三月の最初の週、佐藤達は高三に進級する為の学年末試験を受けた。内容が多い上に難しい為、佐藤達は大変だった。やがてその大変な試験も終わり、佐藤達はようやくそれから解放された。そして今日はテストが終わった翌朝でまだホームルーム前だった。
勤「いやー、大変だったな。」
理子「ほんと、疲れたわ。」
試験から解放された勤と理子が口々に試験の感想を述べ合っていた。一方の佐藤は机に座って一人本を読んでいた。そんな佐藤を見て、二人は佐藤の元に駆け寄ってきた。
勤「佐藤はどうだった?今回の試験。」
理子「やっぱり大変だった?それともそうでもなかった?」
佐藤は二人に読書の邪魔をされた事を不愉快に感じていたが、本を閉じると二人の質問に答えた。
佐藤「そうだな……俺的には二年最後のテストと言うだけあって、結構大変だったよ。」
勤「やっぱそうだよな!」
と話しているとチャイムが鳴り、担任の小早川先生が教室に入って来た。そしていつも通りにクラス委員が号令を掛け、全員着席する。全員が着席したのを確認した担任は教室のドアに向かって「君、入りなさい。」と声をかけた。
するとドアが開き、中に一人の少年が入って来て教壇の横に立った。彼はこの高校のとは違う制服を着ていて、顔も初めて見る顔であった。小早川先生は彼が教壇の横に立つと話始めた。
小早川「では紹介しよう。今日からこのクラスに一員になる転校生の鈴木幸一(すずきこういち)君だ。皆仲良くするように!」
小早川先生の説明を聞いたクラスの一同は驚いてざわつき始めた。やがて転校生は挨拶を始めた。
鈴木「僕は西高校から転校してきた鈴木幸一です、宜しくお願いします。」
挨拶を終えると鈴木は先生に言われて後ろの空いている席に座った。そこは偶然にも佐藤の隣だった。ちなみに席順は以下の通りだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーー勤 理子ーーーーーーー
ーーーーー佐藤 鈴木ーーーーーーー
上記の図が席順(分かりづらくてすいません。)で見ての通り、勤と理子が一番後ろの席に隣同士。更に勤の前に佐藤の席があり、その隣で理子の前にある席が鈴木の席だ。
鈴木「宜しく。」
佐藤「こちらこそ。」
理子「宜しくね!」
勤「宜しく!」
席に着くなり鈴木が付近にいる佐藤達に挨拶をしてきたので、佐藤達も挨拶をした。すると間もなくホームルームが終わり、クラス委員がまた号令を掛けると全員立ち上がってから着席した。そして先生は教室を出ていった。
休み時間になるとクラスの何人かが鈴木の周りに集まり、鈴木に色々質問していた。鈴木については以下の通りだ。
まず、鈴木はこの東高校に来る前は西高校に通っていた。西高校はこの東高校のライバル校でもある高校で、どちらの高校も有名である。更に鈴木の家族は鈴木と両親の三人で構成されていて、鈴木がここへ転校してきた理由は引っ越した為だと言うことだ。
それからしばらくの間は皆の注目を浴びていた鈴木だったが、放課後になると注目を浴びる事も無くなった。
その日の放課後に佐藤が帰り支度をして部室に向かうと、部室の前に鈴木が立っていた。気になる上に部室に用があるので佐藤は鈴木に声を掛けてみた。
佐藤「どうしたの?内の部活に何か用?」
佐藤が声を掛けると鈴木はハッとして佐藤の方に振り返った。
鈴木「その…入部したいんだけど。」
佐藤「ああ、入部希望か。大歓迎だよ、さあどうぞ。」
佐藤にそう言われて鈴木も佐藤と一緒に中へ入った。部室に入ると勤と理子の二人が既に来ていて、二人とも課題をやったり本を読んだりしていた。だが、そんな二人も佐藤達に気がつくとやっていた事をやめた。
勤「あれ?何で鈴木が?」
その後、佐藤が勤と理子に鈴木が入部希望者だと言うことを伝えると二人共すっかり喜んでいた。
勤「いやー、まさか君が入ってくれるとは嬉しいよ。卒業までよろしくな!」
鈴木「こちらこそ。」
それから直ぐに勤は部員の紹介を始めた。そこで佐藤がこの学校で有名な霊能者だと言うことを教えると鈴木は驚いていた。
鈴木「霊能者って本当!?」
佐藤「まあ、一応ね。」
勤「佐藤のおふくろさんとじいさんも霊能者で、家も「佐藤心霊相談所」ってのを開業してるんだよ!」
鈴木「そうなんだ。」
鈴木は何か考え込んでいたが、やがて顔を上げると佐藤の顔をまっすぐ見てこう言った。
「頼みがあるんだ。僕を助けて!」
そう言って鈴木は手を合わせ、頭を下げた。
鈴木の突然の言動に驚いた佐藤は鈴木に詳しく説明するように促した。すると鈴木は顔を上げ、佐藤に話始めた。
鈴木の話した内容は以下の通りだ。
事の始まりは今から数ヵ月前の日曜日。その日鈴木は当時通っていた西高校の友人に誘われて近所の廃工場に肝試しに行った。そこは近所でも有名なミステリースポットであり、自殺した工員の霊が出ると言う所だ。ちなみに鈴木は行きたくなかったらしいが半ば強制的に誘われたらしい。
と言うのも鈴木自身に霊能力があるので、肝試しに行く友人達に自分達を守ってほしいと頼まれたからである。
メンバーは鈴木に奥村凪(おくむらなぎ)、それに中澤秀明(なかざわひであき)の三人であり、その三人で当日に廃工場を訪れた訳だ。だが、廃工場の中を探索してみたが何も出ず、鈴木も何も感じなかったのでお開きと言うことになった。
しかし、その日から鈴木の災難は始まったのだ。探索後に家に帰った鈴木は夢を見た。その夢の中で鈴木は何処かの廃工場にいて、天井からはロープが吊るされていた。そして鈴木は椅子を踏み台にしてロープを首に掛けると椅子を蹴飛ばした。すると鈴木はあまりの苦しさに抵抗してもがく。
そこで鈴木は目を覚ます。だが、鈴木は妙にリアルな夢だと感じていて、起きたときには全身が汗だくだったらしい。しかもその夢をそれ以来毎晩見続ける様になってしまい、落ち着いて眠る事が出来ないで困っているようだ。
以上が鈴木が話した内容だ。話を聞き終わると三人とも驚いてしまっていた。そして勤と理子が鈴木に霊能力をどうやって身につけたのかを尋ねてきた。
鈴木「どうやってって聞かれても…」
佐藤「もしかして家族か親族に霊感が強い人がいるの?」
鈴木「いや、それはないよ。ただ、生まれた時から色んな物が見えていたけど。それより助けてよ!」
理子「でも何でそんな夢を見るようになったのかしらね?」
勤「鈴木が言ってただろ?廃工場に行った日から見てるって!つまりその廃工場で首吊り自殺した奴の霊が鈴木に取り憑いて、自分が自殺した時の感覚を鈴木に味わわせてるんだよ!そうだろ、佐藤?」
佐藤「いや、俺もハッキリした事はまだ言えないけど…でも勤の言う通りかもしれないな。その可能性が大きいと俺も思うよ。」
佐藤がそう言うと勤は喜んでいたが、鈴木は逆に落ち込んでいた。
佐藤「ちなみに一緒に廃工場に行った友達の方は何もなかったの?」
佐藤が思い出したように聞いた。
鈴木「それが何もないって。もし勤君が言う通りなら、どうして僕に憑いてきたんだろ?」
鈴木が困った顔で質問する。
佐藤「それは多分、君の霊感が強いからじゃないかな?」
佐藤が同情する様に言った。
鈴木「じゃあ僕は霊媒体質!?」
佐藤「いや、それはないと思うよ。もし本当に君が霊媒体質なら、今までに何度か取り憑かれてるはずだし。ただ、君の様に霊感が強い人は霊に頼られやすいんだよ。君なら何とかしてくれると思って。だから廃工場で拾った霊も君に憑いてきたんじゃないかな?」
佐藤がそう言うと鈴木は「じゃあどうすればいいの?」と尋ねてきた。
佐藤「そうだね…。君は幸いにも霊媒体質じゃないから自分の身を守る事は出来るはずだよ。もちろん、他人を守る事もね。」
佐藤のその言葉に鈴木は感動した様だった。
勤「でも鈴木の夢の方はどうするんだよ?」
突然勤が夢の件はどうするのかを聞いてきたので佐藤もそれについて再び考え、思った事を話だした。
佐藤「とにかくまずは君を霊視してみるよ。何とか出来るかもしれない。」
佐藤は数珠を出し、早速鈴木を霊視してみた。
佐藤「…………やっぱりそうだ。鈴木には首吊り自殺した男が憑いてる。そしてその場所は…」
佐藤が更に霊視すると、鈴木が言っていた廃工場が見えてきた。どうやら勤の言う通り、かつて廃工場で自殺した男の霊が鈴木に取り憑いた様だ。
鈴木「どうだった?何か分かった?」
鈴木が不安な顔をして聞いてきたので佐藤は霊視結果を報告した。
結果を聞いた鈴木は落ち込もうとしたが、佐藤は鈴木に気をしっかり持てと大声で叫んだ。
佐藤「気をしっかり持つんだ。これ以上落ち込んだら奴に引っ張られかねないからね!」
佐藤にそう言われて鈴木は慌てて気をしっかり持った。
勤「性質が悪い霊なのか!?」
佐藤「うん、あまり良くない。恐らく鈴木も仲間に加えようとしているんだと思うよ。だから毎晩自分が自殺した時の苦しみを彼に味わわせてるんだ。」
佐藤は至急除霊を始めるために数珠を持ち、そのまま鈴木の背中を強く叩いた。すると鈴木の体からロープを首に掛けた男が飛び出してきた。鈴木にも見えているらしく、男がいる方を向いて脅えていた。が、飛び出してきた男はやがて天井をすり抜けて消えて行った。
理子「終わったの?」
理子が心配そうな顔で聞いてきた。
佐藤「とりあえずはね。」
鈴木「えっ?だって、今僕の体から確かに抜けたけど。」
鈴木は先程見たことを思い出しながら佐藤に聞いてきたが、佐藤は話を続けた。
佐藤「確かに抜く事は出来たけど、また君の体に入るかもしれないよ。」
佐藤の話を聞いた鈴木は絶望に満ちた顔をしていた。
鈴木「じゃあどうすればいいの!?」
佐藤「最終処理をする必要があるから僕も直接その廃工場に行かなきゃならない。それも早い内にね。」
その後四人で話し合い、明日の日曜日に向かう事になった。もちろん鈴木も同行の上で。
鈴木「今夜はもうあの夢を見ないで済むかな?」
佐藤「少なくとも今夜は大丈夫だと思うよ。でも明日原因を取り除かない限り何度も見ることになるよ」
その後鈴木は佐藤達に礼を言って帰宅した。それから直ぐに勤は佐藤に質問をした。
勤「今回の霊も除霊出来るか?」
佐藤「ああ…性質が悪いけど絶対に除霊して見せる!」
佐藤が勢いよく言うと、理子は鈴木の方に話題を変えた。
理子「でも驚いたわ!鈴木君にも霊能力があったなんて。」
勤「ほんとにそうだよな!俺も驚いたよ。」
二人が色々話している一方、佐藤は鈴木について別の事を考えていた。
佐藤「彼の霊能力…あれは…おもしろい。」
佐藤はそう考えながらほくそ笑んでいた。
ー翌日ー
日曜日の午後、佐藤は勤や理子、それに鈴木を伴って例の廃工場を訪れた。
鈴木「ここがその廃工場だよ。
佐藤はじっと見ていた。(霊視中)
佐藤「間違いない、確かにここにあの霊はいる。」
理子「あの霊って、昨日佐藤君が鈴木君の体から追い出した霊だよね?」
理子の質問に佐藤は黙って頷く。その直後に割れていた窓から入ろうとしたので勤達もそれに続く。
勤「ひゃあーっ、広いな。」
見渡すと中は外見通りであったが、かなりの広さだった。あちこちほこりだらけでクモの巣も張っていた。
佐藤「あっちだ。」
佐藤はそう言うと奥へ進んだ。その為に勤達も続いて奥へ向かう。
どんどん進んで行くと一番開けた所に出た。そこへ着くと佐藤は天井を見上げる。勤達も同じく天井を見上げたが、そこには梁があるだけで何もなかった。それでも見続ける佐藤が気になった勤は声をかけた。
勤「何か見えるのか?」
佐藤は黙って天井を見続けていたが、勤に質問されて勤の方を向いた。そしてようやく口を開いた。
佐藤「あそこが首を吊った場所だよ。」
そう言って天井の梁を指さした。
勤「あそこが鈴木に取り憑いていた霊が首を吊った所かよ!?」
佐藤「ああ、間違いない。今も奴はあそこで首を吊りつづけているよ。」
鈴木「僕には見えないし感じないけど?」
佐藤「もっとよく見てごらん。見えるはずだよ。」
そう言われて鈴木は佐藤が指さした所をじっと見てみた。最初は何も見えなかったが、しばらくすると鈴木の目に異様な光景が映し出された。
それは天井の梁から男が首を吊ってぶら下がっている光景だ。あまりに異様な光景に鈴木はあわてて目をそらす。
佐藤「どう?」
佐藤の質問に鈴木は焦りながらも答えた。
鈴木「み、見えたよ。く、首を吊ってぶら下がっている男が…。」
鈴木は答えると身震いしていた。佐藤は鈴木を落ち着かせると、今から除霊をするからよく見ておくようにと念を押した。そして数珠を持ち、除霊をするために首を吊っている男と話し始めた。
佐藤「あなたは今から二十年前にそこで自殺をしましたね?」
佐藤が話し掛けるとぶら下がっていた男は喋りだした。
男「その通りだ、よく分かったな。」
男が喋りだすと佐藤も話を続けた。
佐藤「あなたが自殺した原因はここで働く事が辛かったからじゃないですか?かなり苦労した様ですが…。」
佐藤が同情するように言うと男は叫ぶように喋りだした。
男「そうだ。俺はこの職場が嫌だったのさ!何をやってもうまくはいかないし、上司からは責められてばかり!そんな事が繰り返しの毎日だったんだ…。」
男は話しながら涙を流していた。
佐藤「辛かったお気持ちは分かります。ですがいつまでもそのままではここに縛られて怨霊化してしまいますよ。」
男「だとしても俺にはどうする事も出来ないんだ。それに俺は何よりも俺をここまで苦しめたこの工場の奴等が許せないんだ!上司はいつも俺の失敗を責めてばかりで、同僚は俺の事をバカにしやがる…。」
男は話しながら当時の事を思い出して顔をしかめていた。
男「だから俺は嫌になってここで自殺してやったんだ。俺の苦しみをやつら全員に思い知らせてやる為にな!そして俺自身がこの苦しみから逃れるために…。それなのに俺は死んでからもずっとこのままで、最近になってから自殺した俺を見ようとここを訪れる奴まで出る始末だ!!」
男は怒鳴るように叫んだ。それまで黙って話を聞いていた佐藤はそこで口を開いた。
佐藤「それに怒ったあなたはここを訪れる者を自殺に導き、自分の仲間に加えようとしていたんですね。」
男「ああ、そうだ。先日ここを訪れたそいつが一番取り憑きやすかったからそいつに取り憑き、俺の仲間に加えて俺と一緒にここに来るやつらにも俺が味わった苦しみを味わわせてやろうと思ったのさ。」
男は鈴木を見ながら言った。
佐藤「確かにあなたの辛いお気持ちは痛い程に分かります。ですがだからと言って、誰かを自殺に追い込もうとするのは止めてください。そんな事をしたら、あなたは成仏出来ずに永遠にそこでぶら下がりながら苦しみ続ける事になりますよ。」
佐藤は訴えかける様に男に伝えた。すると男は「うるせぇ!黙れ!お前みたいなガキに俺の気持ちが分かるか!」と佐藤を怒鳴り付ける。それでも佐藤は男をしばらくの間説得し続けていたが、男の考えは変わらなかった。その為に佐藤は成仏させるのは不可能だと考え、遂に強硬な手段を取ることにした。
ジャラッ。
佐藤は数珠を両手にかけ、印を結んだ。
佐藤「どうしても説得に応じないようなら今からあなたを除霊します。それでもよろしいですか? 」
男「ふざけるな!お前ごときに除霊なぞされてたまるか!」
男はそう叫ぶと佐藤に襲い掛かってきたが、佐藤はその動きを自身の霊能力で押さえる。
鈴木「すごい…こんな事ができるなんて!」
今までの様子をじっと見ていた鈴木は佐藤にすっかり感心する。
男「くっ、う…動けない!やい、妙な事は止めろ!!」
佐藤「さあどうする?今の状態だとお前には何も出来ないだろうから二つの選択肢を与えてやる。まず一つは俺が言った通りに自分の考えを改め、納得した上で鈴木からも離れて成仏すること。もう一つはこのまま地獄に落とされること。 さあ、好きな方を選べ。」
男は佐藤の出した二つの選択肢に反対だったが、佐藤の霊能力を考えて答えを導き出した。
男「分かった。お前の言う通りに考えを改める。だから俺を助けてくれ!」
佐藤「じゃあ彼からも離れるな?」
男「もちろんだ。だから俺を… 」
佐藤「よし、いいだろう。それじゃあ今から道を作ろう。」
そう言うと佐藤は手を合わせた。すると光が現れ、男の体を包んだ。さらにその途端、男の首に掛かっていたロープがするりと解けた。
男「おおっ、縄が…」
佐藤「さあ、あの光に進むといい。天国に行けるだろう。ただし、さっきも言った様に彼から離れるんだぞ!」
男「はい、色々と迷惑をかけてしまいまってすいませんでした。ありがとうございました。」
男は佐藤に謝ると光の方に向かっていき、浄化した。
佐藤「よし、終わった!」
鈴木「すごい、すごい!圧倒されちゃったよ!! 」
鈴木は佐藤が除霊を終えたのを見届けると興奮しだした。しかし佐藤はそんな鈴木を見るとクスッと笑い、「今に君にも出来る事なんだよ。」と言った。
こうして今回の事件も無事に解決し、鈴木もそれ以来悪夢を見る事は無くなった。そして佐藤は鈴木に興味を持ち、今後の彼の成長に期待した。
作者おにいやん
今回は佐藤達に新たな仲間が加わる話です。その新たな仲間を巻き込んでの今後の話に是非期待してください!
最後まで読んでくださりありがとうございました。