先日、娘を連れて歯医者に行ったときの事......
待合席には若い女性だけで4時に予約を入れていた娘の番はすぐにまわって来て、
娘は診察室に入って行った。
私は待合席に座りボンヤリテレビから流れるニュースを観ていた。
夕方4時過ぎ、学校や保育園から帰って来た子供たちが母親に連れられ次々にやってきた。
キッズスペースにはアッと言う間に4人の子供が集まりブロック遊びなんかをして遊んでいた。
そして、4、5才くらいの女の子と弟らしき兄弟が母親と一緒にやってきた。
女の子は入ってくる時に名前を連呼していた。
「しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん.......」
私はギョッとしたが、女の子よりも少し小さい、しんちゃんであろう男の子は手をつないでもらって楽しそうだったので、なんとなく感じた違和感を忘れてしまった。
キッズスペースはこの兄弟が加わり6人になった。
女の子はブロックで遊んでいる間も絶えずつぶやいている。
「しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん.....」
しんちゃんは絵本をニコニコしながらみていた。
少しして女の子は遊びに夢中になり、いつの間にか無言でブロックをいじっている。
(静かになった?)
ふと、キッズスペースを見るとしんちゃんがいない.......
トイレにでも行ったのだろうとその時は思った。
女の子は思い出したかのように、また「しんちゃん」と連呼しはじめた。
(また始まった...)
しんちゃんは絵本をみている。
(......?いつ戻ってきたのかな?)
トイレに行くには私が座っている席の前を通らなくてはならない。
私の前は誰か通ったっけ?
背筋に冷たい感触が走った、私は何か忘れている?
兄弟の母親は女の子を呼んで何か話をしている。
女の子は話に夢中になり今は「しんちゃん」と言っていない。
冷や汗が流れる、でも確認せずにはいられなかった。
キッズスペースを見ると、しんちゃんはいなかった。
そこに治療が終わった娘が戻ってきた。
私は思わず立ち上がり、娘を連れて受付の前に移動した。
最初に感じた違和感、兄弟の母親は女の子にはスリッパを履かせ女の子の名を呼び女の子とだけ話をしていた。
女の子はまた呟き始めた.....
「しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん、しんちゃん.........」
私は娘の次の予約をして歯医者を出るとき、キッズスペースをチラッと見た。
そこにはニコニコと嬉しそうに絵本を見るしんちゃんの姿があった......
名前を呼ばれていないと存在が希薄になる「しんちゃん」は
一体何者だったのか.......
作者伽羅
お久しぶりです、仕事とPTAの当番で忙しくなかなか投稿できないです。
これはつい先日に体験した話です。
あまり怖くはないのですが不気味だったので投稿しました。