中編5
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カラオケ屋のバイト

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俺、カラオケボックスの深夜バイトをしてるんだけど、

どうやら、うちの店、出るらしい。

俺は幽霊なんて信じてなかったんだけど、

他のバイトたちは○番の部屋には女の霊がいる!とか、

○番の部屋で男の霊を見た、とかって騒いでるわけさ。

高校生が多い職場だし、そういうオカルト系の話が好きなだけかもしれないけど、

俺の働いてるカラオケ屋では、そういう話がやけに多かった。

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先日のバイトでのこと。

うちの店は午前5時閉店。

でも、そこから全部の部屋をまわってカラオケの電源落としたりしてたら仕事が間に合わんってことで、

午前4時くらいにはもう、客を入れない部屋を決めて、先に部屋を綺麗にしてカラオケの電源落としていく。

その日俺は、一人黙々とその作業をやってたんだ。

部屋に入って、電源落として、テーブル拭いて、次の部屋。

部屋に入って、電源落として、テーブル拭いて、次の部屋。

そして、ちょうど店の一番奥あたりの部屋を清掃してた時

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「ッチ……ッルォ…」

みたいな、途切れ途切れの声が部屋のスピーカーから聞こえてきた。

やべっ、まじで幽霊出るのか!

半年くらい働いていて、初の遭遇!?

てか、幽霊って本当にいたんだ!!

って思って心臓が止まった。

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でも、ふと冷静に考えて、俺、気づいたんだ。

他の部屋のワイヤレスマイクから送信されてる電波が、

この部屋のマイクの受信機に届いただけじゃないか、って。

まだ閉店してるわけじゃないから、他の客もいるわけだし。

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そんで、俺の清掃してる部屋のマイクの受信機を見たら、

見事にドアのほう向いてる。

通路挟んだ向かいの部屋から混線してるんだ。

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幽霊の正体見たり枯れ尾花。

馬鹿な高校生め。何が幽霊だ。

ただのマイクの混線じゃねーか。

店長に言って、混線しない様に受信機の場所変えてもらわないとなー、なんて考えながら、

向かいの部屋の客、どんな連中なんだろうと思って、ちらっと見たら、

居たんだよ。

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客じゃない。

真っ黒な影がドアガラスにへばりついて、

こっちを、見てる。

直ぐに顔を背けたが、嫌な視線がこっちに突き刺さってくる。

カラオケにまで来てドアにへばりついてる人間ってのは、それはそれで怖いけど、

でもアレは人間じゃない。

直感した。あんなに嫌な視線を向けられたのは人生で初めてだった。

「…ッルォ…コ…ッルォ…」

こっちの部屋のスピーカーからまた声がする。

一瞬、向こうの部屋を見そうになる。

でも、見たらダメだ。

やばい、見たら、絶対やばい。

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絶対見ちゃいけない。

俺は幽霊を信じてなかったけど、

知り合いに、そういうのが好きな奴がいたんだ。

そいつが、霊にあったら目を合わせちゃいけないと話してくれたのを思い出して、俺は目を背け続けた。

そいつ曰く。

「霊は、自分の存在に気づける奴を探しているんだ。」

「だからもし霊が見えても、霊が見える、感じ取れるって霊に悟られない様にしなくちゃいけない。」

「じゃないと、取り憑かれる。」

「取り憑いた霊は、取り憑いた相手を自分たちの世界に引っ張るんだ。」

「霊の、自分たちの世界、つったら、まあ、どうなるかはわかるよな?」

…取り憑かれる。引っ張られる。

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取り憑かれるのは、嫌だ。

引っ張られるなんて、もっと嫌だ。

そんなことを考えながら部屋の掃除を続けてたんだけど、

相変わらず、ずーっとスピーカーからは

「…ッルォ!…コッ…ルォ!」

って、声がする。

本当に勘弁して欲しかった。

怖くてしょうがなくなってた。

霊以外もうあり得ない。

だって、俺、部屋に入って最初に、

スピーカーの電源、落としてたんだ。

恐怖に支配されながらも、なんとか無視して、

部屋の掃除を済ませて、

いざ部屋を出ようと思ったその時、気づいた。

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向こうを見ないと、

ドアのほうを見ないと、

出られない。

変に目線を背けてもバレる。

どうすれば。

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そんなことを考えている間に、スピーカーからの声は途切れ途切れじゃ無く、

文章になってく。

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「コッチヲミロ…コッチヲミロ…」

やばいやばいやばいやばいやばい!

もうどうしようも無いと思ったその時

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「プルルルルル、プルルルルル」

部屋に取り付けてある内線が鳴った。

いままでスピーカーから響いてた声が急に止んだ。

向かいの部屋からも、嫌な視線が無い。

大丈夫だ。

向こうの部屋を見てみる。

大学生だろう、チャラそうな男たちが部屋で騒いで、歌ってる。

緊張が、一気に緩んだ。助かった…。

同僚が、内線を使って様子を聞きにかけてきたんだ。

内線電話を取る

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「オイ キコエテル ダロ」

内線電話から、あの声。

不意に、目の前に黒い人影が現れる。

ズルい、向こうの部屋にいたんじゃないのかよ!

急いで目を逸らそうと動こうとした、でも

もう遅かった。

ただの影なのに、黒いだけの存在なのに、

目が、合った。

間違いない。目なんて無いのに、目が合ったと納得してしまった。

部屋のスピーカーは

「ヤッパリミエテル」

「ヤッパリミエテル」

大音量で繰り返し続けてる。

こうなったら、もうどうしようも無い。

取り憑かれる。

もう、だめなのかな、そう思ったら、

なぜか、逆に急に肝が座った。

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「うるせぇ!見てんじゃねぇよ!」

そう言って、俺は目の前の影に殴りかかった。

いや、幽霊に殴りかかっても、殴れないだろうけど。

もう、破れかぶれだった。

ぶんぶんと腕を振り回す。

消えろ、消えろって念じ続ける。

そんなの、幽霊に効くわけない。

俺、元々霊感も無ければ、凄い念力持ってるわけでもないし。

でも、相手は、魂だけの存在。

こっちは、魂と、肉体、両方持ってるんだ。

魂しかない奴に負けてたまるかよ。

変な精神論だけど、その時の俺は、

もう、幽霊なんか怖くない。

俺のほうが強い!

そう信じて疑わなかったんだ。

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結果はどうだって?

あいつはずっと、今もこっちを見てるよ。

Concrete
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怖くてカラオケもう行けねぇぇー!!(。>д

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