの何だよ。コンビニで変な事してたし。』
A:『K、お前見たのはどんな奴だった?』
K:『湖の真ん中らへんに白い人影が立ってた。幻覚だと思ったけど…』
A:『そっか、俺と殆ど同じだな。BとCは見えなかったか?』
二人とも首を横に振る。
K:『Aは最初から見てたの?』
A:『行きの時点で見てた。水の上でフラフラしてたな。』
B:『お前、そーゆーの最初から言えよ!』
A:『〝見えてる〟って口に出すのがマズイんだ。しかもアレは厄介だから気付かれたくなかった。』
C:『幽霊って皆厄介なもんだろ?』
A:『そうでもねぇんだ。なら何故Kは真っ暗なのにアレがみえたんだ?』
K:『光ってるから?』
A:『ああ。』
B:『大体幽霊って光ってるよな?』
A:『まあな。でも光り方がそれぞれ違うんだ。』
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Aが言うにはこうだ。
大体は白や灰色にほんのり光っている程度。これは浮遊霊に多い最もポピュラーなパターンだ。
霊本人の念の強さによるが、光が強い者は要注意。
特に赤や緑色に光る幽霊は非常に危険で、遭遇すれば生きて帰れない可能性もあるそうだ。
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C:『てコトは、Kが見た奴もツワモノって事だな…。』
A:『ああ。多分アイツは誰かに助けて欲しいって〝念〟がかなり強い。だから強く光って誰かが気付くのを待ってるんだ。』
B:『たしか見えるのは〝波長〟が合ってるからだって何かで見たな。Kもこんな状態だから合ってもおかしくないか…』
C:『お前マジ大丈夫か?明らかに窶れてきたし、ブッ倒れそうな顔だぞ。』
K:『正直ヤバイ。前に居た先輩も週末とか来てくれるけど、その人普段仕事してるから毎回呼ぶのが辛いよ…』
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実は私もしょっちゅう駆り出されていて、身も心も悲鳴を上げ始めていた。
それでもKの事が心配で仕方無かったので様子見を兼ねて、身体に鞭打っていた。
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C:『うわ、普通なら着拒レベルだよな。しかもバレたら絶対クビだろ?』
K:『〝俺以上に家族がなぁ…〟って苦笑いしてるけど、怒ってるだろうなぁ…。』
A:『話戻すぞ。Kは口に出しちまったから、お前に憑いて行くかも知れない。とにかく気を付けろ。』
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それから暫く話して4人は別れ、夫々の家に帰った。
その日Kの身には何も起こらず、数日が過ぎた。
数日後
Kは内蔵疾患をはじめとする体調不良に加え、妙な幻聴にも悩まされていた。つまりはボロボロになっていた。
連日のハードワークの合間に休んでいると、
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〝どう頑張っても無駄、何をやっても無理〟
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という声が何処からとも無く聴こえてくると私に言った。
その時のKは口調こそ普通だったが、目がどこか虚ろで、頬も少し痩けていた。
体調不良・幻聴・ハードワークが重なり、極度のストレス状態だ、無理もない。それから2ヶ月を過ぎた頃、Kは遂に辞めた。
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恐らくKは憑かれてしまったのだろう。霊は気の優しい者に憑き易いと言うが、今回のKは心身共に疲れ果てて心が隙だらけだったのかも知れない。
事情もあってKとは全く連絡が取れず、〝どうか無事でいてくれよ〟と願うばかりだが、1年ほど前に彼らしき人物が車を運転しているのを見かけた。
こちらが落ち着いた時に彼と会い、その後の話を聞こうと思う。
作者Ryu
こんばんは、Ryuです。
恐怖とは掛け離れた内容で申し訳ありません。
しかしフェイクこそ入っていますが、これはKの身に起こった実話です。
読んでいれば怖くも何ともありませんが、コレが己の身に起こったらと考えると、背筋が凍る思いです。