中編7
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廃病院のラクガキ

「出ました伝統芸ッ!!」

夏にしたいことは何ですか?って聞いたら、多分100人中90人は「肝試し」と

答えるだろう。

花火とかそんなのより、やっぱ夏はゾッとするような企画が盛り上がる。

そんなわけで、俺Aが通うこの高校では、もうすぐ卒業を控えた3年生が

近くの廃病院で肝試しをすることに。

もちろん生徒だけの計画だからとめようとする先生は誰もいない。

そして、卒業式3日前。

俺ら3年83人が廃病院前に集まった。

残りの16人は、用事があるだの怖いだの言って来ていないが、

夜にここまで集まるとは思ってなかった。

主催者のKは既にテンションマックス。

「うっひょーーーッ!!本格的だな、ドキドキすんな!!」

3月ってこともあってか寒い。

風が吹くたびに皆が悲鳴を上げる。

言ってももう夜中の1時回ってるしな・・。

「そろそろ始めようぜ~。」

誰かの声にぱらぱらと皆が頷いた。

「だな~~」

「早くしよう」

するとKが箱を取り出した。

「じゃんッ。

今から皆にこのクジを引いてもらう!」

「クジィ?」

「何それー」

「この箱の中にはそれぞれローマ字が書いてある紙がいっぱい入ってる。」

「それでチームを決めるのか!」

「そそ!1チーム5人♫」

「じゃあ、どこか3人になっちゃうじゃん!」

「そこがクジの醍醐味だろーが!」

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まさかとは思ったがおれはちゃっかり3人のグループになった。

しかもメンバーがあろうことか主催者のKと、

学年で浮きつつある一匹狼、S。

「マジかよ・・・・」

俺の独り言は、Kのうるさいはしゃぎ声に、消えた。

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「なあ、なあ・・・、何でこんなところのぼらなきゃいけないの・・かな・・」

主催者であるKがガタガタ震えている。

「この上にその病院があるからだろ。つか主催者お前だろ!位置くらい把握しとけよ!」

「いや、行くときにどんな道か知らないほうが楽しいかと思って・・。」

Kが無理に笑うと、俺とKの跡についてきているSが棒読みで言った。

「どーせ下見ですら怖かっただけの話だろ。」

俺がKを見ると、Kも俺を見てさっきよりぎこちない笑顔で笑った。

「うん、図星(笑」

はあ・・。

何でこんなやつが主催者なんだ。

何でこんなやつが同じチームなんだ・・・。

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さらに奥へ進むと、やっとそれらしきものが見え始めた。

「あれか!あそこだな!!」

Kは嬉しそうにポケットから蝋燭を取り出した。

その廃病院が見える場所から廃病院を出るまでは蝋燭の火をつけてもいいことになっている。

懐中電灯とか携帯のあかりとかはNG。

これも主催者のKが決めたことだ。

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「うおおおぁああああああああ!!!!!」

「うおっ」

Kがいきなり大声をあげた。

「何だよ!!いきなり叫ぶなよ!!」

「ここっ、ここだよ!!ついちゃったよ!!おい、A(俺)、S!!」

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「ほ、ほんとだ、な・・・。」

俺がため息をつきながらSをチラ見すると、Sは以外にも楽しそうな顔をしていた。

やっぱコイツも人間だな。

こういうのは純粋に楽しむんじゃん。

いや、今までコイツに良いイメージが無かった分意外・・

「なあ、A!!」

「ん?」

「先、行って?」

Kは笑顔で俺に蝋燭を手渡した。

「ハ?何で俺が!」

「今まで俺先頭だったんじゃん!一番怖そうなとこはSに行ってもらうから

ここらへんで交代!な?」

・・・・なんだ、ソレ。

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「い、いや、あはは・・・、や、やぱ、廃病院は雰囲気でるね、あ、あはは・・」

「何がおかしいんだよ。気持ち悪いから笑うな!」

廃病院のまわりかたは、1階、2階、2階裏、1階裏。

3階もあるらしいのだが、まあマジでダメらしい。

「じゃ、は、は、は、入ろうか・・・ぎゃぶっ」

「お前もう怖いならここで待ってろよ。Sと二人で行ってくるから。」

「いいいやだ!そのほうがもっと怖い!!」

「・・・・・チキンめ・・・」

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「・・・やっぱ、廃病院て雰囲気出る」

「うるせえよそれ何回言うんだよ!」

俺の蝋燭の火がだんだん弱々しくなってくると、俺達は受付を見つけた。

Kがここだ、と声をあげた。

「ここが・・なに。」

俺が聞くと、Kはにかっと歯を見せて笑った。

「この受付の場所の右に・・・あった!ほら、階段!」

「・・ああ。つかなんでお前、場所知ってんだよ」

「え、一応見取り図はあるからさ。ほら。」

俺はふーん、と言いつつ階段に蝋燭の火を移した。

「じゃああがろう!」

Kが俺の腕を引っ張った。

「ちょっ、おい、K!!・・・・ん、ちょっと待て、おい、S、お前はいかねえの?」

「・・・先行っといて。」

Sはジャージのポケットから懐中電灯を取り出した。

「な!おまっ!!それ懐中電灯じゃねえか!!」

Kもあっと声をあげた。

「いいんだよ別に。」

Sは悪い顔で笑うと、受付の奥に進んで行った。

「え、ちょ、どこいくんだよ!!」

俺はKの手を振りはらってSを追いかけた。

「えー、待ってよAーー!!」

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「何やってんだよ、S!!」

Sは俺を睨むようにして見ると、懐中電灯で手前を照らした。

「なに・・・ッ!!!!!!」

そこには壁があり、血文字でこう書かれていた。

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『ワタシ ハ ココ デ 命 ヲ 落トシ タ 女 デス →』

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「なんだ・・・これ・・・・?」

俺に追いついたKが息を荒げながらどうしたの?と聞いてくる。

Sが「→」にそって懐中電灯を向けると、その明かりは階段を照らした。

「これって、のぼ、れ、ってこと?」

Kが恐る恐る聞くと、Sはまたあの笑顔で笑った。

「面白そう、だろ?」

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俺達は2階にあがった。

いつのまにか先頭は今までずっと後ろにいたSだった。

2階に上がってすぐにKが叫んだ。

「A!!こ、これ!!!」

Kが指差したのは階段脇の壁。蝋燭で照らすと、そこにはまた血文字で

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『→』

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と書かれていた。

Sはのぞきこむようにその字を見つめると、

「どうする。行くか?」

と俺とKの顔を懐中電灯で照らした。

こういうやつって意外に好きだったりするから嫌なんだよな。

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「ちょ、ちょっとおお、マジで行くの?!3階はだめだて・・」

Kの声はプルプル震えている。

それに対してのこの俺の興奮。

久しぶりに高ぶってる。

多分、Sもそうだろうな。

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3階に上がるとまず目に入ったのは、

懐中電灯で照らさなくてもわかるようなでっかい矢印。

俺の2、3倍はある。

その矢印は横の小さな文字をさしているらしい。

俺は何て書いてる?とSに振った。

Sは懐中電灯でその文字を照らした。

その文がこうだ。

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『ワタシ ノ 上半身 ハ 右    ワタシ ノ 下半身 ハ 左』

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正直、ゾッとした。

いたずらにしてはやりすぎだ。

「やっぱ帰ろうよ!」

Kの声を無視し、Sは俺を見た。

どっちがいい?

とでも聞くように。

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どうせ何もないんだろうけど、

ここまできたんだし最後までつきあってやることにした。

この程度の低いイタズラに。

俺とSは左に行く事になったが、Kだけが嫌だ嫌だ、とその文字の書いてある場所で

待機する事に。

ってかフツーにあそこに一人でいるほうが怖いだろ・・・。

俺が苦笑いを浮かべていると、Sがまた何かを見つけた。

「この部屋じゃねえか?」

目の前には大きな扉。

重そうで頑丈だ。

「確かにあの矢印どおりに進み始めてからドア以前に窓すら見てないし、

ここで間違いなさそうだな。」

俺がそう言うと、Sは左眉をピクリとあげ、ドアを勢いよく開いた。

(ッ!!!・・・・すっげえ音・・・。)

俺は思わず耳をふさいだ。

かなり長い間閉めっぱなしだったんだろうな・・。

だが次に俺を襲ったのは、

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尋常でない腐臭。

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何に例えればいいのかわからないような気持ちの悪い、

体中の汗が噴き出してくるような、嫌な臭いだ。

Sは「ははっ」と小さな声で笑い、言った。

「人間の死臭だよ。ほら。」

「え? う゛ッ!!!!!」

Sが照らした情景・・・

危うく吐くところだった。

そこら中に転がる死体の山・・・・

Kを連れてこなくてよかった。

ここは霊安室っぽい。

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「お、おいS、お前平気なのかよ?!」

「・・・・・・」

!!

Sはまるで人を殺したことがあるかのような顔で笑った。

・・・何かコイツ、色々やばそうだな・・・。

と、Sの懐中電灯のあかりが矢印を照らした。

「あ!」

その矢印はさっきまでとは違う方向を指していた。

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『↓』

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「下・・?」

下には、マジで女の下半身があった。

血でドロドロになり、肉が爛れ、ところどころに蟲食いの痕がある。

「ぅえ・・・」

俺は口をふさいで目を細めた。

想像してたより酷い映像だ。

臭いも強い。

すると、その矢印の下にもまだ文字があることに気がついた。

Sは何のためらいもなくその血文字を照らした。

その字は今までよりも生生しく、ついさっき書かれたような感じだった。

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『アタシ ノ 上半身 ハ コチラ ヘ  向カッテ イマス』

Concrete
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